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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 再会に次ぐ再会
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二九話 待ち望んだ再会

 ようやく今日という日がやって来た。

 待ちに待った今日は、レオーゼさんが軍国の王都にやって来る日だ。


 彼女の到着予定日は手紙で前触れされていたので、楽しみに待っていたのだ。

 当初の予定より来訪日が早いのだが、これは彼女が帝国での仕事を早く切り上げたからではない。


 早期来訪の要因としては――軍国と帝国とを結ぶ〔関所〕が開放されたことで、両国の行き来が容易になったことが大きい。


 関所は決められた商隊以外の通行が制限されていたが、つい先日に一般人の通行も自由となったのである。

 関所の解放により、レオーゼさんの移動時間が大幅に短縮されたというわけだ。


 軍国と帝国とが着々と友好的な関係になっているので、平和の架け橋となった僕としては嬉しい限りだ。

 まだ両国が完全に円満な関係になったとは言えないが、こうしたところから歩み寄りを積み重ねていけば、将来は争いの歴史も忘れ去られていくことだろう。


 ――――。


 現在の僕たちは、大通りに面した甘味処で張り込み中だ。

 レオーゼさんの来訪をいち早く発見して歓迎しようというわけである。

 だが仲間たちの様子からすると、レオーゼさん来訪への関心は薄いようだ。


 お喋りに興じながら団子を食べている女性陣もそうだが、レオーゼさんと面識があるはずのレットやマカに至ってはこの場にいない。

 レットは軍団の遠征に出ているので致し方無いが、薄情なマカは単身で遊びに出掛けてしまったのだ。


 天敵であるジーレやシーレイさんと行動を共にすることが多いせいか、最近のマカは自主避難をしているかのように消えてしまうのである。

 食事の時間になれば帰ってくるし、夜にベッドへ潜り込んでくるのは変わりがないのだが、やはりマカと別行動となると寂しい気持ちは隠せない。


 僕が人知れず寂寥(せきりょう)の思いを抱いていると――ルピィが団子を口に運ぶついでのように報告する。


「あ、来たみたいだね」


 ルピィは平静な声で告げたが、僕は冷静さを保ってはいなかった。

 それでなくともマカに逃げられて寂しい思いをしていたので尚更だ。


 僕は即座に勘定を支払い、疾風のように大通りに躍り出る。

 そして視界に旅姿のレオーゼさんを収めた瞬間、溢れる気持ちが抑え切れずに再会のハグをしてしまう!


「レオーゼさん、会いたかったです!」

「もう……私、旅で汚れてるよ?」


 彼女は旅の汚れを気に掛けているが、僕がそんな些事を気にするはずもない。

 それよりも、慣れない土地を訪れたばかりの彼女を大歓迎する方が重要だ。


 レオーゼさんは否定的な言葉を出しながらも表情を緩めている。

 この様子からすると熱烈な歓迎に喜んでくれているようだ。


 しかし、冷静になってみるとハグは行き過ぎた行為だったかも知れない。

 ……なにやら急に恥ずかしくなってきてしまった。


「――恋人同士の再会のようですね」


 僕が離れるタイミングに迷っていると、セレンからの指摘が入った。

 うむ、セレンちゃんが嫉妬しているようなのでハグ離脱の頃合いだろう。


 セレンだけでなく、仲間たちも背後で威圧感を振り撒いているので尚更だ。

 その中でも、激しく息を荒げている人物については早期対処の必要性がある。


「はぁっはぁっ……」


 そう、シーレイさんが狂戦士化している……!

 この様子では、無意識の内に僕とレオーゼさんを攻撃対象にしているはずだ。


 しかし僕は慌てたりはしない。

 最近になって、この状態のシーレイさんへの対処方法を確立したのだ。


 僕は刺激しないように気配を殺しながらシーレイさんへと歩み寄り――勢いよく抱き締める!


