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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
後日談
307/309

現れた偽者

「――――ほらほらアイス君、『僕はハーレム王だから女の子に囲まれて食べるご飯は美味しいです』って言ってごらんよ!」


 いつものように騒がしい夕食を終えた後、僕たちは熱いお茶を(すす)りながら寛いでいた。今日も相変わらず平和な一日。こんな毎日が続いてほしいと思うところだが……しかし、その為には目を逸らすわけにはいかない問題があった。


「それでは皆さん、夫婦会議を始めましょう! 今日は記念すべき第四回という事で、特別ゲストにレット君をお迎えしていまーす!」

「第四回のどこが記念すべきなんだよ」


 問題提起の為に夫婦会議の開催を宣言すると、レットから相変わらずのつれない反応が返ってきた。それでも事前告知無しの突発的会議に戸惑っていないのは流石と言えるだろう。


「やっぱりレットにはスター性が……ん?」


 突然のゲスト扱いにも動じない気質を褒めている最中、可愛いニャンコがのそのそと膝の上に乗ってきた。


 しかしこれは珍しい事ではない。夫婦仲の良さに嫉妬しているのか、煽りニャンコの本能がそうさせるのか、マカは夫婦会議の時には必ず膝に乗ってしまうのだ。


 そうなるとセレンの機嫌が悪くなってしまうところだが……近頃は『畜生を処分しましょう』と言わずに黙り込んでいるのが逆に気掛かりだった。


 まるで嵐の前の静けさ。もはや肉体的殺害ではなく精神的殺害を目論んでいる気がしてならない。セレンの刻術をもってすればマカを廃人ならぬ廃猫に変える事も難しくないのだ――――『おかしいな 痛みがずっと 終わらにゃい』


 おっと、これは俳猫だった……!


 体感時間が長いので一句詠んでしまう気持ちは分かるが、あの終わらない苦痛をマカに体感させるわけにいかない。近い内にセレンを甘やかしてストレスを発散させるべきだろう。まぁとりあえず、今は目の前の夫婦会議に集中だ。


「さて、一つ目の議題は――――最近のアイファが太ってきた事についてです!」

「なんだとっ!? ……まさか、()()?」


 アイファの妊娠発言を受け、和やかだった食卓に緊張が走った。女性陣から不穏な魔力が漏出しているが、もちろんこれはアイファの勘違いに過ぎない。


 僕たちは揃って恋愛初心者。

 まだ少しずつ距離を詰めている段階なので心当たりは全く無いのだ。アイファとは手を繋ぐだけで『破廉恥だぞっ!』と怒られるくらいである。


「もちろん違うからね? アイファがぽっちゃりしているのは、おめでたい妊娠などではなく――――『肥満』です!」


 最近では常に何かを食べているアイファ。

 食後のおやつにシーレイさんの焼いたホットケーキを平らげ、屋敷に常備しているかりんとうを食べながら王都を歩き、行きつけの甘味処ではジャンボパフェをご満悦で食べるのだ。この食生活で太らない方がおかしかった。


「わ、私は太ってなどいないっ!」


 あくまでも太っていないと主張するポッチャリファ。まん丸になった顔では説得力に欠けているのだが、自分では自分の変化に気付きにくいのかも知れない。ここで必要なのは第三者の意見。決して嘘を吐かない男に引導を渡してもらおう。


「レットの意見はどうかな? ――痩せている、ぽっちゃりの二択で!」

「ぽ、ぽっちゃりだ……」


 勢いよく選択肢を突きつけたおかげだろう、レットは限りなく明快な答えを返してくれた。それを聞いたアイファは「貴様ぁぁっ!」と、レットのせいで太ったかのように怒りを向けているが、完全に自業自得なので逆恨みという他なかった。

 ここは夫として口を挟んでおくべきだろう。


「まぁ待ってよアイファ。勘違いしないでほしいんだけど、僕はアイファが太ったところで嫌いになったりしないよ?」

「うっっ、むぅ……」


 痩せている状態のアイファは美人ではあるが、別に僕はアイファの容姿を重要視していない。外見など些細な問題に過ぎないのだ。


「僕はただ、アイファの身体が心配なんだ。大事な人には一分一秒でも長生きしてほしいからね」


 ぽよぽよの頬をぷにぷにしながら優しく語り掛けると、アイファは顔を赤らめて「ぐむぅ……」と唸り声を漏らした。


 実際、僕の言葉に嘘はない。


 大事な人を失うという思いはしたくないので、死ぬのなら家族の誰よりも先に死にたいと思っているくらいだ。もちろん、家族を悲しませたくないので可能な限り長生きするつもりだが。


「――――そこまで! 顔に触るのは二秒までって決めたでしょ!!」


 アイファの顔をぷにぷにしながら癒やされていると、接触問題に厳しいルピィ先生から謎ルールを指摘された。もちろん言うまでもなく初耳のルールだ。


 しかし、他の女性陣も不機嫌そうなので多数決で有罪になる事は明白。後付けのルールであっても「すみませんでした……」と謝罪する以外の選択肢はなかった。


「まぁ、それはともかく。食事制限は大変だから止めておくとして、明日から朝食前に僕とジョギングしようか?」

「う、うむ、うむ……」


 よかったよかった。ポッチャリファが快く了承してくれたので一安心だ。このまま放っておくと際限なく太って『ごっつあんです!』な事になりかねなかったが、摂取した分のエネルギーを消費してしまえば何も問題は無い。


