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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 盗神と裁定

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二八話 再会と折衝

本日分終了。実質この辺りからが本編になると思います。

 僕らは時々魔獣を狩ったりしながら、のんびりと旅を続けていた。

 ハロの街が遠景に見えてきて、「たしか、ハロの街は海沿いにある教国に近いから、魚料理が有名だったなぁ」などと考えながら街道沿いに歩を進めていると――


「あーっ!  やっと見つけたよー!」


 聞き覚えのある元気な声が耳に届いた――誰あろう、ルピィさんだ。


「コベットで待ち合わせって言ってたのに、行ってみたら大変な目に遭ったんだからね!」


 …………どうやら、コベットで僕の事を聞き込みして捜したらしいが、僕の知り合いということで、フェニィの起こした事件の関係者扱いをされてしまったらしい。


「手を切り落とされた、って人の仲間たちに、ボクが追いかけ回されたんだからね! ボクは何も悪いことしてないのに!  何も悪いことしてないのに!」


 ……二度も言われてしまった。

 過去に冤罪で処刑されそうになったのがトラウマになっているのだろうか?

 ことのほか興奮してお怒りの様子だ。


「それは申し訳ありませんでした……不幸な事故だったんです」


 ことの張本人であるフェニィを横目で見てみたが、その表情に変化は見受けられない。

 ……これではまるで、僕が何かやらかしてしまったようだ。

 どこか釈然としない気持ちはあったが、僕よりさらに完全な被害者であるルピィさんを想って、心に浮かんだ言葉をぐっと呑み込む。


「まぁ、何があったか少しは予想がつくけどさ…………そちらのあなたが、〔死滅の女王〕って事でいいんですよね? ボクはルピィ=ノベラークと言います」


 さすがはルピィさんだ。

 言わずともフェニィの素性を察していたようだ。もはや恐いくらいに話が早い。


「……フェニィ=ボロスだ」


 フェニィが短く自己紹介をした。

〔死滅の女王〕と呼ばれたのが気に障ったのか、突然現れたルピィさんを警戒しているのか、その態度はどこか素っ気無かった。

 ……対人慣れしていないので、人見知りをしている可能性もあるが。


「もうハロの街に着きますし、向こうで食事でもしながら近況報告といきませんか?」


 あまり二人の女性の間の空気が良くなかったので、僕はそう提案する。

 きっと満腹になれば穏やかな気持ちになることであろう。


 ――――。


 ハロに到着して早々に、手頃な店に当たりをつけ、名物の魚料理を中心にあれもこれもと大量注文する僕たち。

 沢山の料理がテーブルに並べられたが、僕らの腹具合と反比例して、順調にその数を減らしていく。


 そこでようやく僕は、ルピィさんとフェニィの許可を得て、双方の過去の経緯について語りだした。

 これから仲間として行動していく以上は、最低限仲間のことは知っておくべきだと考えたのだ――


「そんな……帝国がそんな酷いことを……」


 フェニィの凄絶な半生を聞いて、ルピィさんはかなりのショックを受けている。

 物心ついた時には研究所で実験動物扱いを受けていて、父親を殺させられて、自由意志を無くして森の番人生活を十年――たしかにこれほど悲惨で壮絶な半生も珍しい。

 目論見通りとは言わないが、フェニィをどこか警戒していたルピィさんも緊張の糸を切ったようなので、互いの事情を知ることは必要な儀式だったのだろう。


「……アイスの言っていた旅の仲間は、女か」


 一方のフェニィは、わりとどうでもいいことを気に掛けていた。

 そういえば、本人のいないところで色々と話すのは非礼であると考え、これまで性別すら話していなかった気もする。


「そうですよ。もう、二年も一緒に旅をしてるんです」


 なぜか勝ち誇ったようにルピィさんは言い放つ。

 ……負けず嫌いなフェニィを刺激するような物言いは止めてほしい。

 案の定フェニィはむすっとしたが、何も言わずに食事をしていた。

 ……気を逸らすものがあって本当に良かった。

 フェニィは排斥の森で、肉を中心とした食生活(多分)が続いたせいだろう、ことさら魚料理がお気に入りのようだ。満足そうにもごもごと食べている。

 大きい魚の頭は食べないようにと、後で言っておくことにしよう……。


「……フェニィさんって、歳はいくつ、なんですか?」


 ルピィさんは恐る恐るといった体で、フェニィの歳を尋ねる。


「……二十二歳くらいだ」


 フェニィはどこか憮然とした様子だ。

 自身が最年長であることを気にしているのだろうか?

 ……僕の体感年齢ではフェニィは最年少なのだが。


「そうでしたか。……その、アイス君がフェニィさんを呼び捨てにしてるのは、フェニィさんからそうしてくれって言ったんですか?」


 ――僕は思わず口を挟む。


「いえ、そうではないんです。ただ、フェニィとは初対面の時に、その……心が繋がったと言いますか……色々ありまして、どうにも旧い知り合いのような感覚があったので、気安くしてしまっているんです」


 解術の影響で、互いの苦い過去を追体験した事は伏せた。

 仲間とは言えあまり人に話して欲しくはないだろう、と配慮したのだ。

 ……だが、僕のそれはあまり上手い言い訳では無かったようだ。


「へ、へぇ……それだと、ボクとアイス君はもう二年の付き合いになるのに、心が通じ合ってないって事になるのかな?」


 苛立ちを抑えながら、といった様子で皮肉を返された。

 ――あらぬ誤解をされてしまったようだ。


「い、いえ、そうではな……」

「――それに!」


 ルピィさんは僕の言い訳を遮って続けた。


「森にいるフェニィさんと接触する時もボクを遠ざけたよね? …………お姉ちゃんの件で、アイス君はまだボクに気を使ってるんじゃないの?」


 ――僕には答えられなかった。

 意識的、或いは無意識のうちに、ルピィさんを危険なことに巻き込まないようにしている事が、否定出来なかったからだ。

 たしかに僕は、何も出来ずにフゥさんを死なせてしまった事を負い目に感じているし、ルピィさんを不幸な目に逢わせたら、フゥさんに顔向けが出来ないとも思っている。


「もし、そうなら……そうならさ、そういうの止めてほしいな。……そんなのって、寂しいよ……」


 ――僕は言葉もなかった。

 ルピィさんもフェニィも僕より年長なのに、ルピィさんにだけ敬語を崩さないのは〔壁〕 を作っているように感じられたのだろう。

 僕にそんなつもりは無くとも、ルピィさんが疎外感を受けたのなら、それは僕の責任だ。

 ……僕はルピィさんを大事にしようと思うあまり、そんな簡単な事にも気付かなかったのだ。


「ごめん……ルピィさ……いや、ルピィ。……なんか急に呼び名が変わるのは馴れないね」


 僕は苦笑しながら続ける。


「人の呼び名って、ほとんどが出会った初期の頃に決定付けられた状態のままだしね。なにか切っ掛け、そうだね……友達から恋人になったりとかしない限りは、中々変わらないよね」

「こ、恋人!?  ……そう、だね、 改めてよろしくね、アイス……君」


 アイスで良いよ、と僕は伝えたが――


「……ちょっと恥ずかしいから、いいや」


 と言われてしまった。

 急に気安い口調にして、僕も恥ずかしかったというのに……。

ここから第二部を五話残してます。

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