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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 眠り姫

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四六話 説得

 どこまでも落ち込み続ける僕に――うきうきした瞳をしたフェニィが、いつになく弾んだ声で僕に告げる。


「……私も、化け物と呼ばれていたぞ」


 ……反応に困る。

 化け物扱いを受けていたのが自分だけではなかった事を、喜んでいるようなのだが……。「化け物同士でお揃いだね!」と返すべきなのだろうか?

 それは化け物呼ばわりを受け入れる事になるのではなかろうか? 


「……う、うん。そうなんだ」


 ……結局、僕は当たり障りのない答えを返すことしかできなかった。

 僕のモチベーションはもはや動きたくないほどに低下していたが、気を取り直して今後の方針について話し合うことにする。


「……もう、僕の話はいいよね、ルピィ?」

「う、うん……なんか、ゴメンね……」

「いいんだ……僕が、全部悪いんだ……」


 そうだ。僕が全て悪い。

 結局、僕の肥大化したプライドは、母さんとバズルおじさんの死という代償によって、粉々に砕け散った。

 僕ごときが天才などと全くお笑い草だ……僕のような奴は、もっと早く誰かに叩き潰されておくべきだったのだ。

 ――僕は気を取り直して話を続ける。


「……この人の話で内通者の名前は分かったけど……この人は持っていた手紙の意味も知らないようだったし、本当にただの仲介人の扱いだったみたいだね」


 この男は、魔力タンクの立場を利用して手紙を仲介していただけで、詳しい情報をまるで持っていなかったのだ。


「――この人の付き添いって形で、僕が城に潜入するのはどうかな? 眠り姫に近付くことさえ出来れば何とかなるし」


 治してしまえば、こっちのものなのだ。

 男が裏切り、僕がナスル王の配下に包囲されて捕らえられるリスクはあるが、いざともなれば逃げるだけなら何とかなるだろう。


「う~ん……悪くはないけど、アイス君一人だと心配だなぁ……よし、久々にアレでいこうか!」

「……あれとは何だ?」


 フェニィは疑問の声を上げたが、僕には分かった。


「変装術かな? 僕としてもルピィが付いてきてくれると安心ではあるけど」

「そうそう。ちょうどよくそこで気絶してるし、顔の型を取っちゃおう」


 ――僕とルピィは二人で旅をしていた頃、引退した盗賊に師事し、様々な技術の教えを受けていた事がある。

 ルピィの才能を磨けば、これから先きっと役に立つはずだ。……と、二人で相談して決めたのだ。

 僕もルピィのオマケながら、それなりに使える技術を習得していったが――ルピィは桁違いだった。

 あらゆる技術をあっという間に習得し、ルピィ独自の〔神業〕とも言える技術に昇華していく様は、脅威というほかなかった。


 師匠の老盗賊は、ルピィの圧倒的な才能の煌めきにすっかり自信を喪失し、僕らと別れる頃にはやつれた疲れきった顔をしていたのだ……。

 そして変装術も、そのとき得た技術の一つである。

 ……ルピィの男にも見える体型は、それでなくても高い変装術の精度をさらに高めていると言える。


「きっとフェニィも驚くよ。ルピィの変装術は凄いから」


 ――――。


「――それにしても、この人が持っていた手紙の『次月より深度三とする』ってなんの事だろう? ルピィ、なにか心当たりはある?」


 男が所持していた手紙に記載されていた文言だが、僕には内容が見当もつかなかった。

 潜入している城の侍女に渡すくらいだから、侍女に何かをやらせる指令のようではあるが……文面からすると、定期的にやっている仕事なのだろうか?


「深度三……なんだろうね? 侍女にやらせるぐらいだから、ナスル王に定期的に毒でも盛ってるのかな? 城内には他にも内通者がいて、侍女も連絡係の一人である可能性もあるけど」


 定期的に毒か……恐ろしい話だが、文面からそう思えなくもない。

 手紙を持っていた男より内通者の方が立場的に上な雰囲気もあるし、現状では何も判断できない。


「――ま、それも行けば分かるでしょ、多分。ちょうどこの男はこれから登城予定だったし、ボクがこの男に化けて、アイス君が付き添いって事で行ってみよう」


 そう言いながらも、ルピィは気絶している男の〔顔の型〕をてきぱきと取っている。

 取った型に速乾性の樹脂を流し込めば、変装用の皮膜が出来るのだが、型で覆われたあの男の呼吸は大丈夫なのだろうか……。


 ……僕も母さん絡みで顔が知られているので、少し顔を変えた方が良さそうだ。

 僕も自分で簡単な変装くらいは出来るのだが、後でルピィ先生に任せた方がより確実だろう。

 なにより、いつもルピィが僕の変装をやりたがるのだ。

 あとは――


「じゃあ、僕とルピィでお城に行ってくるから、フェニィは待っててね」


 フェニィは外見も性質も、潜入にはまるで向いてないのだ。


「……私も行くぞ」


 しかし僕の願いは届かなかった。

 一人だけ留守番が嫌なのだろうか?

『フェニィは目立つじゃないか』『人数が多いと怪しまれちゃうよ』などと、あの手この手で説得を試みたが――


「…………」


 フェニィはむすっ、として譲らない。

 このままでは一人で強行突撃をする恐れがある――ナスル城が、墜ちる……!

 ……僕としてもフェニィの希望はできるだけ叶えてあげたい思いはあるので、ここは僕の方が折れる事にした。


「……分かったよ。じゃ、フェニィが解術の術者で、僕がその従者ってことで行ってみようか。ルピィが化けた男が、術者を連れてきたって事でどうかな?」


 僕はルピィに確認を取った。

 ルピィは「いいの?」という目配せを僕に送り――僕の頷きを確認してから、楽しそうに言った。


「いいんじゃないかな、それでいこう!」


 ……ルピィは基本的に「面白ければ何でもオッケー!」みたいなところがあるので、予想通り反対しなかった。


明日も夜に投稿予定。

次回、四七話〔変身〕


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