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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 解き放たれた世界
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七一話 代表会談

「――アイス殿。明日の午後からお願い出来ますか?」


 クーチャの実家に滞在を始めてから二日目の夜、ヒゲおじさんが夕食の席で待ちに待った知らせを届けてくれた。


 おじさんが『お願い』と言っているのは獣国の代表との面会の件だ。

 こちらからお願いしていたくらいなので、僕に不都合などあるはずもない。


「はい、もちろん大丈夫ですよ。想定よりずっと早かったですね」


 国のトップとの会談となるので、簡単には会えないものと想定していたのだ。

 ヒゲおじさんは政府の高官だと聞いてはいたが、思っていた以上に影響力が強い人物なのかも知れない。


「とんでもありません。アイス殿が人国革命の立役者であることを考えれば遅過ぎたほどです。何分、事実確認に手間取っておりまして……」


 人国の王族が全滅してから一カ月以上が経過しているが、国交断絶状態にある獣国ではその詳細を把握していなかった。


 クーチャの口から人国の顛末は語られてはいるものの……熊神が王族を皆殺しにしたという事だけならともかく、ルピィが国王に変装して人国の改革を行ったと言われても信じられる話ではない。


 子煩悩なヒゲおじさんは疑うことなく信じていたが、むしろこれはおかしい。

 普通なら話を疑って然るべきところだ。

 そんな背景もあって、獣国の代表としては面会がてら事情聴取をしたいという思惑もあるようだ。


 そして――獣国の代表。

 獣国という名称からすると『最強である俺が王様だ!』という実力主義を想像してしまうところだが、実際の獣国にはそのような脳筋思想は全く無い。


 この国では国民の投票で選ばれた者が議会の議員になり、更にその中から獣国の代表が選出されるという仕組みになっている。

 つまりは、民国と同じ民主主義国だ。

 いつになくスムーズに国の代表との面会が叶ったことといい、民主主義を信奉する僕とは相性が良い国だと言えるだろう。


 しかし、獣国が問題の少ない国となると、僕らにとっては別の問題が出てくる。

 僕たちの基本行動方針は、国の歪みを正していくことで〔神〕からの反応を待つという形なので、これから取るべき方策が分からないのだ。


 もちろん僕の目視による神探しも進めてはいる。

 面会待機中の時間を無駄にするわけにはいかないので、先んじて政府関係者を遠目で確認しているが……喜ぶべきなのか、獣国上層部に神は存在していなかった。


 人国には神がいなかったので獣国の方にいる可能性があると期待していたが、定期的に議員が入れ替わる議会となると、潜伏することが困難なのかも知れない。


 そして獣国の問題らしい問題と言えば、人国との戦争が長期化していることくらいだったが、それはもう既に解決済みだ。

 今の人国には戦争継続の意思はない。


 主戦力であった神持ちの奴隷を取り上げたという現実的な事情もあるが、今の人国の議会には穏健派しか残っていないのだ。

 どういうわけだか、好戦的な議員ほど奴隷の扱いが悪い傾向があったので――クマビームで仕分けされているのだ……!


 魔大陸が平和であることは素晴らしいのだが、全ての元凶である〔神〕の問題を解決していないままでは不安が残る。

 こうなると、代表との会談で神へと繋がる糸口が見つかることを願うばかりだ。


 ――――。


「ほぅ、その方らが異国からの来訪者か。ふむ、そちらは兄妹か……人国の王族を皆殺しにしたとは思えぬほどの端麗な兄妹だの」


 獣国の代表は想像よりもずっと若かった。

 事前に〔神確認〕をした時から気になっていたが、間近で見ると相当に若い。

 だがそれもそのはず、実際のところ三十歳にも届いていない女性とのことだ。


 獣国代表の任期は三年と聞いているが、この女性――ネイトさんはもう二期目らしいので、二十代前半で代表の座に就いたことになる。

 ヒゲおじさんの紹介とはいえ護衛も付けずに会談に挑むあたり、肝が据わっているのか軽率なのか判断に迷うところだが……個人的には好ましい人物だ。


 なぜかブルさんの凶行を僕たちがやった事にされているのは気掛かりだが、僕たち兄妹がセットで褒められていることは嬉しい。


「はい、美人兄妹だとよく言われます。ネイトさんも一国の代表とは思えないほどに若くて綺麗な方ですね」


 僕は母さん譲りの容姿を褒められて謙遜するような真似はしない。

 そして褒められたら褒め返すのはコミュニケーションの基本だ。

 もちろんこれはただのお世辞などではない。


 尖った狐耳、目鼻立ちのはっきりした顔立ち。

 一見すると厳しそうな印象を受けかねないが、ネイトさんの余裕のある柔らかい笑みがそれを否定している。

 全体的な印象としては、仕事の出来る綺麗なお姉さんといったところだ。


 しかし、正直にネイトさんを褒めると当然のように別の問題も発生する。

 そう、仲間たちから微妙に刺々しい空気が伝わってきているのだ。……これは女性陣に禁止されている軽薄な言動などではないのに。


「ほっほぉ、そなた目が高いの。堅物のヒゲが推しよるからどのような者かと思っておったが」


 ヒゲおじさんは僕の事を好意的に伝えてくれていたようだが、これはもう完全に〔娘の恩人パワー〕の為せるところだろう。


「それにしても……議会には神持ちの方は少ないんですね。まさかネイトさんも併せて三人しかいないとは思いませんでした」


 獣国では獣型神持ちが一目置かれるという話だ。

 ネイトさんは狐耳と尻尾を持つ両持ちなので納得だが、数十人の議員の中には他に二人しか神持ちがいない。


 一人は獣型神持ちで、もう一人は人型神持ちだ。……人型神持ちが要職に就いているという事は、本当に差別が存在していないという事なのだろう。

 しかし獣国は階級社会ではないと耳にしてはいたが、尊敬の対象であるはずの獣型神持ちがこれほど少ないとは思わなかった。


「それはそうであろ。好き好んで面倒な事をやりたがる者など希少じゃ。妾とて担ぎ上げられて仕方なくやっておるに過ぎん」


 二期目を務めている代表さんの問題発言だが、これは本心からの言葉だろう。


 ネイトさんは統治者として高い才能のある〔治神の加護〕を持っている人であり、獣国では尊敬の対象になるという耳と尻尾のある獣型神持ちでもある。

 あらゆる面で為政者に向いている人材だと言えるので、周囲の人間がネイトさんを放って置かないのも理解出来る。


 そして、議員に神持ちが少ないとは思ったが……よく考えてみれば、神持ちは権力欲が弱い人間が多いので自然な事なのかも知れない。

 というより、自由な人間が多いので組織に属する事を嫌う傾向があるのだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、七二話〔解読する格差社会〕

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