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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 眠り姫

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三八話 深まる謎

「とにかく入ろうよ、入口に立ってても仕方がないしさ」


 ルピィに背中を押されるように僕らは教会の扉を開く。

 中には老齢の神官一人だけが、うたた寝をするように椅子に腰掛けていた。


「……よくぞ参られた。どうしたのじゃ? 見掛けない顔じゃが、お祈りかな?」


 かなり年を召された人のようだが、善良そうな人柄であるようなので僕は安堵した。……調術は〔魂に触れる術〕とも言われているので、胡散臭い人間には行使してほしくなかったのだ。


「こんにちはー。彼の加護を調べていただきたいんですが、大丈夫ですか?」

「それはもちろん構わんが……」


 老神官は僕を訝しそうに観察している。

 加護の調査は十歳になった時に調べるのが通例となっているので、不審に思っているのだろう。

 僕のことを教会に行くお金も無かった孤児、あるいは教会すらない農村の出身ではないかと思っているのだろうか?


「彼は家の事情でこれまで加護を調べたことが無いんですよ……よろしくお願いしますね」


 ルピィは、どうとでも解釈出来る言い回しで説明した。

 ……さすがはルピィ、天性の嘘吐きである。


「そうかそうか……いいじゃろう、近くに寄るのじゃ」


 どう勘違いしたのか、僕を痛ましげに見やりながら招き寄せる。

 僕が騙したわけでもないのに罪悪感がある……。


「加護は無いのが普通なのじゃから、何も無くとも気落ちする必要は無いのじゃよ」


 老神官は僕に優しく声を掛ける。

 たしかに、この国で子供が調術を受けるのは、伝統儀式のようなものであり、実質的な意味合いは薄いのだ。


 僕は老神官に近付き、力を抜いて身を任せた。

 老神官は僕の首に皺だらけの手で触れて、魔力を送りこんでくる――その流れを妨げないように、僕は静穏とそれを受け入れた。

 魔力の流れを見ていると、僕にも調術を使えそうな気がしてきてしまう。

 治癒術と同様に〔調の加護〕を持たない人間には使えないはずなのに……不思議な感覚だ。

 少し変わった魔力の使い方をしているので練習は必要そうだが、修得不可能とは思えないのだ。

 ――しばらくそのままの体勢を維持し、老神官の額に汗が滲み始めた頃――


「……終わりじゃよ。良かったのぉ、〔()()()()〕を持っておるようじゃぞ」

「「ええっ!」」


 僕とルピィの声が重なった。

 フェニィは声こそ上げてないが「ぬぬっ」と驚いた様子だ。

 この中ではきっと僕が一番驚いていることだろう。……加護が変化するなど聞いたことがない。


 〔ダブル〕であれば調術で分かるはずなので、変化したとしか思えないが――僕は()()()()使()()()()()()()

 ……これはあり得ないことだ。

 治癒術や調術は専門職のようなもので、相応の加護が無ければ使えない術なのだ。……僕は念の為、老神官へと問い掛ける。


「……では、僕には治癒術が使えないという事ですか?」

「当たり前じゃろう」


 何を言っておる、といった呆れた様子で返された。

 そして、「そんなことも教えておらぬのか?」と言いたげな様相で――フェニィに視線を向けた。


 僕もルピィもどちらかと言えば童顔であり、この面子では、長身で大人びて見えるフェニィが保護者扱いされるのは分からないでもない。

 僕としては〔フェニィが僕の保護者〕などと考えられると、かなりモヤモヤしてしまうのだが……。

 しかし僕の感情以上にまずい事があった。


 ――そう、フェニィだ。

 彼女は子供扱いされるのは嫌いだが、年長扱いされるのは()()()なのだ……!

 僕らより年上ということに、コンプレックスでもあるのだろうか……?

 年長扱いされることに敏感なフェニィは、老神官から送られる視線の意味を明確に感じ取っているように見える。

 早くもフェニィから不機嫌オーラが渦巻き始めている――おじいさんが危ない……!

 危機を鋭敏に察した僕は、即座に手を打つ。


「それではありがとうございました! これ、少ないですがお受け取り下さい!」


 僕は勢い込んで話を終わらせにかかった。

 寄付という名の〔調術の代金〕 を支払い、老神官からの言葉も待たずに背を向けて歩き出す。

 非礼ではあるが、仕方がないのだ。

 この行動こそが、皆が不幸にならない選択なのだ。


「お世話になりましたー」


 ルピィも迷わず迅速に僕に続く。

 さすがだ、僕の思惑を見事に読み取っている。

 フェニィも僕らの後を音もなくついてきている……よかった。


「――結局、アイス君の加護が余計に分かんなくなっちゃったよ」


 教会から出てしばらく歩いてから、ルピィが嘆いた。

 去り際のゴタゴタで忘れかけていたが、そうだ。

 僕の加護が知らぬ間に変わっていたのだ。

 僕はこれまで〔治癒持ち〕を自称していたが、結果的には嘘を吐いていたことになる……このままでは「ほら吹きアイス」と呼ばれてしまうではないか……!


「……どうだろう。僕は治癒術が使えるわけだし、これまで通り治癒持ちということで良いんじゃないかな?」


 僕はさりげなく自分の正当性を主張しつつ、先ほど判明した結果を無かった事にしようと画策した。


「えぇ~~~、それは納得できないなぁ~。こう言ったらアレだけどさ、だいぶ老齢の神官さんだったし、アイス君の加護を読みきれてないんじゃないかな?」

「…………あの男はボケていた」


 ルピィの発言にフェニィも酷い言葉で同調した。

 まったく、本当に酷い……まだ老神官に対する悪い感情を捨てきれてなかったのか……。


「ちょっと二人とも、あんなに優しい人のことを悪く言ったら駄目だよ。それに神官さんの魔力が僕の体に干渉するのも感知できたし、調術は成功していたはずだよ」


 僕は神をも恐れぬ無礼な二人をたしなめた。

 同時に、老神官の実直な仕事も主張する。

 ルピィは、からかうような言い方で僕に反論した。


「それってアイス君の自己申告だよね~。アイス君はしょっちゅう嘘を吐くからなぁ~」

「……ん」


 フェニィもルピィに短く同意している。

 ……なんて連中なんだ!

 僕はこんなに仲間から信用されてなかったのか……!


 僕はこんなにも二人のことを信用して――いないな。

 人間性はともかく、言動に関してはまるで二人を信用していないことに気付いてしまった……うん、自分が信用していないのに相手には信用してほしい、なんてのは虫が良い話ではないか――


「――ともかく、〔武の加護〕持ちが治癒術を使えるのは不自然だから、対外的には治癒持ちということにしておくよ」


 僕は玉虫色の結論で議論を締めくくった。


明日は夜に二話投稿予定。

次回、三九話〔母の痕跡〕

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