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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 再会に次ぐ再会
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二七話 裁定神御殿

 あの家は屋根に穴を開けて二階建てになったわけだが、もう一度墜落したら今度は三階建てになるのだろうか?

 試すわけにはいかないが気になるな……などと、素朴な疑問を抱きながら歩を進めていると、同行者のフェニィが口を開いた。


「……これから行くのか?」


 フェニィが聞いているのは、最近の僕の日課となっている事についてだ。


 日課とは、魔獣討伐などの荒事ではない。

 ここ数カ月で軍国の神持ちが倍増していることもあって、軍による魔獣や神獣の討伐については人手が足りている。


 忙しかった父さんやレットも定期的に休暇を取れるようになっているので実に喜ばしい。……そもそも軍団長でないレットが多忙なことは不可解なのだが。


 レットは相変わらずシーレイさんの代行で軍団長をやっているが、しかしそれも長くは続かないはずだ。

 この歪な状況にようやくゴールが見えつつある。


 元々は人手不足ということで軍団長をやっていたシーレイさん。

 だが現在は、他国を圧倒するほどに軍国に神持ちが増えている。

 そんな願ってもない状況なので、シーレイさんは退職を考えているらしいのだ。


 シーレイさん曰く――行方不明だった僕と確実に再会することだけが目的で軍に在籍していたので、今となっては軍に残る価値は無いとのことだ。

 ……シーレイさんは口には出さないが、彼女が軍に残っていたのは僕の父さんのことを心配していたからだと思っている。


 人間嫌いな人ではあるものの、心を開いた相手には優しいシーレイさんだ。

 そんなシーレイさんが、洗脳術に囚われていた父さんのことを心配しないはずがないのである。


 もちろん僕はシーレイさんが軍を辞することには賛成だ。

 軍国でもトップクラスの戦闘能力を持つ人間が軍を抜けることになるが、神獣討伐などであれば個人として協力することも可能なので問題は少ない。


 だがしかし、元研究所組で軍に加入した神持ちには何かと問題が多い。

 育った環境の影響から、揃って常識に欠けている人たちばかりなのだ。

 彼らが一般常識を得るまで、兵士の命を預けるのは難しいと言わざるを得ない。


 シーレイさんは自身が強いだけではなく、軍団の指揮が出来る貴重な人材という事実も、早期退職が難しい要因の一つだ。


 個人技に長けた神持ちは多いが、集団を指揮出来るような神持ちは少ない。

 魔獣の群れの討伐などでは個人の力より集団の力を要求されるので、軍団長には軍団を指揮出来ることが必須条件となるのだ。


 ちなみにレットにはそれが出来るのだが……あの親友には魔大陸行きに同行してもらう予定なので軍団に渡すわけにはいかない。


 そして、フェニィに『今日も良くのか?』と聞かれているが、最近の僕はある場所で働いているのでレットほどではないが多忙な身だ。

 その場所とは建築現場――――そう、レットの家を建築中なのだ!


 裁定神カードの利益をレットに渡そうとすると拒否されてしまったので、仕方なくレットの家を勝手に建てているという次第である。

 勝手に家を建ててもレットは住んでくれるのか? という問題はある。


 だが僕に抜かりはない。

 レットの母親、シークおばさんとはもう話がついている。

 そう、レット邸完成後には王都に移り住むことを約束してもらっているのだ。


 ふふ……おばさんが入居してしまえばこっちのものだ。

 既成事実さえ作ってしまえば『母親を一人で住ませるのか!?』とレットの責任感を刺激してやればいい。

 そうすればアラ不思議、なし崩し的にレットが家の主になるという寸法だ。


 ちなみにもう建築費用は大工さんに支払い済みである。

 だから本来は、僕が建築現場で働く必要性は無い。

 そう、必要は無いのだが……僕は完全な趣味で建築を手伝っているのだ!


