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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣
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五六話 隠されていた情報

「何もしてないのに本戦出場を決めたアイス君、今日はちゃんと頑張ってね!」


 本戦開始を間近に控えた闘技場で、ルピィから嫌味のような激励を受ける。

 昨日の予選について文句を言っているようにも聞こえるが、実際のところグダグダな大会予選を誰よりも楽しんでいたのがルピィだ。

 男が大蛇に丸呑みにされている時などは、得意の非人道的精神を存分に発揮して大喜びしていたほどだ。


 ルピィだけではなく、他の仲間たちもこの大会をそれぞれの形で楽しんでいる。


 昨日の予選中には常にもぐもぐしていたフェニィとアイファは、今日も観戦することより食べることに興味が向いているらしい。

 露店で購入した食べ物を両手の袋いっぱいに詰め込んでいる姿は、どことなく大家族の食卓を受け持つ母親のようでもある。


 これから始まる本戦のトーナメントに不安そうにしているのが、ウルちゃんとレットの組み合わせだ。

 もちろん言うまでもなく、両者が不安に感じている内容はまるで違う。


 ウルちゃんの方は、僕とマカがまともに戦闘しているところを見たことが無いからなのか、怪我でもするんじゃないかと心配してくれている。


 一方のレットに関してはウルちゃんとは真逆だ。

 親友の訝しむような失礼な視線は、僕が何かとんでもない問題を起こすんじゃないかと疑っている眼だ。


 そう、この男は長い付き合いなのに僕のことを全く信用していないのだ。

 大会で優勝した暁には、国王への圧倒的な説得を目の当たりにして僕を疑ったことを反省することになるだろう。


 そして、仲間内で唯一この大会を楽しめていない様子なのがセレンだ。

 僕が観客からブーイングを受けていた時も不愉快そうだったが、なによりここ数日のマカが調子に乗りまくっていることがセレンには面白くないようだ。


 セレンがマカを見る眼は〔事故死に見せかけて処分する方法〕を模索しているような不穏な視線なので、かなりストレスを溜めていることが見て取れる。

 可愛い妹には申し訳ないのだが、マカにとっては何のメリットも無い大会に参加してくれている訳なのだから大目に見てもらいたいところだ。

 

「それにしても……国王がこの街に来るタイミングで魔大陸に到着出来たのは幸運だったね」


 王宮がある人国の首都はこの街からは遠い。

 国王が港街にやって来るのは闘技大会の時期のみなので、実に時宜を得ていると言えるだろう。


「ふふっ、当然じゃん。アオさんが闘技大会に間に合うように急いでくれたからね!」


 おやおや?

 おかしいな……リーダーの僕が聞いたことのない新情報ではないか。


 副船長のアオさんが渡航先の情報を把握していて、僕たちの目的の為に船速を調整してくれたことは理解出来る。

 天気予測以外は優秀なアオさんらしい配慮だ。


 問題は、なぜそれを僕が知らされてなかったのか? という点にある。


 国王が来訪する予定の闘技大会の存在を事前に知っていたのなら、僕たちが中商会に乗り込む必要性は無かったのだ。

 国王と会談する道筋を作るべく、中商会から大商会に紹介してもらう計画だったので、直接国王と会える機会があるなら回り道をする必要は無かったのである。


 つまり――〔ドキドキの商会訪問〜ポロリもあるよ〜〕は未然に防がれていたはずなのだ……!


 おのれルピィめ、自分が楽しむ為に情報を伏せていたとは悪辣な。

 店主が〔究極のイエスマン〕と化した時には大爆笑していたくらいだ。

 さぞルピィの思惑通りの展開だったに違いない。


 どんな想定をしていればあんな結末が予想出来るのかはともかく、ルピィの手のひらの上で踊らされている感が否めない。

 結果的にはウルちゃんの敵に意趣返しが出来たので構わないとも言えるが……。


 ……いや、駄目だ。

 なぁなぁで流してはルピィが成長しない。

 ここはルピィの為にも苦言を言ってあげるべきところだ。


「やれやれ、情報共有は基本中の基本だよ? まぁ、結果自体は悪くないから広い心で許してあげおおあええ……」


 広い心を持つ僕が許してあげようとすると、狭い心を持つルピィが「生意気な!」と襲い掛かってきた。

 僕の頬をこねこねするという暴虐により、自身への許しの言葉すらも封殺している有様である。

 これで本人は寛大な心を持っているつもりなのだから度し難いものだ。


「まったく……そんな態度じゃライバルに関する情報を教えてあげないよ?」


 僕をイジり倒して満足したらしいルピィが妙な事を口にした。

 昨日の予選を見渡す限りでは、マカ以外には神獣もおらず飛び抜けて強力な魔獣もいなかった。


 ルピィに教示してもらうまでもなく楽勝だと見込んでいたので、警戒すべき相手がいるかのようなルピィの言葉には違和感を覚える。


「その顔は『優しくて気が利くルピィに教えてもらわなくても楽勝だよ!』って顔だね。――甘い、甘いよアイス君!」


 得意の読心術で僕の心を読んでいることは良いが、相変わらず盛大にポジティブ解釈をしているようだ。


 しかし、この様子からすると本当に要警戒対象が存在しているらしい。

 本戦のトーナメントは消化試合だとばかり思っていたが、朝食を終えて眠っているマカの代わりに僕が警戒しておくとしよう――


明日も夜に投稿予定。

次回、五七話〔無双する仔猫〕

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