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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣
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五八話 降臨する覇者

 トーナメントは着々と消化されていき、僕たちの第二試合が間もなく始まる。

 そして、今日はこれが最後の試合だ。

 この試合に勝てば決勝を残すのみとなるが、決勝戦は明日となっているのだ。


 もちろん、明日の決勝戦の事だけを考えているわけではない。

 僕は慢心などしないので、これから闘う対戦相手の前試合も確認済みである。


 次の対戦相手は、魔獣と人間の役割分担が出来ている理想的なペアだ。

 前試合では魔獣が前衛を務めて人間が後衛で補助魔術を行使するという、まさに魔獣闘技大会の名に相応しい闘いぶりを見せてくれた。

 ……これまで関係が破綻しているペアが多過ぎたので余計に感心させられた。


「――始めっ!」

「――――ニャッ!」


 だがマカの敵としては相手にならない。

 試合開始早々に巨雷が闘技台に降り注ぎ、サイの魔獣は一歩も動くことなく消し炭となってしまった。


 実のところマカは試合開始前から雷術の魔力を練っていたのだが、証拠は残っていないので何も問題は無い。

 本当なら魔獣の傍らに立っていた男が気付くべきだったのだろうが、魔力の気配に疎い人間は多いので仕方がないところだろう。


 そして、マカがこれほど高い戦闘意欲を見せているのには理由がある。


 マカは敵を焼き払った直後にはフードに飛び込み、「早く帰るニャ」とばかりに雷術で僕を痺れさせながら急かしている――そう、この仔猫は帰ってジンギスカンを食べることしか考えていない!

 ……どうやら久し振りに羊を見た影響でジンギスカン欲が高まっているらしい。


 まだ厳密には試合は終わっていないのだが……尻餅をついて固まっている男の様子からすると、もはや決着はついているとも言えるだろう。

 試合前には『オレ様に同じ手が通じると思うなよ!』と威圧的に挨拶されたのだが、今となっては見る影もない。


 普通の魔獣では神獣相手に勝ち目がないのは分かりきった事ではある。

 だが初戦ではマカジャンプからの抜き打ちしか見せていなかった事もあって、初撃を躱せば何とかなるという甘い幻想を抱いていた様子だった。

 ……この大会は戦闘前の棄権が禁止されているので、どのみちこの男は闘わざるを得なかったという事情もあるのだが。


 初戦での斬撃のインパクトが強すぎたせいか、男は接近戦を避けようとしていたようだが、マカが雷神の加護持ちという事実を失念していては命取りだ。


 今はもう、この闘技場でマカの実力を疑う人間はいないだろう。

 闘技台を襲った巨雷は、マカが雷神持ちであることを鮮烈に印象付けたのだ。


 震え声で降参を告げる対戦相手だけではない。

 圧倒的な豪雷が放たれたことにより、闘技場の空気は一変している。


 顕著(けんちょ)なのが貴賓(きひん)席周辺だ。

 闘技場の上層区画に設けられている――ガラス越しに観戦可能な貴賓席。


 マカの雷術であれば王族に危害を加えることも可能だと思われたのだろう、警備の人間が慌ただしく動いている気配がするのだ。

 そう――王族だ。


 魔獣闘技大会には、国王だけではなく王族一行が訪れているのである。

 王族の大会観戦は、この大会が毎年開催されることになった〔要因〕にも関係しているのだが、それは次の試合で顔を見せることになるだろう。


「マカ、もうちょっとだけ帰るのは待っててね。次の試合だけは観ておく必要があるんだ」


 早く帰ってジンギスカンを食べたがっているマカには悪いが、これはこのニャンコの為でもある。


 僕は予選で全参加者を確認したつもりでいたが、実はそうでは無かった。

 この闘技大会には予選を免除されている〔シード枠〕が存在したのだ。


 本戦を二回勝てば優勝という特別待遇の枠だが、この闘技大会のことを知る者で特別扱いに文句をつける人間はいない。

 それもそのはず、その対象は前回優勝者……いや、闘技大会が始まった二十年前から絶対王者として君臨している覇者だ。


 この魔獣闘技大会は、その覇者の力を知らしめる為に――人国の最強戦力を誇示する為に開催されていると言えるのだ。

 マカの雷術でざわついていた闘技場の空気は、その覇者の声で一変した。


「グォォォッ……!!!」


 突然、闘技場に咆哮(ほうこう)が響き渡る。

 大気をビリビリと震えさせるその声に、場内のざわめきが止まった。

 無力な子供が猛獣に睨まれたかのように、人々の本能が根源的な恐怖を感じ取ったような雰囲気だ。


 そして、()()は現れた。


 入場口から現れたそれは、檻に入れられている。

 それは檻の中にいても、忌まわしき〔首輪〕を付けられていることが分かっていても、恐れを抱かずにはいられないような存在だ。


 それは、全長三メートルの〔ヒグマ〕だ。

 異形ではなく、通常種と変わらない大きさ。

 そしてこの魔大陸では、()()()()()()()()


 僕らの大陸と比較して、魔大陸では神持ちの外見的特徴が真逆になっている。

 魔大陸の神持ちは人間が異形となり、神獣は通常種と外見が変わらない姿だ。


 そしてこのヒグマだ。

 通常種と同様の外見でありながら明らかな異常性を感じさせる威圧感。

 これが魔獣でないなら、答えは一つしかない――――そう、神獣だ。


 しかもこのヒグマはただの神獣ではない。

 離れた距離からでも感じる暴風のような魔力。


 セレンやフェニィの魔力が常人の体調不良を誘発させるものだとしたら、この魔力は精神不良を発生させる類のものだと思われる。

 観客席とは距離があるので影響は小さいようだが、異様なまでに怯えている観客の姿がちらほらと見られるのだ。

 それらの観客には魔力量が少ないという共通点があるので、おそらく魔力抵抗が低いとヒグマの魔力を浴びるだけで強い恐怖に襲われるのではないだろうか?


 神付きの加護には技能系や魔術系などのレアな加護が存在するが……僕の視たところ、このヒグマは魔術系の神持ちに匹敵するほどの膨大な魔力量を持ちながらも、魔力の質は魔術系とは完全に別物だ。


 ヒグマの加護についてはルピィに教えてもらっているのだが、実際にこの眼で視ても驚きを隠し切れない。

 その加護は、武器系でもなければ魔術系でもない――〔熊神〕の加護だ。


 言うなれば種族系という事になるが、僕の知る加護に種族を冠したものはない。

 単純に加護の希少度で判断するならば、僕たちの大陸の〔武神〕や〔闘神〕に該当するレア加護であることは間違いないだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、五九話〔保証される安心〕

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