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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第三部 最強の神獣
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三五話 誕生する俳人

 おっと、余計な事を考えている場合ではない。

 まずはやるべき事をやらなければ。


「見えぬなら、根こそぎ潰せ、ルピィ先生――うん、ロジカルだね!」


 何よりも先に、まずルピィを褒めてあげるべきだ。

 素直に感心していたので一句読んでしまったが、「こんなの楽勝だよ~」と顔を緩めているルピィの反応からすると、僕には詩人の才能があるのかも知れない。


 そして褒めるのはルピィだけではない。


「手を(かざ)し、眼前の敵、すり潰す――うん、グッドミンチだね! 」


 図らずも証拠隠滅に役立ってくれたジーレも褒め対象だ。

 調子に乗ってまた一句読んでしまったが、とても王女を形容しているとは思いたくないような句である。


 しかも深く考えずに『グッドミンチ』などと口走ってしまったが、挨拶の一種のような雰囲気があるのが少し恐ろしい気もする。

 挨拶代わりにミンチ死体を生産したりしないだろうか……?

 いや……将来の懸念はあるが、この場ではしっかり褒めてあげるべきだろう。


「えへへ~、グッドミンチだ~~」


 ジーレも満ち足りたような顔で喜んでくれているが、グッドミンチのフレーズが気に入っているようなのが気掛かりだ。


 さて、そろそろグッドミンチしている死体を処分しておいた方が良いだろう。

 街中にミンチを放置したまま立ち去るような真似はできないのだ。


「フェニィ先生、おひとつよろしくお願いします!」

「……いいだろう」


 恒例となりつつある最強の隠滅手段――炎術だ。

 ミンチを焼いてハンバーグにするどころか、骨の一本だって残りはしない。


 そして〔炎の箱〕でミンチ死体を包んでもらっていると……んん?

 フェニィの様子がどこか妙だ。


 どことなく不満げというか物足りないような気配を感じさせる。

 もしかして……ルピィとジーレが熱心に褒められたのに、自分の炎術はそれほど称賛されていないことが面白くないのだろうか。 


 なるほど、これは熟年夫婦によくある問題と同じだ。

 長年連れ添った夫婦ともなると、夫が妻の料理を食べても『美味しい』の一言も言わなくなってしまい、妻が不満を募らせてしまうことが往々にしてあるらしい。


 これは、長く続いている習慣により〔作ってもらって当たり前〕という感覚を無意識に持ってしまうことが要因にあるそうだ。


 つまり僕も無意識の内に〔焼いてもらって当たり前〕という意識を持っていたという事に他ならない。

 フェニィが不満の一つも漏らさず依頼に応えていたので、僕は甘えていたのだ。

 うむ、これは僕としたことが失態だった。 


「炎術で、邪魔な物は、消し炭だ――うん、クリーンだね!」


 ルピィたちへの称賛と同様に、フェニィにも一句読んであげてしまった。

 なにやら物騒な句になってしまったものの、フェニィの瞳は明るくなっている。

 この様子からすると、どうやらフェニィの心の琴線に触れたようだ。


 これまでフェニィは血生臭い世界で生きてきたので、炎術の平和利用を褒められることが嬉しく感じられるのかも知れない。

 死体の焼却が平和的かどうかは意見が分かれるところだが、ミンチ死体の処分には王都民も喜んでくれていることだろう…………おや?


 不思議な事に、街の人々が僕たちから距離を取っている。


 今回の僕たちは襲撃者を撃退しただけだ。

 軽犯罪者をミンチにしたわけでもなく、相手は殺人未遂の重犯罪者だ。

 身を守る為の反撃なので王都民に引かれる要素は無いはずなのだが……。


 ……いや、違う。

 僕たちの視点から見れば完全な正当防衛だったが、街の人々は僕に矢が射掛けられたことに気付かなかったのではないだろうか?


『ズドン!』という轟音に視線を向けてみれば、そこには全身穴だらけの死体。

 しかも間髪入れずに『ぐちゃっ』とミンチにされた後には――証拠を隠滅するかのような焼却処分!

 いかん、客観的に考えれば異常な殺戮集団のようだ……!


 この状況を座視してしまうと、王都でコツコツ積み上げてきた僕の評判が地に落ちかねない。

 ここはさりげなく正当性をアピールするしかないだろう。


「いきなり僕に矢を射掛けてくるなんて恐ろしい人だったね! しかもこの矢、毒まで塗られてるよ!」


 大声で仲間たちに話し掛けつつ、遠巻きに僕らを(うかが)っている人々に〔僕への襲撃〕があったことをアピールだ。


 そしてそう、この矢の(やじり)にはヌルヌルした液体が付着している。

 調べてみないと分からないが、暗殺者が使っていた矢ということで十中八九〔毒〕の類だろう。


『アイス君が襲われたんだってさ』『命知らずなヤツもいたもんだなぁ』『犯人よりアイス君たちの方が怖いよね……』


 よしよし、王都民からの誤解は解けつつあるようだ。

 僕を心配する声が聞こえてこないのは気になるところだが、僕の防衛能力を信頼されていると考えれば悪いことでもない。


 ともかく、今回の件で僕の平穏な王都生活はひとまず終わりだ。

 縁もないはずの魔大陸から暗殺者が襲来したということは、これは〔神からの刺客〕だと考えられるからだ。


 呪神は、自分が死ねば代わりの神がこの大陸を訪れると予言していた。

 あの忌まわしき呪神を退治してから十カ月。

 呪神は定期的に他の神々と連絡を取っていることを匂わせていたが、呪神の死亡が他の神に伝わったのかどうかは今も分からない。


 だが、呪神の言及していた内容からすると――僕が王都に居るということは、神が王都を観測できない状態になっているということになる。

 僕の存在による観測障害は過去にも問題になっていたらしいので、僕のことは神々に知られている可能性が高い。


 音信不通になった呪神、王都の観測障害。

 神々が呪神の変事と僕の存在とを結び付けて考えるかは不透明だ。

 しかし観測障害が現在も続いている以上、神々が僕に干渉してくる公算は大きいと踏んでいた。


 そんなところに魔大陸からの刺客だ。

 僕個人どころか、軍国とは全く関わりの無かった魔大陸からの刺客となると、〔神からの干渉〕以外には動機が見つからない。


 ずるずると先延ばしにしていたが……かねてからの予定通り、魔大陸へと旅立つ時が来てしまったということなのだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、三六話〔察すべき心中〕

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