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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 再会に次ぐ再会

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二四話 疑惑の挨拶回り

 王城の主への挨拶という義理を果たしたわけなので、僕は城内の人々への挨拶回りへ向かっていた。

 そんなわけで、この人たちの元を訪れることも当然の成り行きだ。


「アイスさんに団長じゃないですか。半年ぶりでさぁ」

「しばらくぶりっス!」


 王城内では帰還の挨拶をしても『あ、はい……』と微妙な反応が返ってくることが多いのだが、この二人は数少ない歓迎組なので嬉しい。

 国の要職で仕事に忙殺されていると評判の、指無しさんと護衛のニトさんだ。


「お二方ともご健勝なようで何よりですよ。僕の留守中に何か変わった事はありませんでしたか?」


 僕が軽い近況確認を試みると、指無しさんの視線が無意識のように動いた。

 その視線の先には、なぜか僕たちに同行しているジーレとシーレイさんだ。

 帰国の挨拶回りをしているのに留守番組も当然のように付いてきているのだ。

 長く離れていたので片時も離れたくないのかも知れないと思うと、僕が同行を拒絶出来るはずもない。


 そして……指無しさんの反応を見ることで、僕の留守中に二人が問題を起こしていたことも分かってしまった。

 うむ、本人の前では話しづらいだろうから話題を変えた方が良さそうだ。


「そうだ。これ、お土産の帝国軍の糧食です。あまり美味しくはないんですが、良かったら兵士さんたちと食べてみてください」


 あえて不味いお土産を渡す意図は嫌がらせなどではない。

 帝国兵に同情的な感情を抱いてもらう為に必要な事であり、軍国と帝国との関係改善の一環に他ならない。


 これから軍国と帝国は平和路線を歩んでいくことになるはずだが、なにしろ数十年以上も敵対関係にあった国だ。

 軍国では家族を戦争で失った人間は珍しくないし、その逆もまた然りだ。


 国のトップ同士が一方的に『今日からは友達です』と宣言したところで、感情面で納得できない人間は多いと考えるべきだろう。

 まだるっこしくはあるが、焦って改革を進めることで国内を混乱させるようなことは慎まなくてはいけないので、僕も国民感情の意識改革に協力していこうというわけだ。


 だが、帝国軍の糧食を受けとった指無しさんの反応は予想外のものだった。


「こ、この糧食……まさか、帝国軍を?」


 うっっ、なんたることだ……。

 帝国軍を撃滅して所持品を奪ったと誤解されているではないか……!

 平和主義者の僕が強盗のような真似をするわけが無いのに。


「おっと誤解してはいけませんよ。帝王とも王子君ともすっかり友達になりましたからね。先方の好意により無償で貰ったんですよ」

「む、無償でこれを……?」


 ますます疑われている……!?

 どうやら『無償で貰った』という言葉が却って疑いを深めてしまったようだ。

 心理的に〔無料〕と聞くと胡散臭さを覚える人間が多いので、安い値で譲ってもらったという事にした方が良かったのかも知れない。


 ……いや、駄目だ。

 正直者の僕に嘘なんて吐けるわけがない……!


 だが、正直な僕と違ってデマを拡散することが趣味である人間も存在する。

 一緒に挨拶回りに付いてきているルピィは、指無しさんたちに挨拶をすることもなくジーレたちに呪神の最期を語っている。


「――それで呪神が『ミンチぃっ!!』って叫んで爆発しちゃったんだよ!」


 嘘吐きなルピィはいつも通りに話を改竄(かいざん)している。

 どこの世界に『ミンチぃっ!!』などと叫んで爆発する人間がいると言うのか。

 なにやら余裕を感じてしまうではないか……!


 このホラ吹きを放って置くわけにはいかない。

 なにしろルピィの話を聞いているニトさんの顔が青くなっている。


 どう考えても嘘だと分かりそうなものだが……ジーレの影響でミンチ死体を見慣れているせいか、ニトさん自身も『ミンチぃっス!』と最期を迎える想像をしているのかも知れない。


 しかし、僕がニトさんに話し掛けようとする直前に――ジーレから声が掛かる。


「おにぃちゃんもぐちゃってしたの!?」


 うっ……答えづらい質問だ。

 本意ではないとは言え、呪神をミンチにしてしまったことだけは事実だ。


 だが、ここで肯定すると指無しさんやニトさんに悪い印象を与えかねない。

 それでなくとも指無しさんには略奪疑惑を掛けられている真っ最中なのだ。


 かといって、目を輝かせているジーレに嘘を吐くのは気が引ける。

 少し前に泣かせてしまったばかりなので尚更だ。


「う、うん。そうだね……ぐちゃっとしちゃったね」


 結局、僕にはジーレの笑顔を裏切れなかった。

 指無しさんたちが僕から後退りしているが、これは止むを得ない選択だ。

 ジーレが「お揃いだーっ!」と喜んでいるので悪いことばかりでもないだろう。


 意識的にミンチを生産しているジーレと一緒にされるのはモヤモヤするのだが、この笑顔に文句など言えるはずもない。

 とりあえず、指無しさんたちが物理的にも引いているので話題を変えて誤魔化すとしよう。


「そういえば、帰りに排斥の森で珍しい神獣を見かけましたよ。それがなんと――カナブンの神獣だったんですよ!」


 ニトさんの大好きなカナブンの話題で注意を引こうというわけだ。

 もちろん、カナブン効果は絶大だ。

 ニトさんは目を見開いて落ち着きなくキョロキョロしている。

 僕がカナブンをお土産に持ち帰ったのではないかと期待しているのだろう。


「……申し訳ありませんニトさん。捕まえてきて〔活け造り〕で提供するつもりだったんですが、勢い余ったレットが討伐してしまいまして」


 僕が恨みがましく見やると、レットは犯罪計画を未然に防いだかのような誇らしげな顔をしていた。

 襲い掛かってきた神獣を討伐しただけなので、僕に文句を言われる筋合いは無いということなのだろう。


「い、活け造りっスか……」


 ニトさんはレットを責めるような眼差しを送っているが、それも仕方がない。

 大好物のカナブンを食べ損ねたのだから恨み言の一つも言いたくなるはずだ。

 気のせいか感謝の眼差しにも見えるのだが、どう考えても僕の勘違いだろう。


「せめて新鮮なカナブンの死体くらいは持ち帰ろうと思ったんですが、その死体もマカが焼いてしまいまして……いずれにせよ僕の声掛けが遅かったことが悪いんです」


 結果的には死体も焼却してしまったので何も残らなかったことになる。

 こうして土産話をするのが関の山である。

 まったく、自身の不明さを猛省するばかりだ。 


「し、新鮮なカナブンの死体っスか……」


 ニトさんはマカに恨みの声を上げているが、仔猫ちゃんは重術ビーム事件がトラウマになっているのかフードから顔を見せることすらしない。

 今回はあえて戦犯の名前を挙げることで本人たちに反省を促すつもりだったが、この様子では効果は薄いようだ。

 レットやマカには人の幸福に配慮出来るようになってもらいたいものである。


明日も夜に投稿予定。

次回、二五話〔カウンセリング〕

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