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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣
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三六話 察すべき心中

 王都の大教会、その一室。

 僕たちは襲撃者を撃退したその足で、大教会内で生活しているレオーゼさんの居室を訪れていた。


「どうして神は私たちを放って置いてくれないのかしらね……」


 魔大陸からの襲撃者の件を告げると、レオーゼさんは悲しげな声を漏らした。


 レオーゼさんには神が実在することも伝えてあるが、その上で今回の襲撃は〔神の意思〕による可能性が高いという見解を告げたのだ。


 神案件にレオーゼさんを関わらせてしまうのは気が進まないが、魔大陸が関わっている以上は彼女に相談しないわけにはいかない。

 思わぬところから神の手掛かりが出てくるかも知れないのだ。


「ごめんなさい。透明になるような術の話は聞いたことがないわ」


 襲撃者の心当たりについても尋ねてみたが、レオーゼさんは知らないようだ。

 術の特性を考えれば一般に知られている可能性は低いと見ていたので、これは意外なことではない。


 しかしこのレオーゼさん……触れ合いに飢えているのかは分からないが、会話をしていると僕の身体に触るクセがあるらしい。

 今も無意識のように僕の肩を撫でているので少しドキドキするものがある。


 なにしろ彼女に対抗するようにシーレイさんまで僕にさわさわしているのだ。

 綺麗なお姉さんたちに身体を撫でられるとさすがに気恥ずかしい。


 そんな僕の葛藤と、仲間たちの刺々しい視線に気が付いたのか、「あっ、ごめんなさい」とレオーゼさんは僕から手を放すが、シーレイさんは気にせずにタッチングを続けている。

 ……これは男女が逆なら大問題となってしまうところだろう。


 しかし女性が男性にタッチすることは社会的に許される風潮があるが、これが逆となると問答無用で『痴漢!』となるのは理不尽ではないだろうか?

 もっとも僕はシーレイさんに触られることは嫌ではないので、いずれにしてもセクハラには該当しないのだが。


 だが、空気を読めないシーレイさんに苛立ったのか――フェニィがバシっとシーレイさんの手を払い除けた。

 そしてそれを合図に、好戦的な二人の取っ組み合いが始まる。


 レオーゼさんは心配そうだが、僕にとっては日常茶飯事なので気にしない。

 僕からは「部屋を壊したら駄目だよ?」と軽く注意をするのみだ。


 これでこの二人は少しずつ打ち解けている傾向がある。

 むしろ軽い喧嘩をすることで有り余っている力を発散している面すらあるのだ。


 それに僕が帰国してからというもの、シーレイさんの精神状態は過去に類を見ないほどに安定している。

 僕がプレゼントした指輪を愛でるように撫でている時があるので、もしかしたら指輪のおかげもあるのかも知れない。


 激しい攻防を展開している二人を見る限りでは、シーレイさんが丸くなったようにもフェニィと仲が良くなったようにも見えないが……僕には分かる!

 いやはや、二人の間に友情が構築されていて喜ばしいなぁ……。


 荒ぶる二人の争いを気にすることなく、僕は何事も起きていないかのように話を続ける。


「そんなわけで、一週間後には出発しようと思います。何かお土産の希望はありますか?」

「えっ……あ、危ないよアイス君。私も……」


 レオーゼさんが同行を申し出てくれる気配だったが、僕は笑顔で首を振って最後まで言わせない。

 土地勘のある彼女が一緒に来てくれれば助かることは確かだ。


 しかしレオーゼさんは、魔大陸に良くない思い出を持っている気配がある。

 レオーゼさんの過去について聞き出すようなことはしていないが、わざわざ魔大陸から移住してきているのだからワケありなのは明白だ。

 そんな彼女に望まぬ里帰りをさせるわけにはいかない。


「心配はいりませんレオーゼさん。それに、僕は戦争をしに行くわけではありませんからね」


 僕の目的は〔神による世界への干渉を止めてもらうこと〕であって、イコールで神を殺すというわけではない。

 そう、平和主義者である僕は話し合いから入るつもりなのだ。


 既に刺客を送り込まれているわけだが、一度会話をしてみれば『オレ、ゴカイシテタ』とあっさり円満解決に至る可能性はある。

 過去にも対話で解決した実績は多いのだから心配は無用だ。


 いや、解決実績が多いというより僕の交渉が失敗に終わった例などない。

 ここは非凡な交渉力を遺憾なく発揮するべきところだ。


『――きぇぇぃいっ!』


 おっと、幻聴が聞こえてしまった!

 僕の交渉戦歴には初対面で突き殺したような事例はカウントされていない。

 もちろん、出合い頭に腕をもぐような恐ろしい事例も対象外だ。

 なにしろ被害者たちとは……会話どころか挨拶も交わしていない!


