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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 刻の支配者

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五八話 あだ名

 僕らはまたジーレの部屋に遊びに来ていた。

 この城にはジーレと同年代の子供はおらず、ジーレといちばん歳が近いのが僕らということになる。

 セレンとレットの連絡待ちで暇を持て余しているのもあり、ジーレの話し相手がてら、僕らはよく部屋を訪れているのだ。


「フェニィおねぇちゃんって、なにかアダ名とかあったの?」


 僕が『アイちゃん』と呼ばれていたのを、ルピィがバラしてしまったのが切っ掛けで、そんな話になっていた。

 ジーレはフェニィとの一件以来、よくフェニィになついており、フェニィもそれを無碍にはしていない。


「……殺戮人形や、死滅の女王と呼ばれていた」


 ――それはアダ名と呼んでいいのだろうか? 

 前者のやつは初めて聞いたが、研究所にいた頃の呼び名だろうか? 

 自分たちで感情を奪っておいて〔人形〕呼ばわりする連中に腹が立ったが、肝心のフェニィがそれほど気にしていないのは良かった。


「なんかあんまり可愛くないね……。そうだ、ジーレが考えてあげるね!

 う~ん、殺戮人形……さっちゃん。死滅の女王……しーちゃん……」


 えええっ! それをベースにするのか!?

 それは……いくらなんでもまずいだろう、とフェニィを見てみると――まさかの満更でもなさそうな様子だ!?

 これはいけない。このままでは将来――


『フェニィさんのアダ名の『さっちゃん』って、どこから来てるんですか?』

『……殺戮人形だ』

『……(ドン引き)』


 ――なんて事になりかねない!


「いや、待って。こういうのはシンプルな方が良いよ。『フェニィちゃん』で良いんじゃないかな? ねぇ、フェニィちゃん?」


 ジーレの暴走を止めつつ別案を出したまでは良かったが、軽い気持ちで「フェニィちゃん」と呼んだところ、突き刺さるような恐ろしい視線で「ノー」を返されてしまった。


「そうだね! じゃあ、ジーレもフェニィちゃんって呼んでもいい?」

「……ん」


 空気を読まないジーレが無邪気に聞いたが、あっさりとオーケーを貰っていた。

 どうやら、僕がフェニィちゃんと呼ぶのは駄目らしい……。


「――フェニィちゃんは、なんで死滅の女王とか呼ばれてたの?」


 その質問を切っ掛けに、僕らはそれぞれ過去の概略について説明した。

 ……ジーレの身に起きた事はよく知っていたが、ジーレの方は全然知らないというのは公平性に欠けるのだ。


「……ぅぅっ」 


 ジーレは、僕らの過去の話を聞いて泣いていた。

 子供には刺激が強い話の数々だったかもしれない。


「――おにぃちゃんとルピィちゃんは不幸だよ!」


 突然、断言されてしまった……他人にそうずばりと言われると、なにやら落ち込んでしまう。

 ルピィの方はジーレの勢いに少し引いていた。


「フェニィちゃんはもう――輪をかけて不幸だよ!」 


 ……フェニィもどうやら落ち込んでいるようだ。

 僕自身は、自分がそれほど不幸だとは思っていないが、そのように決めつけられると動揺してしまう。

 もしかして、自分は不幸なのではないか? と疑ってしまうのだ。


 それでなくとも、不幸な人間に「お前は不幸だ」と自覚させるのは残酷な事ではあるまいか?

 貧乏な人がいたとしても、周りが全員貧乏ならば、自分が貧しいと気付く事はない。……それは〔自分が貧乏だ〕と自覚しながら生きているよりは、幸せな事ではないのか……?


「――そしてジーレは果報者だよ!」


 いやぁ……それはどうだろう……。

 物心ついた時からずっとベッドの上ってのは、どう考えても幸せとは言い難い。

 幸不幸の価値観は人によって違うので一概には言えないが、君は相当不幸レベル高いと思うよ、ジーレ……。

 落ち込んだり、引いたり、言葉を発せない僕らを尻目に、ジーレは止まらない。


「ジーレは世界で一番不幸だなんて思い上がってた! 勘違いしてた自分が恥ずかしいよ!」


 ジーレは〔神持ち〕にしてはまともだと思っていたけど、この子も結構()()なぁ……。


「……そんなことないよ。僕なんか皆に比べたら、毎日がお祭りの幸せ者だよ」

「そんなことないもん! ジーレの方が幸せだもん!」


 なぜか、どちらがより幸せなのかを競う場になってしまった。

 いったいどうしてこうなってしまったのか……。


明日も夜に投稿予定。

次回、五九話〔魔の海〕

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