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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣
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五九話 保証される安心

 これはルピィが警告してくれたことにも納得だ。

 あのヒグマは大会創始から二十年間負け知らずらしいが、一見しただけでも超越した存在であることが理解出来る。

 神獣が相手でも容易く返り討ちにするだけの力を秘めているのは間違いない。


 だが、うちのマカならどうだろうか?


 ヒグマは戦争にも参加していたということで、二十年以上は実戦の場に身を置いていた歴戦のレア神持ちということになる。

 対してマカは年齢こそ二歳くらいのはずだが、厳しい戦闘訓練をみっちり積んでいる上に実戦経験も豊富だ。


 分が悪いことは認めざるを得ないが、やり方次第で勝機はないこともない。

 マカはこのライバルをどう見るのかな? と、早く帰りたいと駄々をこねていた仔猫を見てみると――マカは固まっている!


 驚愕に見開かれた瞳からすると「こんなのと闘うなんて聞いてないニャン!」といったところだろう。

 マカは危険に敏感な仔猫なのでヒグマの異常性に気付かないはずがないと思っていたが、これは予想以上の反応だ。


 模擬戦でも勝てる勝負以外はやりたがらない傾向があるので、楽勝なはずの闘技大会にとんでもない隠し玉が出てきたことにショックを受けているらしい。


 しかし、戦意を喪失していては勝てるものも勝てなくなる。

 ここはポジティブな要素を伝えて安心させてあげるとしよう。


「心配する必要は無いよマカ。あのクマさんは人間社会で生きてきた神獣だよ? ――そう、平和的に説得が出来るはずさ!」


 僕の目的は人国の奴隷制度の全廃にある。

 当然の事ながら非道な首輪は全て処分するつもりでいるし、それはあのヒグマに着けられている首輪も例外ではない。

 利害が一致する上に言葉が通じる可能性が高いとなれば、クマさんに説得を試みない手はないだろう。


『首輪を外すので降参してもらえませんか?』

『分かったクマ!』


 うむ、僕には説得の成功絵図が見えている。

 まさに非の打ち所がないプランと言っても過言ではない。

 疑り深いマカは猜疑心に満ちた顔をしているが、僕の交渉術をもってすれば成功は約束されているようなものである。


 あとは、クマさんと会話可能であることを確認したいところだ。

 試合中にパートナーと会話でもしてくれると理想的なのだが……。


 そんな僕の願いが通じたのか――檻から出されたヒグマは低い声で、それでいて会場中に聞こえる力強い声で言葉を発した。


「――皆殺しダ」


 くっっ、なんてことだ!

 平和的話し合いが出来る気がしない……!


 だが聞くところでは、彼は幼少期から奴隷生活を強要されていたらしいのだ。

 クマさんの心が憎しみに心が染まっていたとしても責められるはずがない。


 おっと……いけない。

 クマさんの〔皆殺し宣言〕の影響か、マカの心が折れかけているのが分かる。


 この仔猫は調子に乗っている時には大胆だが、本質的には臆病なニャンコだ。

 ここは悲観的なマカをポジティブ攻勢でその気にさせるしかない。


「ま、まぁ、あれだよ。実際に闘ってみたら意外と大したことないかも知れないよ?」


 思ってもいないことを口にする僕。

 マカは「どう見てもやばい奴ニャン!」と否定的な目線で僕を見ているが、クマさんの脅威度を判断するのはこの試合を観戦してからでも遅くはないだろう。


 仔猫を宥めすかしつつ待っていると、クマさんの試合は始まった。


「グォォォッ!!」


 そして、始まると同時に終わった。

 試合開始と同時にヒグマが大口を開け――口から光線を放ったのだ!


 まさにそれは巨大なビーム。

 これではクマというより…………ロボ!

 子供の頃に絵本で見た〔ロボットのビーム〕そのものである……!


 咆哮に魔力を乗せて放ったことは頭では理解しているのだが、なにしろ見た目のインパクトが凄まじい。

 対戦相手の人間の頭部を光の束が通過していくと、その光線の後には〔頭を失った身体〕だけしか残っていない。


 恐ろしい威力のビームなので二次被害を心配してしまうところだが、意外にも殺人ビームは闘技場の壁に当たってあっさりと消えた。

 熊神の為に開催されている大会だけあって、壁にもお金を使っているようだ。


 しかしあのヒグマ、魔獣を無視して人間を先に狙っている。

 その理由は考えるまでもない、宣言通りに〔皆殺し〕にする為だろう。


 魔獣だけを先に殺害してしまうと人間にギブアップされてしまうので、有無を言わさず人間を先に始末したに違いない。

 呆然としている魔獣の首を容赦なく刈り取っていることからも、魔獣に情けをかけた訳ではないのは明白だ。


 そして、あのビームの速さからすれば首輪を絞められる前にパートナーを殺害出来そうなものだが、パートナーから操作板を奪っても他の操作板で締められてしまうので逃れられないのだろう。


 そう――首輪を制御する操作板は、全ての首輪に共通する物だ。

 操作板を作動させた際に無関係な奴隷が近くに存在していると、その奴隷も首を絞められてしまうことになる。

 欠陥魔道具のようにも思えるが、連帯責任を負わせるという意味では効果的だ。


 しかしなるほど……この大会には妙なルールがいくつかあると思ったが、その理由がようやく分かった。


 まず第一に、本戦出場が決まっただけで賞金が貰えるというルール。

 そして、ギブアップをする際には交戦してからでないと認められないというルールもある。


 戦闘前の棄権で大会が盛り下がることを懸念してのルールかと思っていたが、この一方的な蹂躙劇を見れば理由は明らかだ。

 人国の武威を知らしめる為に毎年開催されている闘技大会だが、ヒグマの闘いを一度でも観戦すれば挑もうなどと思うはずがない。


 だからこそ、本戦出場賞金をエサに――()()()()()()()()()()()()()()

 手強い相手だと分かっていたが、これは評価を上方修正せざるを得ないだろう。


 おっと……いけないいけない。

 可愛いマカちゃんがビームを見てから黙り込んでいるではないか。


「いやぁ、凄いビームだったね! 過激な言動のわりにクマさんが大人気なのも分かるよ、うんうん」


 ヒールな言動ではあるが、クマさんの派手な勝利には闘技場の観客は大喝采だ。

 他者を寄せ付けない圧倒的な強さなので、国民にとっては頼りになる守護神のように感じられているのかも知れない。


 死者が出ているのに大喜びしている光景にはルピィに通じる危うさがあるが、この国の人間ならば闘技大会に参加する危険性は覚悟していたはずなので仕方がないとも言える。


 しかし、我らがニャンコはその闘う覚悟が怪しいようだ。

 僕が話し掛けても、マカは置物のように動くことなく鳴き声も上げない。


 はは〜ん、ピンと来たぞ。

 友達であるマカの心配事は僕にはお見通しだ。


「ふふ……分かってるよマカ。大丈夫だよ、もしマカが殺されたら必ず僕が仇を討つからね!」


 マカとて腕を磨いてきた一端(いっぱし)の強者。

 鍛錬を積んだからこそ、力及ばずで勝ち逃げされる事が認められられないのだ。


 しかしその心配はご無用。

 たとえマカが『無念ニャ』と志半ばで力尽きたとしても、僕がその意志を継いであげようではないか……!


 そもそも僕がマカを死なせるはずもないが、それは言わずと知れている事なので改めて宣言するまでもない。

 だが、僕の〔安心敵討ち保証〕に、マカが口を開くことは無かった――


明日も夜に投稿予定。

次回、六十話〔疑惑の決勝戦〕

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