「うん、今日もレットの家造りだよ。フェニィも付き合ってくれるかな?」

「……いいだろう」


 僕の行動に刺激されているのか、仲間たちも頻繁に協力してくれている。

 フェニィやアイファは特に乗り気だ。

 教国で農業をしている時もそうだったが何かを生み出すという事が好みらしい。


 ――――。


「アイス様、お疲れ様です!」


 建築現場に辿り着くや否や、ロールダム兄妹たちに囲まれてしまった。

 僕たち一行が帰国して間もなく、ロールダム兄妹や帝国の研究所組の人たちも軍国にやって来ている。


 その中には軍国の軍に加入した人もいるのだが、どういうわけだか大工の棟梁に弟子入りして作業員として働いている人たちが多い。……いや、彼らが大工見習いをしている理由を聞いてはいる。

 ロールダム兄妹たち曰く、僕の家を建てる為の技術を学びたいとのことだ。


 そう――レットの家が完成した暁には、〔クーデルン邸〕を隣に建築予定となっているのだ。

 前々から家族の家が欲しいとは思っていたので、ついでに我が家も建ててしまおうというわけである。


 しかし、話を聞く限りではレットの家を練習台扱いしていることになる。

 前々から思っていたが、僕の親しい人たちはレットに対する扱いが雑過ぎではないだろうか……?


「坊っちゃん、お疲れ様です」


 レットを雑に扱うことにかけては他の追随(ついずい)を許さないシーレイさんだ。

 今日も当然のようにレットに軍団長の仕事を押しつけている。


 レットは軍団を率いて魔獣の群れの討伐に向かっているが、シーレイさんは後ろめたさなど全く感じさせない晴れやかな笑顔だ。


 しかしよく考えてみれば、シーレイさんは軍団長の仕事をレットにやらせておいて、その自由になった身でレットの家の建築現場に来ていることになる……もう何が何やら分からない状況だ。


 これはもう、本人の為にも周囲の人々の為にもシーレイさんの早期退職が望まれるところである。


「こんにちはシーレイさん。今日はアイファと二人で来たんですね」


 僕が建築現場に来ていることに触発されているのか、仲間たちも代わる代わるのようにここを訪れている。

 厳密に言えば、フェニィとアイファは建築現場の固定メンバーで、残りの面子は気が向いた時に手伝いに来ている形だ。


 シーレイさんは毎日顔を出してはいるが、建築の進捗を確認に来ているわけではなく僕に会いに来てくれているだけだ。

 シーレイさんと会えることが嬉しいのは否定できないが、代わりにレットが働いていると思うと複雑で素直に喜べないものがある……。 


棟梁(とうりょう)、今日もよろしくお願いしますね」

「なんだ、また来たのか坊主。金を出してる施主が働いてどうすんだよ」


 僕が挨拶をすると、頑固な棟梁は文句を言いながらも少し嬉しそうだ。

 プロ意識が高い人なので素人が手を出すことは嫌がるのだが、器用貧乏である僕の技術は熟練の職人顔負けなのだ。


 僕らの助力で仕事が軽減されているという事で、棟梁は家造りの意匠を凝らして手伝い分を相殺しようとするという好循環が生まれている。


「やぁアイファ。その小屋も完成間近だね」

「うむ、小屋も二つ目ということでコツを掴んできたのだ」


 アイファとフェニィは建築現場を毎日訪れてはいるが、実はレット邸の構築に携わっているわけではない。

 自由な二人は、レット邸の敷地の広さを利用して謎の小屋を建てているのだ。


 既に二つ目の小屋になるのだが、未だ使用用途は不明のままである。

 もう完全に〔家を建てること〕だけが目的になっているという有様ではあるものの、仲間たちが楽しそうであるし止める理由も無いのだ。


 完成したレット邸の庭には用途不明の小屋が複数出来上がることになるが……家主のレットが使い道を見つけてくれることだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、二八話〔新たなるカード〕

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