三二話 復讐計画
「なんだか凄く懐かしいよ……」
僕らは領主のいる街まで辿り着いた。
ターゲットの領主がいる街、即ちルピィが生まれて十八年を過ごした故郷だ。
――あれ以来、一度もこの街に来ていなかったので、ルピィにとっては二年振りの帰郷となる。
「それにしてもアイス君、いつになく旅の足が速かったね。いつもはのんびりとした道中なのに」
その気になれば、僕ら三人の足は馬より速いが、普段からそんな速度で走ることはない。
極端に速い速度で走っていれば人目につくことになるし、僕らにとって目立つことは好ましくないからだ。
そしてなにより、僕らの旅は一分一秒を争う急ぎの旅というわけでも無いので、場合によっては観光名所に寄り道するぐらいの余裕すらある。
今回急ぎ足だったのは、大きく二つの理由があった。
「ほら、最近〔指無し盗賊団〕の噂とかあるだろ? ここの領主は狙われそうな気がするんだよ。……僕らの先を越されちゃうのも面白くないからね」
〔指無し盗賊団〕、最近世間を騒がしている義賊集団だ。
悪い噂のある貴族の邸宅や、領主の屋敷を襲うだけでは飽き足らず、軍国の物資保管庫までその標的にしている組織だ。
領主の屋敷を襲うぐらいなら、警備の少ない屋敷もあるので一介の盗賊集団でも襲撃可能かもしれないが、軍国の保管庫となると話は別だ。
軍国の保管庫は常に警備が厳重であるばかりか、そこを襲うということは完全に軍国を敵に回すということになるのだ――これは尋常な連中の仕業ではない。
「あー、たしかにね。ここの領主なら標的になりかねないよ」
この街について少し近況を調べただけでも、相変わらずここの領主の評判は良くなかった。
自身は博打をしているか酒を飲んでいるかの生活で、領民には重税を課しているという話だ。
「旅を急いでた理由としてはもう一つ。……もうすぐフゥさんの命日だからさ、どうせならその日に合わせて領主をやっつけてやりたいんだ」
――もう一つの理由がこれだ。
領主の屋敷を襲撃することに決めてから、フゥさんの命日が近い事に気付いたので、折角だから襲撃日と合わせてみようと思ったのだ。
もっとも、とくに何も告げずに歩く速度を二倍くらいにしてみたが、ルピィもフェニィも疑問の声も上げずに、悠々と僕に速度を合わせてくれたが。
「……そっか。命日、覚えててくれたんだね」
忘れるわけもない。
あの日から片時も、フゥさんの死顔を忘れた事などない。
ようやく、ようやくフゥさんの仇を取ることが出来るのだ。
もっと早く、この事を決断しておけば良かったと後悔しているくらいだ。
「贅沢なことを言えば……領主に、自分が何故殺されるのかを理解させた上で処断したい。就寝中の暗殺とか、本人が知覚していない間に命を絶つような事は避けたいかな」
ルピィなら、苦も無く領主の屋敷に潜入して暗殺することは可能だろう。
だが僕は、難易度が上がることは分かっていても、正面から事を為したいと思っているのだ。
「――そうだね。ただ殺すだけじゃ、ボクも飽き足らないよ」
ルピィの瞳が怪しく光っている。
一緒に旅をするようになってから領主の事について話すことはなかったが、やはり強い怨恨を抱えていたようだ。
いつもの無邪気で悪戯っぽい瞳からは想像も出来ないくらいの、激情を秘めた敵意を感じる。
「そうなると、やっぱり問題になるのは無関係な屋敷の使用人とかだね。屋敷の正面から強行突入するとなると、無辜の人たちを巻き込むことになりそうだからね……」
以前にも直面した問題だが、やはり無関係な人たちへの被害は最小限にしなければならない。
しかも今回は仇討ちとなるのでなおさらだ。
こうなると手間ではあるが、無関係そうな人は気絶させていくしかなさそうだ。
……フゥさんの死に関与した領主の護衛達については、容赦する気など無いが。
「――そのことなら問題無いよ」
ルピィは言った。
「〔犯行予告〕を出そう」
ルピィは、とびきりの悪戯を思いついた子供のような笑顔で宣言した。