「……っは、ぼ、坊っちゃん!?」


 幾多の検証の結果、シーレイさんは僕の匂いを嗅ぐことで正気を取り戻すことが判明している。

 さながらハーブの香りでリラックス効果を得るかのように、こうしてハグをしているだけで精神が安定していくのだ。


 だがここで油断してはいけない。

 僕の匂いを吸引し過ぎると、逆にシーレイさんは興奮状態となってしまうのだ。

 こうして考えると、中毒性のある違法な薬物のようではないだろうか……?


〔ファナ〕という植物から精製される違法な薬に、これと近い効果があったような気がする……。

 アイスの体臭はファナのような効果を持つ、略して――――アイファ効果!


 なんてことだ……まるでアイファが違法な存在のようではないか!


 おっと、その合法アイファが目を吊り上げて僕を睨みつけている。

 仲間二人とだけハグを交わしているので、不公平だと怒っているのだろう。


 女性とハグをするのは照れ臭いものがあるが、かくなる上はやむ無し。

 アイファもハグ仲間に加えてあげるしかない。


「いやぁ、めでたいめでたい!」


 流れるようにハグをしてしまうと、いつもは強気なアイファが「なっ、ぅぅ」と真っ赤な顔で身体を硬直させている。

 むむっ、まるで痴漢行為を働いているかのような罪悪感……!

 こんな反応をされると照れてしまうではないか。


「アイファちゃんたちだけズル~いっ!!」


 おっと、ジーレから不満の声が上がってしまった。

 世間知らずな箱入り娘同士で気が合うのか、たちまち仲良しになったジーレとアイファではあるが、やはりエコ贔屓は許せないらしい。

 無論、僕が『ズル~いっ!』と言われて黙っているわけがない。


「ズルくない、ズルくないよ」


 軽く抱きしめて背中をポンポン叩いてあげると、たちまちご機嫌のジーレだ。

 まるでジーレがズルいことをして慰めているような感じになってしまったが、本人はご満悦なので問題は無い。


 そして、成り行きとは言え仲間とハグを重ねてしまったわけだ。

 平等主義を重んじる僕としては、ここで止まるわけにはいかない。


 走り出した以上は完走しなければならない。

 そう――他の仲間にもやらなければ不平等だ!


「フェニィ、ありがとう!」

「…………」


 なぜ僕がお礼をいっているのかは定かでないが、フェニィは石像のように立ったまま黙念とハグを受け入れた。

 だがハグ仲間という同じ輪に入ったせいなのか、嬉しそうにも感じられる。


「ルピィもおめでとう!」

「あっ、う、うん。おめでとう?」


 続けてルピィともハグを交わすと、動揺著しい彼女から『おめでとう』の返事が返ってきた。

 何を祝福されたのか聞いてみたいところではあったが、ルピィの赤い顔を間近にして僕も照れてしまっている。

 とてもではないが、僕にはツッコミを入れるだけの余裕が無い。


 常と異なるルピィの反応には調子が狂ってしまうが、気を取り直して最後の難関に移行するとしよう。


 残すは最大の強敵であるマイシスターだ。

 セレンに近付いていくと、当然のように直前で回避される。

 だが僕はそれを読んでいる――速術、発動!


「お誕生日おめでとう!」

「っ……」


 恥ずかしがり屋なセレンが逃げることはお見通しだったので、久し振りに速術まで行使してしまった。

 ちなみに――セレンの誕生日は先月に終わっている!


 しかし波が押し寄せて引いて行くように、セレンの誕生日を波状的に祝うことも悪くないので問題は無い。

 無言で抱擁を受け入れていた可愛い妹から離れると……おや、なぜか雑貨屋のおばさんもハグ体勢を取っている。


 イベントのように思われているのかな? と内心で疑問に思いつつも、僕に拒絶するという選択肢は存在しない。

 勢いに任せておばさんにハグで応えるが、なぜか通りがかりのお姉さんもハグを求めている…………いや、ハグ待機列が形成されている!


 なんてことだ、握手会ならぬハグ会が開催されているではないか……!


 しかし、求められれば応えずばなるまい。

 特売かなにかと勘違いして列に並んでいる人もいるようだが、それでも僕は応えざるを得ない……!


明日も夜に投稿予定。

次回、三十話〔始まった落成式〕

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