 だが僕の平和宣言にも関わらず、レオーゼさんは心配そうな顔のままだ。

 ……その理由には心当たりがないこともない。


 僕はレオーゼさんの前で武力を見せたことがないので、彼女は僕のことを弱くて頼りない男だと思っている節があるのだ。……初対面で泣き顔を見られるという失態を晒したことも影響しているのだろう。

 これではレオーゼさんを不安にさせてしまうのも当然だ。


 そこで、黙って聞いていたルピィが僕のフォローに回る。


「大丈夫だよレオーゼさん。頼りないアイス君はボクが助けてあげるから!」


 また偉そうなことを言われてしまったが、レオーゼさんに気を使ってくれているようなので文句は言えない。

 レオーゼさんは薄幸そうで儚げな雰囲気があるせいか、誰にでも無遠慮なルピィですらレオーゼさんには甘いところがあるのだ。


 というより、レオーゼさんは人当りが柔らかい人なので敵らしい敵がいない。

 他人を拒みがちなシーレイさんとも友好的な関係を築いているくらいだ。

 調神持ちだからなのか、心の機微に聡くて気遣いに長けていることも大きいのだろう。


「ところで、レオーゼさんは魔大陸に気に食わないヤツとかいないの? ボクが格安で始末してきてあげるよ?」


 むむっ、ルピィの優しさが間違った方向に向かっている……!

 レオーゼさんが魔大陸にわだかまりがあることを見抜いているからこその発言なのだろうが、委託殺人のようなことをさせるわけにはいかない。


 純粋な善意で犯罪を持ちかけているルピィはもう手遅れとして、レオーゼさんを犯罪者にしてしまうのは許されざることだ。

 そもそもレオーゼさんが『一人殺害で金貨三枚? じゃあ二人お願いするから金貨五枚に負けてくれない?』などと買い物感覚で依頼するわけがない……!


「駄目だよルピィ。そういうことは何も言わずにサラッとやらなくちゃ」


 委託殺人は犯罪なので――こちらで察して勝手にやっておくことが望ましい!


 優しいレオーゼさんの敵となれば極悪人に決まっている。

『秘書が勝手にやりました』とばかりに、レオーゼさんに迷惑を掛けない形で処理すれば良いのだ。


 帰国した後にでも恩着せがましくならないように、『あ、部屋掃除しときましたよ?』くらいに軽く告げるだけで充分だ。


「もう、アイス君ったら」


 彼女は冗談だと思っているようだが、本人の意識としてはそれくらいで良い。

 もし何かあっても『まさか本気でやるとは思いませんでした』と堂々と証言してもらえることになるのだ。

 ふふ……あとはさりげない会話でレオーゼさんの敵を聞き出すのみだ。


 ルピィは「やっぱアイス君はどうかしてるなぁ」と僕の良識的判断に感心しているが、大いに見習ってほしいものである。


 ――――。


「そういえば、アイス君はどうやって魔大陸に渡るつもりなの? 帝国か民国の交易船に便乗するの?」


 魔大陸に関する情報をレオーゼさんから聞き出していると、思い出したように問い掛けられた。


 レオーゼさんの推測は妥当なところだ。

 この大陸で魔大陸への交易船が存在するのは、帝国と民国だけだ。

 外界に興味を持っていなかったのか国力に余裕が無かったからなのか、理由は定かでないが、これまで軍国は他大陸と交易を行っていない。


 言わずと知れたことだが、海は魔獣の巣窟(そうくつ)だ。

 生半可な船では魔獣の餌食になるだけであるし、それなりの船を造るとなると建造費用が高額となってしまう。

 国ならともかく個人で交易船を所有するのは難しい。


 将軍は無駄な箱モノを造るのが大好きだったが、有益な物に大金を投じることはしない人間だったので、今まで軍国は他大陸との交易手段を持っていなかった。


 そう――()()()()()()()()


「ふふ……実はナスルさんに頼んで船を造ってもらっていたんですよ」


 軍国への帰国後、将来的に僕が魔大陸に出向くことは決定事項となっていた。

 そこで帰国早々に、ナスルさんにお願いして大型船の建造に着手してもらっていたのである。

 元々ナスルさんは他大陸との交易に意欲を持っていたので、渡りに船とばかりに一大事業を始めたというわけだ。


 実は大型船自体は少し前に完成していたのだが、軍国に来訪した友人がこちらの生活に慣れるまでは……と理由を付けて、出港日を遅らせていた経緯がある。


 だが、襲撃事件まで起きたのならもう僕たちに猶予は無い。

 なにしろ白昼の街中での襲撃事件だ。

 一歩間違えれば無関係な人も巻き込まれていた可能性がある。


 実際、僕が飛来する矢を回避していたら通行人に当たっていた軌道だったのだ。

 余裕があれば襲撃犯を生け捕りにして尋問したかったが、手間取って第三者に危害が及ぶわけにはいかなかったのでルピィの判断は正解だ。


 事件後のアフターケアも我ながら完璧だった。

 人々に恐怖を感じさせる死体を早々に片付けた上に、民家の壁に穴を開けてしまったわけなので家主に修理費用まで渡している。


 本当なら襲撃者に修理費用を負担してもらいたいところだったが、男の身体も持ち物も『ミンチ合体!』してしまったので致し方ない。


「ちゃちゃっと片付けてきますので吉報を楽しみにしてて下さい」


 レオーゼさんを安心させるべく、僕は力強い声を掛ける。

 仲間たちも僕の意見に同調しているように余裕の笑みだ。


 しかしジーレとシーレイさんにはまた留守番をお願いするつもりなのだが……一緒に旅立つような顔をしているから言い出し辛いなぁ……。


明日も夜に投稿予定。

次回、三七話〔始まった船旅〕

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