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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣
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六一話 果たすべき誓い

 ブルさんが人間を信用できないのは当然の事だ。

 こうなれば、自らの行動で証を立てるしかない。


 しかし、ブルさんが再度ビームを放って僕がまた回避に成功した直後――ブルさんが爆発的な勢いで踏み込んできた。


 これは僕にビームが効かないことを前提にしている行動だ。

 異常な突進速度も脅威だが、この戦闘勘の冴えがなによりも恐ろしい。

 光線の強力さからすると遠距離戦主体の闘い方になってもおかしくないのに、ビームは牽制に留めて迷わず接近戦を選択している。

 

 ブルさんはクマらしからぬ二足歩行で僕に迫る――そして突進の勢いを殺さないままに凶悪な爪を振るう。

 僕がスッと避けると、そこから更にクマビーム!


 その行動も読んでいたので回避には成功するが……しかし光線をコンビネーションに絡められると実にやりづらい。


 だが、ピンチの後にチャンス有り。

 誰しも自慢の攻撃が躱された瞬間こそが、最も隙が生まれる瞬間だ。

 クマビームを避けた直後には、僕は〔ある魔術〕を発動していた。


 ――カッ。


「グゥッッ……」


 突如として眼前に出現した()に、ブルさんは呻き声を上げた。

 非殺傷魔術としてお気に入りの〔光術〕だ。

 これでもかと魔力を注ぎ込んでいるので目を瞑っていても眩しい。


 今でこそ通じないが、あのセレンですら初見には視界を奪われた魔術だ。

 標的に狙いを定めてビームを放った直後というタイミングで、その標的から前触れもなく目を焼くような光。

 これはさすがの熊神でも抗えるはずがない。


 目論み通り、ブルさんは恥ずかしがり屋な子供のように顔を手で覆っている。

 そう考えると、急にこのクマさんが可愛く見えてくるから不思議なものだ。


 いや、心を和ませている場合ではない。

 この千載一遇の好機に誓いを果たすべきだ。

 僕はブルさんの背後に回り込み――よっ、と飛び上がって背中に抱きつく。

 三メートル近く身長があるので首輪に触れるだけで一苦労だ。


 しかしこのクマさん……体毛がふかふかのモフモフで気持ち良いぞ!

 なんという柔らかさと安心感なのか……。

 寒い朝に布団から出られないかの如く、ずっと抱きついていたい気持ちになる。


 ……いや、いかんいかん。

 また悪いクセで目的を忘れるところだった。

 この忌まわしい首輪を早く外してあげなくては。


 僕は自省しつつ、首輪にそっと触れて魔力を流し込む…………よし、完了!

 ウルちゃんに続いて二回目となるので我ながら手際が良いものだ。


 だが、解呪に成功した僕が離脱しようと飛び退くと――「グォォッ!」とブルさんの爪が僕に襲い掛かった。


「っ……!」


 うむ、背中にがっしり抱きついていれば視界不良でも気付いて当然だ。

 お土産に鋭い爪をもらってしまったが、目的は達成出来たので問題は無い。

 ひと仕事終えたということで、僕は笑顔でブルさんに戦果を報告する。


「ふふ、約束通り首輪を外しましたよ。これで僕たちに闘う理由はありません!」


 取り外した首輪を突きつけて盛大にアピールだ。

 そう、僕は有言実行の男なのだ……!


「……何故ダ?」


 しかしブルさんの反応は予想と異なっていた。

 もっとこう『やったクマー!』と大喜びしてくれることを期待していたのだが、ブルさんは純粋に困惑しているように見える。

 首輪があっさり外れたので戸惑っているのだろうか……?


「……何故ダ?」


 ブルさんは再度同じ言葉を呟いた。

 猛っていた戦意は消えているようだが……おや?

 よく見るとブルさんの視線の先は首輪ではない。 


 その視線の先には、()()()()()()()()がある。


 そう――離脱際にブルさんが振るった爪は、僕の腕を切断していたのだ。

 僕は身体に魔力壁を張っているので簡単には切断できないはずなのだが、ブルさんは爪に〔斬術〕を行使していたらしい。

 派手なビームだけではなく小技にも長けているとは、恐ろしいクマさんである。


 しかし僕は腕を落としたくらいでは動揺しない。

 当然の如く、落としてしまった腕も回収済みだ。 

 財布を落としたのかと思ったらルピィに財布をスラれていた、なんて時の方がよっぽど動揺するというものだ。


 しかしなるほど、ようやくブルさんの疑問が分かったぞ。

 僕の腕を凝視しているということは、ブルさんは『何故そこまでするのだ?』と疑問に思っているに違いない。

 その答えは最初に告げているのだが……忘れてしまったのかな?


