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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣

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四五話 港での出会い

 あわよくば男にお仕置きしようと考えながら、僕は男に向かって歩き出す。

 だが、不意にスッと伸びてきた腕に制止させられた。


「……任せておけ」


 その大きな腕の主は、フェニィだ。

 僕の代わりに男を叱責しようというのだろうか?

 なんだろう……嫌な予感しかしないぞ。

 どう考えても、男の身体が持ち運びしやすくされそうなイメージしか湧かない。


 しかし、一方的に決めつけて拒絶してしまうのはどうなのか。

 それはフェニィが成長する機会を奪うことになるのではないか?


 そう、成長だ。

 破天荒なフェニィではあるが、これでも少しずつ成長の兆しを見せている。


 二分割から始まり、持ち運びに便利な四分割。

 最近の成果などは特に目を見張るものだろう。

 なにしろ腕をもぎ取ってショック死させるというアクロバティックな手法だ。


 ……おや、気のせいか凶悪化しているような?

 うぅむ……迷う、実に迷うところだ。

 よし、ここは自分の心に尋ねてみるとしよう――


『オレの名は二分割。部屋の加湿なら任しときな!』

『俺はモギー。右腕をもがれさせたら俺の右に出る者はいねぇ!』


 おっと、意外にも僕の心のトラウマさんたちは乗り気だ。

 だがモギーさんはともかく、二分割さんは大勢いるので誰が誰だか分からない。


 ここは二分割一郎、二分割次郎と名付けていくべきだろうか……?

 しかし、なんとなく語感が『二分割やめろう』に似ているのが問題だ。

 そう、被害者たちの悲痛な叫びのようじゃないか……!


 僕が被害者について心を砕いている内に――既にフェニィは歩み始めていた。

 いかん、彼女がやる気に満ちている時は高確率で死者が出る結果になる。

 僕は慌ててフェニィに声を掛ける。


「わ、分かってるよね? 真っ二つは絶対に駄目だよ?」


 騒ぎを起こすのは厳禁と事前に言い含めてあるが、フェニィには前科が多い。

 何度も注意するのは失礼なのだが、過去の実績を考慮することは当然だ。

 いくら憎い相手であっても、この状況下で派手な殺人事件を起こすのはまずい。


「…………ん」


 長い沈黙が気になるところではあるが、フェニィは素直に頷いてくれた。

 うむ、成長したフェニィの交渉術を見せてもらおうじゃないか。


 のっしのっしと絶対的な自信を感じさせる足取りで歩むフェニィ。

 この様子からすると彼女には勝算があるのだろう。


 交渉人の先輩として着目すべき点は、第一声だ。

 あの男に文句があるとしても、いきなり罵倒から入るようではいけない。


 扉が閉まったまま話し掛けたところで言葉は届かないのだ。

 まずは相手の心の扉を開けて、こちらの言葉が届く状態を作った上で、誠意を持って叱責するべきなのである。


 あの男の身なりからすると、相手は商人だ。

 ならば、商人風の挨拶から入ることが望ましい――


『儲かりまっか? ――そう、お前は死刑や!』


 おっと、つい怒りがぶり返してしまった……!

 会話の流れを無視して死刑宣告とは野蛮過ぎる!


 まったく、僕がこんなことではフェニィに申し訳が立たない。

 だが、僕の会話術を間近に見てきた彼女なら上手くやってくれるはずだろう。


 長身の女性が威圧感を発しながら歩いてくる姿に、男の方も気が付いたようだ。

 警戒している様子でフェニィを観察していたが、いよいよという距離に至ったところで男が口を開く。


「なん……っぎゃぁぁっ!」


 しかし、男が喋りかけたかと思えば――――やっぱり殺ってしまった!

 魔大陸上陸から十分も経過してないのに早くもワンキル達成だ……!


 男はフェニィの目的を問い(ただ)そうとしたのかも知れないが、男の真意は永久に閉ざされてしまった。


 たしかに約束通り二分割にはしていない。

 言うなればそれは、因果応報。

 幼女が足蹴にされた事にはフェニィも腹を据えかねていたのか、意趣返しのように強烈な前蹴りを炸裂させたのだ。


 しかも恐ろしいことに、蹴りが直撃したはずの男は立ったままだ。

 男は立ったまま――腹部に大穴を開けている!


 蹴りが直撃した部分が、パーツを抜いたように空洞になっている。

 一体どんな蹴り方をすればこんな惨状になるというのか……。


 魔爪術での人体切断に炎術を利用しているように、自身の蹴りに炎術を付与したのだろうか……?

 あれでフェニィは器用なところがあるので、それくらいの芸当はやってのけても不思議ではない。


 しかし『殺してはいけない、騒ぎを起こしてはいけない』と伝えた僕の注意はどこに消えたのだろう。

 そしてあの男の腹部もどこに消えたのだろう。

『実家に帰らせていただきます』とばかりに遠くに出奔してしまったのだろうか…………実家はここなのに!


 いや、現実逃避をしている場合ではない。

 もはや見慣れた光景になりつつあるのが嫌だが、フェニィの凶行により港は大パニックになっている。


 ――これは交易船の人たちと早々に別れておいて正解だ。

 危うく軍国のイメージ悪化を致命的なものにしてしまうところだった。

 交易船ではなく〔侵略船〕だったと言われても否定できないほどだ。


 ともかく、穴の開いた死体をなんとかしなくては。

 しゃがみ込んで観察してみると、穴越しに恐れおののいている通行人の顔が見えるほどの大きな穴だ。

 よし、ここは関係者として恐れを取り除いてあげよう。

 僕は目が合った男性にニッコリ微笑みかける――身体の穴から『こんにちは!』


 だが不思議にも、男性はますます怯えた様子になって逃げ出してしまった。

 おかしいな、何がまずかったのだろう……?

 背中に背負っている天穿ちが威圧感を与えてしまったのだろうか?


明日も夜に投稿予定。

次回、四六話〔直される歪み〕

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