表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣
255/309

四二話 魔大陸

 水平線の彼方には大地が見える。


 出港から一カ月強、遂に僕たちは魔大陸を視界に(とら)えていた。

 一カ月という期間は長く感じられるが、従来の交易船では数カ月は掛かっていたはずなので、実際には驚異的な早さだと言えるだろう。


 この早さは船の基本性能の高さもさることながら、強烈な嵐にも物ともしない船長さんの操船技術があってこそのものだ。……嵐の際には酷く狼狽していたが。


 だが船長さんが嵐に動揺していても、アオさんは『私の予測が的中したようだな』と、四連続で天気予測を外したことを感じさせない得意満面での余裕ぶりだ。

 結果的には、泰然自若としたアオさんの態度が船長さんを落ち着かせていたようなので、副船長としては適任な人材なのだろう。


「にくぅ〜。にくが食べたいぃ〜〜」


 肉、肉、と蛮族のような声を上げているのはルピィだ。

 魚介類が中心の航行生活だったので飽きっぽいルピィには限界だったのだろう。


 なるべく飽きさせないようにと工夫を凝らしてはいたが、一カ月以上の航海ともなると限界がある。

 食いしん坊組は不満の声を上げるようなことは無かったものの、僕とてルピィ寄りの意見だと言わざるを得ない。


「港街だから魚料理の店が多そうだけど……僕も肉料理が食べたいし、良い店を探してみようか」


 僕の言葉に「ボクに任せといてよ」とルピィは嬉しそうだが、久しぶりの肉料理に喜んでいるのは彼女だけではない。

 セレンやレットですら毎日の魚料理には食傷ぎみだったのか、なんとなく陸の食事を楽しみにしているような雰囲気がある。


 そして当然、食いしん坊組も久々の肉料理には胸を躍らせている。


 毎日が好物の魚料理ということで常に機嫌が良さそうだったフェニィも、だんだんと近付いてくる魔大陸に鋭い視線を向けている。

 鋭くはあっても冷たくはないフェニィの視線からすると、新大陸に警戒しているわけではなく、常人離れした視力で飲食店を探しているのだろう。


 そしてマカの反応も、フェニィの反応と方向性が似ている。

 この仔猫ちゃん、僕の頭の上に登って直立不動で魔大陸を眺めているのだ。

 船の揺れで足場が不安定になっているのに、それを感じさせない器用な芸当だ。

 これはさすがのバランス感覚だと称賛すべきところだろう。


 しかし、マカが僕の頭に立っていればセレンが不快感を示すことになる。

 セレンは僕が軽んじられるのを嫌っていることから、仔猫が僕の頭上に立っているという光景が我慢ならないようなのだ。


 今にもマカを海に叩き落としそうな目をしているので、可愛い妹を優しく視線で制止しておくことは必須である。

 さすがに頭の上で『お漏らしニャン!』なんてことをやったら問答無用で瞬殺されるだろうが、お気楽生活が続いていたマカとてそこまでは堕落していないので大丈夫だ。


 そして最後の食いしん坊。

 知らない土地の名物料理を誰よりも楽しみにしているのが、アイファだ。

 アイファは眼前に見えている魔大陸に興奮を隠そうともしない。


「あれが魔大陸か。うむ……まずは牛か豚、もしくは鳥の肉が良いな!」


 そしてやはり、アイファの頭の中は肉でいっぱいである。

 彼女が犯罪捜査官になったら『犯人は十代から六十代の男だな』と、独自のプロファイリングによる名推理を披露してくれそうな残念発言を呟いている。

 しかも犯人は〔女〕という完璧なオチもつけてくれることだろう。


 だが旅行を楽しむことは良いが、皆の気を引き締めておかなければならない。


「魔大陸が楽しみなのは分かるけど、僕たちは遊びに来たわけじゃないからね? まずは目立たず慎重に行動しよう」


 魔大陸は敵地だと想定して行動すべきだ。

 いつもの如く、不必要に目立って注目を浴びることは避けなければならない。


