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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 眠り姫

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四四話 増えてしまう実績

 男の後を追跡しながら、ルピィは僕らに説明した。


「あの重持ちの男は、軍の男に『カナリア』って呼ばれてて、ナスル城にいる内通者『キツツキ』に指令書を渡すように言われてたね。詳しい説明も全然してなかったし、重持ちの男はただの〔運び屋〕っぽいよ」


 あの四十代と(おぼ)しきごつい男が『カナリア』か……まったく似つかわしくない呼び名だ。

 カナリアというと、有毒ガスの検知に利用する〔炭鉱のカナリア〕を連想するが、その辺りから取っている名称だろうか? 


「とりあえず、指令書を見てみようか。重持ちの男が軍国と繋がってる証拠にもなるし」


 ルピィはまるで、そこに落ちてるものを拾って見てみよう、ぐらいの気軽さで言った。……どうやら得意の〔盗術〕で指令書を奪うつもりのようだ。

 たしかに、ルピィが聞いた会話だけでは証拠として弱いので妥当な判断だろう。


 フェニィが「ん?」と疑問の只中にいたが、すぐに理解するはずだ。

 ルピィにとって、欲しいものを他人が所持している事は問題ではないのだ。

「キミの物はボクの物」を、地でひた走るルピィの脅威を目の当たりにすることになるだろう……。


 特級スリ師、いや、ルピィがじわりと『カナリア』に近付いていく――

 視線の動き、歩く姿勢、発する気配、僅かな挙動で相手の意識を少しだけ逸らし――瞬く間に男の懐から何かを掠め取る……!

 相手は盗まれた事どころか、自分が意識を逸らした事すら自覚していなかっただろう――鳥肌が立つほどの美技。まさに神技だ。

 僕は素直な気持ちで、手放しにルピィを褒め称える。


「惚れ惚れするような手際だったよ、ルピィ。思わず見惚れちゃったよ」

「ほ、惚れっ……!? あ、ありがとう」


 思えばこれほど素直な気持ちで人を褒めるなんて、ついぞ無かった事だ。

 フェニィを褒める時なんかは、常に心にわだかまりを抱えていた気がする……。

 ……そんな僕の感情を察してしまったのか、フェニィはむすっとしながら呟く。


「……私にもできる」


 ――明らかに対抗心を露わにしている! 

 僕の経験則から嫌な予感しかしない。

 フェニィの事だから、勢い余って相手の〔腎臓〕くらいは、もぎ取りかねない。

 たしかに心臓や肺と違って、腎臓一つ無くなっても死にはしない……。

 だけど――腎臓だって臓器ファミリーの一員なんだ……!


「……ま、まぁ、そのうち、フェニィにお願いする事もあるかもしれないね」


 明言は避けて問題を先送りする事にした。

 ルピィがなんともいえない微妙な表情で、僕らを見ている……自身の職分が侵されそうになっているのを危惧しているのだろうか?

 心配せずとも、ルピィ以外にスリを任す機会はないことだろう。

 ……フェニィも明日には綺麗に忘れてくれるはずだ。


『次月より深度三とする』


 ――ルピィが奪取した手紙にはそれだけが記載されていた。

 文面の短さから言えば、手紙というよりメモの類ではあるのだが、軍国の押印もあるので正式な指令書なのだろう。

 軍国印の偽造は重罪を課せられるので、いたずらにこのような事には使うまい。

 しかしこの手紙には……重持ちの男の名前も無ければ、内通者の名前すらも記載されていないのだ。

 せっかく盗ってもらったが、これだけでは使い道がない。


「う~ん、これ単体では使えないね。これをネタにあの魔力タンクから情報を抜こうか」


 ルピィも僕と近い感想を持ったようだが、結論が中々恐ろしい……脅迫行為に抵抗感が無いようである。


「ゆっくり話も聞きたいし騒がれても面倒だから、どこかに身柄を拐おう。いくつか丁度いい場所もピックアップしてあるんだよ」


 少し気になってはいたが、ルピィは荷物を持っていたのだ。

 ……どうやら男を詰め込む〔ずだ袋〕だったらしい。

 つまり最初から誘拐を視野に入れていたという事か。


 ルピィ曰く、相手は悪党だから遠慮はいらない、という事のようだ。

 たしかに、ナスル王から金を受け取っておきながら軍にも通じているのだから、褒められた人間では無さそうではある。


「……うん。じゃあ、僕が意識を奪うとするよ」


 こうなれば、下手に人に任すより僕が自分でやった方が安心だ。

 外傷無く意識を奪うことにかけては、僕が一番向いていると思う。

 ――男が人気の無い路地に入った直後――僕は動いた。


「ぎっ……!」


 気配を消して忍びより、男の首筋に手を触れて即座に昏倒させた。

 先ごろ食堂で絡んできた男たちを失神させたのと同じ要領だ。


「相変わらずお見事だね、アイス君」


 僕の技能をこんなことで褒められるのは微妙な心境である……。


「この近くに空き家があるから、そこに運びこもうか」


 ルピィは「近くまで買い物に行こうか」ぐらいの気軽さで僕らを促す。

 もちろん、倫理観に乏しいフェニィも反対するはずも無い。

 僕らは〔ずだ袋〕に男を詰め込んで、堂々とした足取りで路地から歩き去る。


 ――しかしこれは完全に誘拐だな……僕の犯罪歴にまた新たな罪状が増えてしまったではないか。

 フェニィの一件で強盗殺人にも関与してしまったし、僕の〔犯罪ビンゴカード〕はリーチがかかっている気がする……まだ、ビンゴはしていない……はずだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、四五話〔拉致監禁〕

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