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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 眠り姫

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三四話 仇敵の顔

 燃え盛る火柱――いや、もう炎の壁とも言える炎術は、当然街の人々の耳目を集めており、僕らも集まってきた群衆に紛れて見物していた。

 熱気は無いので近寄っても問題はないのだが、群衆は炎を遠巻きに不安そうに眺めている。

 この圧倒的な炎の濁流は、人間の持つ根源的な恐怖を呼び起こすのだろう。……火柱を神に見立てているかのように、手を合わせて拝んでいる人も一人ではない。

 僕も釣られて拝みそうになったが――フェニィのどこか人間くさい「やり遂げた」とでも言いたげな横顔を見て、ほっこりと心を落ち着かせた。


 ――冷静になって思い返してみれば、僕は(くだん)の領主の顔も知らないままだった。

 領主も殺害予告を受けていたとは言え、これほど訳も分からないうちに死ぬことになるとは思ってもいなかっただろう。

 ……襲撃立案者の僕ですら思っていなかったのだ。

 邸宅の正門だけを炎術で焼いてもらうつもりが、広大な邸宅が全て丸焼きになるとは、僕からしても青天の霹靂である。


 人は、ナイフで人を刺し殺すより、弓矢だったり魔術だったりでの遠距離攻撃で人を殺す方が、殺人に対する忌避感が少ないそうだ。

 フェニィがこれほどの鏖殺に抵抗が無いのはその為だろうか?

 図らずもフェニィに大量虐殺をさせてしまったわけなので、フェニィが殺人を気に病んでいるよりは、今のように満足そうにしているのは、むしろ喜ばしいことなのかもしれない――大量虐殺をして満足感を得るというのは倫理的には問題だが、そこは考えない事としよう……。


 邸宅を支配していた炎が消えるのを確認して、僕らは街を離れた。

 予想通りではあるが、領主の遺体どころか建物の建材すら跡には残らなかった。

 屋敷から逃げ出していた使用人たちが情報源なのか、これは〔盗神の復讐〕だという噂が聞こえてきたが、それは噂レベルでしかないようだ――ルピィに追っ手がかかる可能性は低いだろう。


 まだしも〔神による天罰〕という噂の方が信憑性を感じる気がする。

 邸宅を焼いた炎は王都からでも見えたであろうし、盗神が生きていて復讐を目論んだと考えたとしても、あれほどの現象の説明がつかないはずだ。


 ――そして振り返ってみると、領主襲撃は僕が発案者にも関わらず、僕は何もしていないということに気が付いてしまった……。

 ルピィもフェニィも満足そうではあるし、強いて僕が何かをする必要性は無かったのだが、少し複雑な心境だ……。


「……これからどこへ向かうんだ?」


 街を離れて少し歩いたところで、フェニィに尋ねられた。

 そういえば、伝えてなかった気がしてならない。

 僕は軽く反省しつつ、次の目的地について説明する。


「ごめん、言ってなかったね。こないだまでいた〔ハロ〕から行く予定だった街なんだけど、北にある〔ポト〕っていう大きな港街だよ」


 僕の思いつきで北の〔ハロ〕から南へ向かい、また北に戻ることになるのだ。

 物理的距離をものともしない面子とは言え、若干申し訳ない気持ちはある。

 ……フェニィはお気に入りの魚料理がまた食べられることが判明し、嬉しそうな様子ではあるが。


「ポトは軍国でも王都の次に大きな街でね、そこの領主のナスルって人は、軍国の『もう一人の王』って呼ばれてるくらいの権力者なんだ。『ナスル王』って、呼ばれてるんだよ」


 フェニィは()()()()という単語に興味を示したが、ナスル王には全く関心が無さそうだ。

 想定通りの反応ではあったので、僕は気にすることなく話を続ける。


「そのナスル王の一人娘が神持ちみたいなんだけど、幼い時に〔魔漏症〕っていう病気に罹って寝たきりになってるらしいんだよ」


 魔漏症――魔力を体内に留めておくことが出来ず、体内の魔力をすべて放出して意識を失ってしまう病だ。

 二、三日寝れば治る病気なので、本来は大事には至らない病気である。


「物心ついた時に発症して、もう()()()()治ってないみたいなんだ」


 魔漏症の特性を考えれば有り得ないことだ――僕には引っ掛かる事がある。


「呪術に魔漏症と同じ症状を発生させるものがあるんだけど、それも本来は一日寝れば快癒する術なんだ。……でも、もしかしたら、父さんやフェニィに使われた洗脳術みたいに――長期効果を与える〔抜け道〕があるのかもしれない」


 ――フェニィの雰囲気が一変した。


「……あの()()が関係しているのか?」


 あの悪魔とは、幼いフェニィに洗脳術を施した陰気な男のことだ。

 本当に悪魔なのかはともかく、便宜上、僕らは仇敵をそう呼称していた。


「分からない。でも可能性はあると思う。どっちにしても、僕の解術で治せるかもしれないから訪ねてみようと思ってるんだ」

「……そうか、それはいい」


 ナスル王の一人娘は、二、三歳の頃に発症して、それ以来十年近くベッドから出られていない。

 フェニィも同じように、幼い頃に自由を奪われた身なので、思うところがあるのかもしれない。


「――その悪魔って、どんな奴なの? 特徴が分かれば捜し出せるかもしれないよ?」


 ルピィが僕らに尋ねてくる。

 ……たしかにルピィなら、砂漠に落ちている砂金すら見つけ出せそうな気はする。

 そこで僕は、たまたま持っていた〔賞金首〕の顔が描かれた用紙の裏面に、似顔絵を描くことにした――絵にはそこそこ自信があるのだ……!


「ちょっと待っててね、今描いてみるから――」

「あれ? アイス君、悪魔の顔知ってるの……って上手っ! 上手すぎだよアイス君!」


 フェニィの記憶を垣間見ていることを伝えてなかったので不審に思ったようだが、僕の力作に気を取られてくれたようだ。


「……たしかに陰気臭い男だね。よし、ボクも負けてられないな――」


 ルピィ画伯のプライドを刺激してしまったのか、なにやらルピィも書き込みを始めた。完成したそれは――


「すごい……似顔絵の周りに枠も書き込んだりして、公式の手配書と瓜二つになってる……」


 あまりに完成度の高い代物に、むしろ僕は引いていた……。

 この技術を悪用したらとんでもない事が出来そうな気がする。

 これほど綺麗な直線を、どうやってフリーハンドで描いたのだろうか?

 フェニィも感心しながら僕とルピィの合作を観察している。


 よくよく手配書(偽)を見ると、罪状〔痴漢〕で報酬は〔金貨三十枚〕と書いてある。……罪状のわりに報酬がやたらと高い。

 しかも〔生死を問わず〕と記載してあるではないか……!

 ……仇敵とはいえ、同情を禁じ得ない一品だ。

明日は朝と夜に一話ずつ投稿予定。

※第三部からは次話予告もやっていきます。

次回、三五話〔神獣〕

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