「嫌だなぁ、最初に言ったじゃないですか。僕はブルさんと友達になりたいだけですよ」


 将来の友達の為なら、腕を落とすくらいの事は小さな問題に過ぎない。

 重度の人間不信であるブルさんを説得しようというのだから、この程度の痛みで泣き言を漏らしていては話にならない。 

 奴隷として闘う道具にされていたブルさんは、もっと辛い目に遭っているのだ。

 

「それにご心配には及びません。僕は治癒術が得意ですからすぐにくっつけてしまいます」


 僕は笑顔で切断された腕を繋ぎつつ、混乱しているブルさんに安心を届ける。

 ブルさんが自分を責めるようなことがあってはいけないので、多少痛くとも顔に出したりはしないのだ。


 それに僕は肉体的苦痛には慣れている。

 この程度の痛み、シーレイさんに骨を砕かれる激痛に比べれば全く痛くない!


 ちなみに――人国最強の暴獣であるブルさんの首輪が外れているわけだが、闘技場内は想定していたほどのパニックには陥っていない。


 闘技台と観客席とは距離が離れているので、首輪が外れていることがよく見えていないという理由はあるだろう。

 首輪が外れたのと同じタイミングで僕の腕が宙を舞っていたこともあって、そちらに視線が集中しているという事情もある。


 だがそれ以上に、闘技場は別の要因で大騒ぎになっている真っ最中だ。


 闘技場の観客席の一画。

 ある場所を中心として、波紋のように観客が倒れている一画がある。

 集団昏倒の中心部にいるのは…………もちろん僕の仲間たち!

 そう、兄想いのセレンちゃんがまた魔力を漏らしてしまったのだ……!


 僕が久し振りに腕を落としたせいか、セレンは感情を昂らせてしまったらしい。

 僕の腕が切断された瞬間に強い殺意が発生していたのだが……自分の腕が落ちたことより観客席からの殺意の方にビクッとしてしまった。


 ブルさんに殺意を送っているのはセレンばかりではない。

 他の仲間たちからも強い敵意を感じているので、闘技台に乱入してこなかったのが不思議に思えるくらいだ。


 これはもう、仲間たちにも観客の皆さんにも申し訳無いという他ない。

 ……ふかふかの体毛に気を取られたことが影響しているので尚更だ。


 しかし、それはそれとしてだ。

 こうなってしまったからには迅速に行動する必要性があるだろう。


 ブルさんの首輪を外すことを決意した時点で諦めていたが、闘技大会で優勝して国王に面会するという手段はもはや絶望的だ。

 仮に僕がこのまま優勝したとしても、人国が誇る熊神の枷が外れているので闘技大会の進行どころではないはずだ。


 そしてなにより、僕との接触後にブルさんの首輪が外れているわけである。

 客観的に考えて、僕が人国側に警戒されることは避けられないだろう。


 ここは速やかに別のプランに移行すべきだ。

 叶うならば、ブルさんの協力が欲しい。


 そのブルさんは……外れた首輪と、僕の外れた腕を見ながら黙り込んでいる。

 敵意は欠片も感じられないが、僕の友好的な気持ちが届いたのだろうか……?


「…………お前は、人間では無イ」


 長い沈黙の後に出てきた言葉は、僕の意表を突いたものだった。

 人間が憎いという気持ちは消えないようだが、僕という存在は〔人間ではない〕と決めつけることで心の折り合いをつけてくれたらしい。


 僕が人間扱いされていないのはともかくとして、つまりこれは『友達になるクマ!』と心を開いてくれたということだ……!


「いやぁ、それは良かったです!」


 なにはともあれ、これで僕の友達の輪が広がったことになる。

 友情の証として強引にブルさんと握手をしてしまうのも仕方がない。

 むっ……これは、肉球がプニプニではないか!


 そう、熊神の真価は武力などではなかった。

 ふかふかの体毛にプニプニの肉球とは、もはやこれこそが国の宝ですよ……!


「――オイ」


 おっと、いけない。

 つい肉球の感触に心を奪われて我を忘れてプニプニしてしまった。

 ブルさんは怒っているというよりは困惑している様子だが、さすがにこれは僕が非礼だったと言わざるを得ない。


 それに今はアニマルセラピーで癒されている場合ではない。

 僕にはまだやるべき事があるのだ。


「ところでブルさん。物は相談なんですが……」


 新しい友人に早速のお願い事をするのは気が引けるが、これはブルさんにも利があることなので問題は無い。


 僕の言葉を黙ったまま聞くブルさん。

 そして、僕が今後の計画を語り終えると、「お前に従ウ」と了承してくれた。

 主従関係ではないので『従う』という言葉は引っ掛かるところだが……これで、後は計画を実行に移すのみだ。


あと三話で第三部は終了となります。

明日も夜に投稿予定。

次回、六二話〔ごく自然な対面〕

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