 レットが「アイスが言っても説得力がねぇな」と不可解なことを言っているが、僕は仲間内でのアンカー的存在だ。

 常識から外れようとする仲間を繋ぎとめている存在なのだから、僕ほど説得力がある人間もいないことだろう。


 ――些細な事故の影響により、僕たちは呪神から情報を引き出し損ねた。

 その結果として、神との交渉で世界への干渉を止めてもらうことが目的であるにも関わらず、その神に接触する手段が分からないという問題を抱えている。


 僕は魔力が視認出来るので、視界に入りさえすれば神を見つけることは可能だ。

 しかし、顔も名前も分からない相手を探すことは容易ではない。

 この広大な魔大陸を当てもなく探し回るのは非現実的に過ぎる。


 だがもちろん、僕たちは無計画で魔大陸に来たわけではない。

 これから僕たちが降り立つのは魔大陸の西側――〔人国〕の領域だ。


 魔大陸には、西の〔人国〕と東の〔獣国〕が存在する。

 僕たちの大陸が争いの歴史で綴られていたように、この両国も数百年に渡っての戦争の歴史がある。


 数百年、不自然なほどに長い戦争だ。

 まず間違いなく、この戦争には人の手……いや、神の手が介入しているはずだ。

 数百年も均衡状態を保ったまま戦争が続くという状況は不自然過ぎるので、世界の安定を望まない存在が作為的に調整しているとしか思えない。


 そこで僕の出番である。

 僕の平和的交渉術により、両国の戦争を収めてみせようというわけだ。

 個人的に戦争を止めたいという気持ちはあるが、目的はそれだけではない。


 神が世界を歪めているのならば、僕はその歪みを真っ向から是正(ぜせい)していく。

 自分が歪めているものを直していく人間がいれば、目に留まらないはずがない。

 魔大陸の戦争の歴史は歪みそのものなので、魔大陸の戦争を終結させるように行動していけば、自ずと神に接触することになる可能性が高いというわけである。


 呪神は自分が世界の管理者だと明言していた。

 しかし呪神が管理者だとしても、その管理方法には様々なケースが考えられる。


 この世界には幾つもの大陸が存在しているが、呪神一人で複数の大陸に干渉することは物理的にも難しいのだ。

 他大陸には呪神の部下に相当する神、或いは砕神のマジードのような子飼いの神持ちが居ると考えるのが妥当だろう。


 いずれにしても、魔大陸がカギとなっていることは間違いない。

 呪神は〔自分が死んだら魔大陸から代わりが来る〕と言っていたので、魔大陸に神が存在しているか、もしくは神へ繋がる何かがあることだけは確定的だ。


 当面の目標は魔大陸での戦争を止めることだが、その為に僕たちがどのように動いていくかはこれからの課題だ。

 まずはこの国、人国で情報収集を行って現場の状況を知ることが先決となる。


 そして僕が慎重に行動しようと提言しているのは、神対策のことだけではない。


「僕らは軍国の交易船に乗ってきたんだから、暴れ回って迷惑を掛けるようなことは駄目だよ?」


 軍国の交易船に同乗しているということで、僕らが悪事を働けば軍国全体のイメージ悪化に繋がることになる。

 実際には交易とは無関係で、この船には便乗しただけなのだが、同じ軍国人ということで同類として扱われるのは当然だ。


「ふふっ、分かってるよアイス君。ゆっくり肉でも食べながら情報収集といこうじゃないの」


 ルピィにしてはまともな発言内容だが、航海初日に肩パッド事件を起こしたことからも分かるように、その行動は全く信用出来るものではない。

 この面子で危機に陥るイメージは湧かないものの、魔大陸で指名手配されるような事態になると軍国の問題になってしまうので油断は禁物だ。


明日も夜に投稿予定。

次回、四三話〔思い出の肩パッド〕

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