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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 刻の支配者

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五一話 古参との対立

 ナスル王――いや、ナスルさんに連れられて、僕らは別室へと移動した。

 短剣神のロブさんも一緒だが、彼は僕が正体を明かしてから完全に放心状態になっている。……繊細なメンタルをしているようだ。


「まずはお礼を言わせてもらおう。君たちには世話になった……本当にありがとう」

「いえ、僕らの方こそ、色々嘘を吐いていて申し訳ありませんでした」


 ナスルさんと僕が和やかに会話を始めた直後、沈黙を保っていたロブさんが――僕の言葉に激しく反応した!


「そうだテメェ! 何がアイちゃんだ、ふざけやがって!!」


『何がアイちゃんだ、ふざけやがって』は、まさに僕の台詞だったが、嘘を吐いていたのはこちらに非があるので素直に謝罪する。


「ロブさん、すみませんでした……」

「謝りゃいいってもんじゃねぇぞ、テメェ! この俺を弄びやがって!」


 ……弄んだ記憶は無いのだが、何故か、怒髪天を突かんばかりに怒っている。

 ナスルさんたちとはこれから仲良くやっていきたいと思っているので、どうしたものかと考えていたら――


「うるさいなぁ……呪神の存在に何年も気付きもしないような間抜けは黙っててよ!」


 ルピィがクリティカルに酷い発言をしてしまった……!

 正直、僕も少し思っていたことだが……ロブさんも悔やんでいるかもしれないので、傷つけるようなことは言えない、と思っていたのだ。

 ……ただでさえ良くない関係が、ますます悪化してしまうではないか。


「くっ……!」


 ロブさんも思うところがあるのか、言い返せないようだ。

 弱っている相手を見過ごさないルピィが、更なる追撃をしようとしているのを察して――僕は話題転換を図る。


「そういえばナスルさん。僕の母さんの事をご存じのようですが、母さんとは親しかったのですか?」

「そうだな……サーレさんはこの街では有名人でな。当時、複数の若者グループが勢力争いをしていたところを、サーレさんが片っ端から制圧してまとめあげていたのだ。腕っぷしが強いうえに目も眩むような美人で、それでいて気取らず、いつも笑顔が絶えないサーレさんは皆の憧れだった。……無論、私も憧れていたよ。娘のジーレの名も、サーレさんのように強い子に育つようにあやかってつけた名だ」


 母さんは神官だったのに――「優しい子に育つように」ではなく「強い子に育つように」なのか……。


「昔の私は〔重持ち〕ということもあり、喧嘩では負け知らずでな。図に乗って悪さをしてしたところを、サーレさんに内臓が飛び出るかと思うくらいにボコボコに殴られたものだ」


 ナスルさんは笑ってそう言ったが、僕にはとても笑えなかった……。

「内臓が飛び出る」ということは、母さんはこの〔熊のような大男〕であるナスルさんの腹部を「ボディ! ボディ!」とばかりに執拗に殴打したのだろうか?

 ……想像したくない画だ。


 しかしこれで一つ疑問が氷解した。

 僕の顔を見た時「げえぇっ」とか言ってたのは、きっとそのせいだろう…………しっかりトラウマになっているではないか!


「それは……母さんが、すみません……」

「なに、私の鼻を折ってくれたことに礼を言いたいくらいだ。……武神と結婚したと聞いた時は驚いたが、そうか……そんなことになっていたのか。あの武神が民間人を虐殺したと聞いた時は、何かの間違いだと思ってはいたが……」

「……ええ。父さんはずっと帝国との戦争に反対していましたから、将軍にとって目障りだったのでしょう」


 それに父さんは建国王以来の〔武神の加護持ち〕ということで、無能な将軍を打倒して父さんを王にする、という企ても聞いた事があったぐらいだ。

 将軍からすれば〔目の上のたんこぶ〕どころではなかった事だろう。


「私はずっと軍国に対して機を(うかが)っていたが、今回の一件で、もはや完全に堪忍袋の緒が切れた。アイス君たちが軍国と敵対するつもりならば好都合だ。私は将軍を打倒するべく挙兵するつもりでいる――アイス君たちも、私に協力してくれないか?」


