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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
後日談
303/309

祝福する王子

 王城の豪奢(ごうしゃ)な一室。

 普段は滅多に使われないその客室は、この一週間に限っては他国の要人を主として迎えていた。その要人とは他でもない、かつては敵国として争っていた隣国の王子――そう、帝国王子のカザード君だ。


「明日には帝国に帰るのかぁ……。もっとゆっくりしていけばいいのに」

「余は帝国を背負って立つ者。いつまでも国を留守にしておくわけにもいくまい」


 六歳児ながらも高い意識を持つカザード君。

 しかし寂しくはあっても仕方がない。彼は帝王の一人息子なので、むしろ他国に一週間も滞在していた事が異例だったと言えるだろう。


「それにしても軍国の結婚式は派手なものだな。あれでは後始末も一苦労だろう」


 彼の言う結婚式とは、僕の結婚式のことだ。

 事実婚ならぬ無自覚婚を果たしていたアイファ。プロポーズを受けてくれたフェニィとルピィ。そして、帰国後に求婚を受けてくれたシーレイさんとレオーゼさん。まさかの総勢五人を迎えての結婚式である。


 一緒に旅をしていた三人は当然として、幼馴染のお姉さんと第三の目を持つお姉さんにも指輪を贈っていたので帰国後に求婚しないという選択肢は存在しなかったのだ。


「今回の結婚式が派手だったのは特別だよ。五人の新婦さんの為に何カ月も掛けて準備していたからね」


 誕生日が近い兄弟などは〔合同誕生会〕のような形で(まと)められてしまいがちだが、一生に一度の結婚式でそのような手抜きをするわけにはいかなかった。


 そこで企画したのが連日結婚式。五日間で一人ずつ結婚式を挙げていき、六日目には合同で盛大に祝うという計画だ。


 最終日の今日などは神輿に乗って『わっしょいわっしょい!』と豆をまきながら王都中を練り歩くという圧巻のフィナーレを迎えてしまったのだ。


「なにがなにやら分からん事になっておったが……ところで、アレはどうするつもりでおるのだ?」


 王城の窓から街を眺めるカザード君。

 その顔には困惑があるが、それも無理はない。


 王都では結婚式の熱気が醒めておらず、人々の賑やかな声がここまで届いている。そこまでは問題ないのだが、その人々の姿が見えなくなっている事が問題だ。


 夜だから暗くて見えないのではない。明かりが各所で灯されているので光源はある。それでも人々の姿が見えないのは――王都が緑に覆われているからだ。


 事の発端は、神輿の上からまいていた豆だ。

 ただ豆をまいただけならともかく、人国から軍国に移り住んだ〔農神〕のお兄さんが酔っ払って農術を乱発した結果、王都中が豆畑と化してしまったのだ。


「うちの女性陣は大喜びだったけど、このままだと生活に支障が出るだろうからね。明日は皆で大掃除になるかなぁ……」


 王都が豆畑になったまま放置するのは論外だ。

 今日はお祭りムードで大盛り上がりだったが、我に返ってしまえば実害を自覚することになる。なにしろ家の中まで豆畑になっている王都民も居るのだ。


 国王であるナスルさんも頭を抱えていたので、明日は王都民総出で豆畑の伐採作業に励まざるを得ないだろう。


「おっと、もうこんな時間だ。ジーレの部屋まで友達を迎えに行きたいんだけど、カザード君にも紹介したいから連れてきても良いかな?」

「あの女と付き合えるような者か……心なしか嫌な予感がするのだが」


 すっかりジーレに苦手意識を持っているカザード君。帝国の王子と軍国の王女なので出来る限り仲良くしてもらいたいのだが……。


「ひょっとしてまだ根に持っているのかな? 駄目だよカザード君、小さな事は水に流すのが王者の器というものだよ」

「なにが小さな事じゃ! 余は殺されそうになったのだぞ!」


 上に立つ者としての心構えを語ると、怒りの声が飛んできてしまった。


 あれは帝国の文官さんが『カザード様とジーレ様が結ばれれば両国の未来は安泰ですな、はっはっはっ!』と冗談交じりに言ってしまった事が発端だ。

 婚姻によって軍国と関係を深めたいという気持ちは分かるが、しかし今回は相手が悪かった。冗談の対象にするには危険過ぎた。


 望まぬ結婚をさせられると思ったのか、行動的なジーレは『えいっ!』とカザード君の抹殺を図ってしまったのだ……!


「あれは不幸な事件だったね……。でも、カザード君なら直撃を受けても大丈夫だったと思うよ」 

「そういう問題ではなかろう!」


 すんでのところで僕が突き飛ばしたので無傷だったのだが、いきなり殺されそうになった事が腹に据えかねているようだ。

 軍国に住んでいると日常茶飯事なので慣れてしまったが……言われてみるとカザード君の意見が正しいような気がしないでもない。


「ごめんごめん。僕からも改めて謝罪するよ」

「ええい、頭を撫でるでないわっ!」


 反省の気持ちを伝える為に手を伸ばすと、気位の高い王子君にバシッと払われてしまった。まるでマカのような反応だったので自然と可愛いニャンコを思い出す。


 結婚式には食事しか参加していなかったマカ。

 僕たちが神輿で練り歩いている最中、民家の屋根でお昼寝中のマカを発見したので気を利かせて大量の豆を置いておいたのだが……しかし、今回はそれが裏目に出てしまった。


 マカの周りに置かれた大量の豆、農神のお兄さんによる急成長を促す農術――そう、マカが大量の豆の木に襲われてしまったのだ……!


 まるで僕が罠に掛けたかのようだったので大変にご立腹だったが、明日になったら機嫌を直してくれているはずだろう。多分。


「それじゃあ、ちょっとだけ待っててね。すぐに連れてくるから」

「ふん、おかしな者を連れてくるでないぞ」


 失礼な言葉に見送られ、僕は客室を後にする。

 お付きのじいやさんが暗殺未遂事件で興奮しすぎて卒倒してしまった事で、今のカザード君には話し相手が居ない。きっと僕の友達を連れていけば大歓迎してくれる事だろう。

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