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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
一章 第一部 森の女王
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六話 魔獣

 消えた食料問題を解決する為にいざ魔獣を狩ろうとした時、それに気付いた。


「え、いつもフェニィが魔力を垂れ流してるのって、わざとやってるわけじゃなかったんだね……」


 フェニィは森で出会った時からずっと朦朦たる魔力を体から発していたが、魔獣避けの為に意図的に放出しているものと考えていたのだ。

 コベットに着く前に知ることができて良かった……。

 魔力耐性が無い人なら意識を失うレベルの放出魔力なので、町がパニックになるところだったではないか。


 しかし、危機本能的にも物理的にも魔獣を寄せ付けないフェニィの魔力は、魔獣狩りには実に不向きだ。

 魔獣を追いかけ回せば狩りは可能だが、やはり向こうから近付いてこないとなると効率が悪い。

 路銀を新たに獲得する為にも、魔獣を沢山狩って素材をコベットで売却せねばならないのだ。

 何をするにしても――まずはフェニィに魔力操作を教えることが肝要だろう。


「魔力操作の練習はとにかく魔力を動かし続けることなんだ。体の周りを魔力の膜で覆って、常に流動させ続けることに慣れるのが基本だね」


 僕の言葉を聞くが早いか、フェニィはもう自分の体表を魔力膜で覆っている。

 ……飲み込みの早さが尋常ではない。

 もしかしたら魔術系の〔神持ち〕であることが関係しているのかもしれない。


 今まで神持ちの人間とは幾人か出会ったが、そういえば魔術系の神持ちと会ったことは殆どない、ということに今更ながら気付いた。

 思い返せば、フェニィの潜在魔力量は他の戦闘系の神持ちなどと比べてもさらに高い。

 神持ち自体が、常人と比べると桁違いの魔力量だというにも関わらずだ。

 魔術系の神持ちの特徴なのだろうか?

 ……情報が少なすぎて判然としない。


 そして、なぜ僕の魔力量は――そのフェニィと()()()()()()()()の魔力量なのだろうか?

 教国の聖女のように〔治癒神の加護〕持ちならともかく、治癒の加護でしか無いのだが。……とはいえ、魔力があるに越したことはない。

 

 潜思の海から戻ってきた僕は、フェニィに説明を続ける。


「それから応用になるけど……魔力操作に慣れたら、体の皮膚ごと内在魔力を剥ぎ取って魔力を一箇所に固めるイメージをするんだ。これは想見が明確であるほど幻痛が大きいけど、習得すれば洗脳術への対抗策になるはずだから」

「!……必ず、習得する」


 洗脳術には苦杯の記憶があるせいだろうか、フェニィの魔力操作への練習意欲は鬼気迫るほどに高かった。


「まぁ、それはおいおいということで、とりあえず魔獣を狩って食事にしようよ」


 フェニィが放出魔力を抑えた影響なのか――早くも、少し離れたところで一匹の魔獣が僕らの様子を窺っている。

 とさかの大きな鶏、といった見た目のその魔獣は、僕らを警戒しながら観察している様子だったが、僕は脅威を感じさせない足取りでのんびりと近付いていった。

 数メートルまで距離を詰めた時、わずかに魔獣の気配が変わった。


 足の筋肉が僅かに膨張し、体を軽く沈め、魔力がとさかに集まっていく。 

 僕が()()()()()()に、魔獣がとさかを飛ばしてきたので――魔獣に向かって走りながらそれを左手で掴みとり、右手で魔獣の首を握り折った。

 魔獣を持ってフェニィのところに行くと、不思議そうに尋ねられた。


「……以前に、遭遇した、個体なのか?」


 フェニィの言いたい事は分かる。

 魔獣とは、加護を持った獣の通称だ。

 神の名が付く加護はその種類も少ないが、通常の加護となると、その種類はおびただしい数となる。

 魔獣は所持する加護によって特徴が異なり、外見から攻撃手段、習性に至るまで千差万別だ。


 よって魔獣と遭遇する場合は初見の個体の確率が高くなり、その攻撃手段も本来であれば予想がつきにくい。

 ちなみに生物的観点から言えば、鶏のとさかは血液が通っているから赤く見えるのであり、とさかを飛ばすなどというのは、もはや訳が分からないことではある……。


 フェニィが疑問に思うのも当然だろう。

 僕は魔獣の行動を()()()()()行動していたのだから。


「初めて見る個体だったけど、よく観察すれば何をしようとしているかは大体分かるよ。目線や筋肉の動き、呼吸の変化とかもあるけど、魔獣が相手だとやっぱり〔魔力の変化〕が一番分かりやすいね」