 僕も一緒に走って疲れが見えたところで治癒術の行使。毎日全速力で五十キロくらい走ればすぐに痩せるはずだろう。


「これで一つ目の議題は解決だね。さて、次なる議題は――――()()()()()()が現れた事についてです!」

「俺の偽者……?」


 レットが困惑しているのも無理はない。

 自分の偽者が現れるなんて事態は早々ある事ではないし、そもそもレットは自分が人気者という自覚が薄いのだ。


「この軍国ならそんな真似はできないはずだけど、レットの偽者は帝国で活動しているらしいんだ。ルピィが早い段階で気付いてくれて良かったよ」


 情報源はルピィが設立した諜報組織。

 過去に僕たちが世界に干渉した影響なのか、最近になって全国各地で異変が起きている。そんな異常事態に対処すべくルピィが人材を集めて設立した組織だ。


 これに関して言えば、軍国では神持ちが激増していたので『神持ちに仕事を作る』という意味でも良案だった。……ちなみに神持ちの多くは僕たちに恩義を感じていたので参加希望者の数は多かった。


 まぁ、ともかく。今回の件は諜報組織の本分とは異なるものだが、新設した組織にはレットの信奉者も多いので『偽者は許せん!』と情報が寄せられていた。


「俺の名前を(かた)るって、何か意味があるのか?」

「うん。これを見てよレット」


 僕は問題のブツを取り出し、苦い思いを抱きながらテーブルに置いた。それは裁定神カードのパック、先日に発売されたばかりの第二弾のカードパックだ。


「……これがどうしたんだよ?」


 照れ屋なレットは顔を(しか)めている。

 第ニ弾については本人の許可も取っているのだが、自分のカードを目の前に出されると抵抗感があるようだ。僕もカード化されているので気持ちは分かる。


 ちなみに第一弾の売上は裁定神御殿の建設費用に使っているが、第二弾の売上に関しては恵まれない子供たちに寄付する事になっている。だからこそ本人の許可を得られたのだ。


「どうしたって――ほら、ここをよく見てよ」

「ここって、()()()()()()()()()()? ……ああ、偽者ってそういう事か」


 そう、サインだ。第二弾の発売を記念してサイン会を開催していたが、そのレットのサインを偽造して転売する不届き者が現れたのだ。


「いや、これってアイスが書いたサインだろ。ならアイスの偽者って事になるんじゃねぇか?」


 やれやれ、レットは何も分かっていない。

 確かにサイン会ではレットの代わりに書いていたが、レットの筆跡を完全にコピーしたサインはもはや本物と言っても過言ではないのだ。 


「まったく、何を言ってるんだよ。レットのサインが欲しい人は僕に書いてもらう――レットファンの間では常識だよ? つまるところ、僕が書いたサインこそが正真正銘のレットサインなんだ」

「頭がおかしくなりそうな話だな……」


 レットが照れ屋である事は周知の事実。世に出回っているサインは代筆によるものだとファンなら誰もが知っている。


 裁定神カードの売上が増えると寄付金も増えるという事で、レットも照れ隠しで文句を言いながらも認めてくれている事だ。そしてそれ故に、サインの偽造は見逃せる事ではなかった。


「このニセサインのカードパックが高額で転売されているらしいんだ。レットのサインを偽造するなんて、絶対に許せない事だよ……!」

「――――皆殺しダ」


 そう、皆殺し……いやいや、駄目だ駄目だ。

 危ない危ない。ブルさんが絶妙なタイミングで不穏な発言を挟んできたので思考誘導を受けるところだった。これはとんだ策士クマさんである。


「元からニセサインみたいなもんだろ。……それでどうするんだ? 帝国で売られてるって事なら、王子のカザードに伝えるのか?」

「う~ん、カザード君に手紙を書くのも良いけど、この機会を利用して帝国旅行に出掛けようと思ってるんだよ」


 僕には世界旅行に出掛けるという目標がある。 

 世界旅行中のおじいちゃんたちに会いたいし、他大陸でブルさんの伴侶探しをしたいという思いもあるからだ。


 しかし、今のブルさんを他大陸に連れていくのは危険過ぎる。行く先々で死体を積み上げる事になるのは火を見るよりも明らかだ。


 だからこその帝国旅行。先日の国内旅行もそうだったが、世界旅行の予行演習として近場での旅行で慣らしていこうという訳だ。


「……この面子で帝国旅行に行くつもりなのか?」

「ふふ、言いたい事は分かってるよ。僕は同じ轍は踏まない。次はレットと予定を合わせて同行してもらうから大丈夫だよ」


 前回の国内旅行はデートという意味では大成功だったが、ブルさんやジーレを加えて平穏な旅行をするという意味では大失敗だった。レットが心配しているのはその点だ。


 しかし、次の帝国旅行は問題無い。前回はレットと予定が合わなかったので妥協してしまったが、次は油断する事なくブレーキ役に同行してもらうつもりなのだ。


「ったく、仕方ねぇな……」

「決まりだね! よし、そうと決まれば帝国旅行の詳細を詰めよう!!」 


 言質を取ったとなれば旅行計画のプランニング。

 レットがブレーキ役として必要だったのは事実だが、親友と旅行に行けるという事で僕のテンションは上がっていた。最近は何かと忙しそうだったので尚更だ。


 賭博場の悲劇を繰り返してはならないと胸に誓いつつ、僕とレットは夫婦会議の途中で始まっていた旅行計画の話に加わるのだった。


次回、〔平和への道〕


ご無沙汰しております。カクヨムで新作を始めるという事で、宣伝がてら後日談の追加です。投稿開始は明後日(12月19日)の18時頃を予定。覚山覚カクヨム→(https://kakuyomu.jp/users/kakusankaku0)

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