 ――僕たちはこの為にここにきた。

 理想通りの展開になってはいるが、僕にはまだ迷いがあった。

 ……もちろん仲間たちの事だ。


 これからついに軍国との戦争が始まろうとしている。

 レットには「その時は、必ず俺に声を掛けろ」と言われているのだ。

 僕が誘えば、レットは快く了承してくれるだろう――そう僕は確信している。

 そしてレットもまた、軍国により家族を失っており、レット自身にも闘う理由は十分にある。


 セレンも僕と同じ当事者だ。

 いつか迎えに行くことを約束しているし、その「いつか」は今を置いて他にはないだろう。

〔刻神の加護〕の力を制御出来るようになっているかは分からないが、それでなくともセレンは強い。

 いざとなれば、僕が守る必要すらないかもしれない。


 だが、ルピィとフェニィはどうなのか?

 僕ら兄妹やレットとは違い、軍国と積極的に争う理由はないのだ。

 軍団長は強く、命を落とすかもしれない――そんな戦いに、何の利益もない戦いに、参加させてもいいのか?


「――アイス君、まさかボクたちを〔のけ者〕にしようとか考えてないよね?」

「……」


 僕の葛藤は当然のように見抜かれていた。

 ルピィは「まったくもう……」という眼で僕をねめつけ、フェニィは僕が迷っていたことに対して不機嫌そうだ。


「……まさか。頼りにしてるよ、二人とも」


 僕はいつも通り平常運転で誤魔化した。

 ルピィは「にやり」と、フェニィは「当然だ」、と――二人も、いつも通りの態度を示していたので僕は安心した……まったく、たしかに二人は頼りになる。


「――ナスルさんには、こっちからお願いしたいくらいですよ。僕の仲間にあと二人〔神持ち〕がいますので、こちらが全員合流してからナスルさんに動いていただければ、と思います。……軍国の軍団長についてはこちらが受け持ちますので」

「神持ちがあと二人もいるのか!? とんでもないな君たちは……」


 ……それについてはまったく同意だ。

 人数だけなら、ロブさんやジーレも加えれば軍国の保有する神持ちの人数と遜色ないはずだ。

 本当に、国家転覆が現実味を帯びてきた――


「――けっ! なぁにが『軍団長についてはこちらが受け持ちます』だ! 〔治癒持ち〕のテメェも戦闘に参加するみたいにホザくんじゃねぇ!」


 僕に悪感情を持っているらしいロブさんが、僕の言葉に噛みついてきた。

 しかしロブさんの言う事ももっともだ。

 治癒持ちが前線で闘うとは中々思うまい。


「はん! アイス君はキミ程度なら片手で完封出来るくらい強いんだよ? 寝言は寝てから言いなよ」


 ルピィがまたもやロブさんを口撃している……ロブさんは口こそ悪いがそれほど間違った事を言ってないのだから、あまり派手に挑発するのは止めてほしい……。


「んだとぉ……! 上等だ、表へ出ろテメェ!」


 そう言って、僕を力強く指差すロブさん。

 ――僕が挑発したみたいな空気になっているのは何故だろう……?

 示威行為は好きではないが、これから共闘することを考えれば、ある程度は武力を示しておいた方が良いのかもしれない。……しかし、ロブさんに敗北するイメージは湧かないが、勝つにしても勝ち方が問題だ。


「生まれてこの方負けたことが無い!」という感じのロブさんを、徹底的にやり込めてしまうのはまずい。

 エリート街道を走ってきた人間は挫折に脆いと聞く。

 下手な勝ち方をすれば、これから先に控えている軍国との戦争に影響が出る恐れがあるのだ。


「……そうですね。では明日あたり、ロブさんの胸をお借りできますか?」


 今すぐというわけにはいかないが、明日ロブさんが落ち着いた時にでも、さらりと手合せをするとしよう。


「いい度胸だ、その言葉忘れるんじゃねぇぞ!」


 ロブさんはひとまず矛を収めてくれて、荒々しくドスンと椅子に座った。


「ふむ。そういうことなら丁度いい。君たちはしばらくこの城に滞在していなさい。ジーレにも会わせたいし、我々の今後についても計画を詰める必要があるからな」


 先ほどからロブさんが騒いでいるのを気にも留めずに、ナスルさんは僕らに滞在を勧めた。

 ……ひょっとして、ロブさんはいつもこうなのだろうか?


次の投稿は、明日(12/25)20:30以降になります。

次回、五二話〔暴かれた過去〕

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