「……魔力の変化が、感知、できるのか?」


 フェニィなら出来るのでは? と思っていたが、どうやら出来ないようだ。


「うん。相手の魔力量もなんとなく分かるよ。あと、ぼんやりだけど、魔力に色が見えるというか気配が見えるというか……僕にもよく分からないんだけど、相手の加護が戦闘系かどうかぐらいは分かるよ」

「……それは、すごい、な。聞いたことが、ない」

「僕の妹も似たようなことが出来るんだよ。なんか魂の汚れが見えるって言ってた」


 ――しかし、魂の汚れってなんだろう? 

 未だによく分からないが、僕も自分の感じてるものを十全に説明出来ないので、感覚的なものなのだろう。

 可愛い妹セレンが「にぃさまの魂はぴかぴかです」と言ってくれて、よく分からないながらも嬉しかったのだ。


「ともかく、買取屋で売れそうなとさかが無傷で手に入って良かったよ、こういう一品物は人気があるからね」


 手に入れたとさかは、鋭利そうな見た目に反して切れ味は悪く、どちらかというと打突武器に近そうだ。

 使い道は謎だが、この手の素材はそこそこの値段で売れることを僕は経験で知っていた。


「この魔獣の肉も、とりあえず焼いて食べてみようか」


 鶏がベースの魔獣とはいえ、必ず食べられるとは限らない。

 毒や呪いに関係している加護を持つ魔獣を食べれば、命に関わるからだ。

 本来は、火を使う魔獣のような加護の推測しやすい魔獣でもない限り、旅の道中で魔獣の肉を食べることは賭けに近いものがあるのだ。


 僕の場合は、魔獣を視認すればおおよその加護の見当がつく上に、今回の魔獣はとさかを飛ばしてくるぐらいだ――この肉が可食可能な公算は高いだろう。

 万一、魔獣の肉が毒性を持っていたとしても、僕は毒を意図的に摂取し続けることで毒に対する耐性を得ているので問題はない。


 ……毒肉を摂取し過ぎて、生死の境をさまよう羽目になってしまったりもしたが、毒耐性の体得は危険を冒すだけの価値はあった。

 もしフェニィが体調を崩すようなことがあっても、僕の治癒術で治せるので心配は無いだろう。


「調味料とかは無いから羽を(むし)って焼くだけになるけど、まずは確認の為に僕が食べてみるね」


 炎術ショックによって調味料も失ったのが悔やまれる。

 万能調味料とでも言うべき〔塩〕があるだけでも全然違うのだが。

 肉の臭みを誤魔化す為の〔香辛料〕なども、もちろん存在しないので、コベットに着いたら必ず買い揃えるとしよう。


「……肉を、焼いて、食べるのは、久しぶりだ」


 ……調理どころか、そんな次元の話だったのか。

 本人にもどうしようも無かったのだろうが、なんという食生活だ……。

 僕はますます、フェニィに苦行を強いた洗脳術への憎しみを強くした。

 同時に、コベットに着いたら美味しい食事をご馳走しようと心に誓った。


 そして焼きあがった鶏肉を食べ始めたが、僕は思わず呟いてしまう。


「かたい……」


 魔獣の肉は「全身これ筋肉」と言わんばかりに筋張っており、肉の表面は石のように固く、中身はパサパサしていて、率直に言って――食べるのが苦痛なくらい不味い。

 とさかの素材は良かったが、さすがに肉の味まで美味しいなどと都合の良い話は無かったようだ。

 料理には少し自信のあった僕としては、こんなものを他人に提供するのは、はなはだしい忌避感がある。

 だが、この状況下では涙を呑むほかは無いだろう。


 せめて鍋だけでも残っていれば、すじ肉が柔らかくなるまで煮込むくらいは出来たのだが、鉄の鍋まで焼失させるとはいったいどんな火力をしているのか……。

 ……フェニィは文句も言わずに黙々と食べているが、調味料を揃えた暁には二度とこんな代物を食べさせはしない、と僕はまた心に固く誓った。


 ――それから、コベットまでの道中。

 昼は歩いて距離を稼ぎつつ、途中で遭遇した魔獣を狩ったり、夜になるとフェニィに魔力操作のコツを教える日々が続いた。

 そしてその甲斐あってか、コベットに辿り着いた頃にはフェニィの魔力操作の練度は飛躍的に上昇していた。

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