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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 眠り姫

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四三話 盗聴

 対象の家が見える食事処で、僕らは昼食を取っていた。


「なんで、あそこの家の人が怪しいと思ったの?」


 素朴な疑問をルピィに投げかけた。


「魔力タンク二人の金の流れを確認してたら、あいつの収支が合わなかったんだよ。公的収入に対して支出が多くてね。……それに過去を遡ってみると、眠り姫が発症してから、ナスル王に呼ばれた訳でもないのに、たまたま同時期に王都からこの街に引っ越してきてるんだよ――タイミングが良すぎるんじゃないかな?」


 ――ふむ。根拠としては薄弱だが、たしかに怪しい。

 そもそも軍国は首都集中型の国なので、王都は地方都市に比べて様々な面で遥かに優遇されている。

 だから、特に理由も無く王都から地方に引っ越すというだけでも違和感を覚えるのだ。  

 それでなくとも、直感の申し子とも言えるルピィの注意を引いた時点で、対象が無実である可能性は低かろう……。


「なるほどね。すぐに尻尾を出すとは思えないけど、時間はあるし、そのうち証拠も掴めそうだね」


 ルピィに目をつけられた以上、逃れることなど出来ないのだ。

 真綿で首を絞めるようにじわじわと追い込むことだろう。


「どうかな? ボクはすぐに証拠を掴めると思うよ」


 理由を聞いたら「ボクの勘」とのことだ。

 ……ルピィだけに、じつに現実となりそうな予感がする。


「――出てくるよ。視線は向けないでね」


 ルピィの言葉通り――目当ての家から四十代くらいの男が出てくるのが、僕の視界の片隅に映った。

 どうやって家から出てくるのを事前に感知したのかは気になったが、聞いている暇はない。……このままでは見失ってしまう。

 僕は手早く勘定を済ませて、腰を浮かせかけたが――


「まだ早いよアイス君」


 ルピィに止められた。

 そうは言っても、もう標的はかなり離れた所にいるのだ。

 尾行のコツは、対象の靴を見ながら追うのが良いと聞くが、このままでは視界から消えてしまう。

 僕はそう眼で訴えかける。


「足音を聞きながら追いかければいいじゃん」


 と言われてしまった。

 もちろん対象は「カランコロン」と自己主張激しい下駄を履いているわけでもなければ、通りには他にも歩いている人間は大勢いる。

 ――足音が聞こえるような環境ではないのだ。

 困惑の同意を求めるようにフェニィを見ると、予想外な事にフェニィの瞳には理解の光が灯っていた。


「……聞き分けられるのか?」


 僕の思考を裏付けるようにルピィに尋ねている。

 ……聞き分けるどころか、僕には足音すら聞こえませんが……。


「ほら、片手に荷物持ってるから足音が特徴的でしょ?」


 ふむ、と納得したようなフェニィだが、僕には異次元の会話だった。

 僕は人より聴力が高いと自負していたし、地面に耳をつければ何人歩いてくるかぐらいは分かる。

 ――しかしこの二人はもう別次元だ。

 フェニィも野生育ちだから聴力が桁外れなのだろうか? 


 ……すっきりしない気持ちを抱えながらも、標的を尾行することになった。

 尾行と言っても、もう標的の姿は視界に存在しない。……ルピィたちが足音を捉えながら追う形だ。

 ルピィには余裕がありそうだったので質問してみる。


「さっきの男、何の加護を持っているか知ってるかな?」


 先ほど、ちらりと男を視認した限りでは、見覚えの無い珍しい魔力をしていたので気になっていたのだ。


「〔重の加護〕だってさ。自分や自分が触れた物の重さを変えられる〔重術〕が使えるみたいだね。王都にいた頃は大工をしてたらしいよ。ちなみに他の魔力タンクも重持ちだよ」


 重の加護なら文献で読んだことがある。

 運送業などで重宝される、中々稀少な加護だ。

 実際にこの目で見るのは初めてだが、よくもまぁ重持ちなんて珍しい人間を、他に二人も集めたものだ。

 眠り姫に魔力供給をしているという事は、眠り姫は〔重神の加護〕でも持っているのだろうか? 

 聞いたことのない神付きの加護だが、戦闘に有用そうであり強力そうな加護ではある。


「――標的が店の中に入ったよ。ボクらも近くの店に入ろう」


 上手い具合に隣接する建物が甘味処だったので、僕らは流れるようにそこに入店する。

 隣の店内の会話が把握出来るのだろうか? と思いルピィを見たが、ルピィは軽く僕に向けて頷く。

 そして賭けてもいいが――今、甘味のメニューを真剣な眼で凝視しているフェニィは、標的のことを完全に忘れていることだろう……。


 標的がすぐに立ち去ることも考慮して、僕は持ち運び可能な、あんこを絡めてある串団子を注文する。

 ルピィも同じ思考をしたのか、僕と同じものだ。

 ……フェニィは熟考したあげく、がっつりとぜんざいを注文している。

 はい、欲望に忠実でいいと思います。

 ほくほくと、ぜんざいを食べているフェニィを尻目に、ルピィが状況を伝えてくれる。


「ビンゴ――今まさに軍の人間と話してるよ」


 なんと。あまりにトントン拍子に進むので不安になるくらいだ。

 …………フェニィは塩大福をもぐもぐ食べている。


「今日の今日で運が良かったね。僕は何日か見張ることを覚悟してたんだけど」

「ふふっ……実はね、あの男がよく行く店のツケの支払日を、明日にしてるんだよ。ナスル王からの手当金は半月後だし、今日明日辺りが怪しいと踏んでたんだ」


 ふむ……。相変わらずツケの支払日から手当の支給日まで、どうやって知り得たのかは不明だが、ルピィが法に抵触する事をしていないのを願うばかりだ。

 最近、とみに遵法精神が薄くなっているようだから心配である。

 …………フェニィは草餅をむしゃむしゃ食べている。


「おっと……アイス君、どうやらナスル城の中にも内通者がいるみたいだよ。あの魔力タンクの男は繋ぎ役をやってるみたい」


 あの警戒厳重な城、ナスル城の中にまでスパイが潜入しているのか。

 城に常駐しているのは兵隊も含めて全て城内住み込みらしいのに、よく潜り込めたものだ。

 …………フェニィはどら焼きをばくばく食べている。


「あっ、魔力タンクの男が何かを受け取って、店を出るみたいだよ。僕らも出る準備をしとこうか」


 うん、と席を立とうとフェニィを見ると――メニューを片手に、手を上げて店員の注意を引いていた――この子、自由すぎるっ……!

 というか、最初にメニューを見て熟考していたのに、結局全種類頼むつもりじゃないか……!


 フェニィには善意で協力してもらってるので、文句を言えた筋合いではないのだが、だが……。

『また来よう』『あまり食べると晩御飯が食べれないよ』などと説き伏せて、名残惜しそうにするフェニィを連れて、僕らは男の後を追った。


明日も夜に投稿予定。

次回、四四話〔増えてしまう実績〕

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