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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 再会に次ぐ再会
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十九話 期待する王女

 シーレイさんは落ち着きを取り戻し、僕の怪我も完治に至った。

 そんなわけで、ようやく僕たちは玉座の間に向かっていた。


 僕らの帰還の影響で城内は騒がしくなっているが、玉座の間にいるらしきナスルさんとジーレからの反応は無い。

 レットなどは窓からダイブをするという非常識な行動で王城を騒がせていたので、ナスルさんたちからのリアクションが無いのは不自然ではある。


 だが実は、この状況は僕の思惑通りなのだ。

 突然顔を見せてビックリさせたいので、城内で出会った人たちにはナスルさんへの口止めをお願いしているのである。


 王に対して隠し事をするわけなので拒絶されることも覚悟していたが、幸いにも皆さん快く了承してくれている。

 これも僕の人徳の為せる業だ……そう、僕は決して脅迫などしていない。


 僕が話し掛けただけで王城の人々の顔色が悪くなった気がしたのは気のせいだ。

 僕との会話中、レットに助けを求めるようにチラチラと視線を送っていたなんてことはあり得ない――そう、あってはならないことだ!


 おっと、いかんいかん。

 つい平静さを失ってしまうところだった。

 被害妄想は誰の為にもならないので自重すべきだろう。

 

 ただ、シーレイさんと合流後の周囲の変化はさすがに勘違いではない。

 シーレイさんが加わった状態で王城に勤める人々に挨拶をすると、兵士さんや侍女さんの反応は劇的に変化していた。


 彼らは軍団長であるシーレイさんの顔を見ただけなのに、森で魔獣と出会った幼子のように絶望感を漂わせていたのだ。

 僕の留守中にシーレイさんが何をしていたのかは気になるところだが……僕の精神安定を保つ為にも気にしない方が良いのだろう。


 ――――。


 皆で騒ぎながら歩いていると、遂に玉座の間へ到着だ。

 軍国の王であるナスルさんはともかくジーレもここにいるらしいのだが、その詳細は謎である。


 だがそれもすぐに判明する事だ。

 シーレイさんの時は挨拶の口上を遮られたが、今度こそは決めてみせる。

 僕は扉をバーンと開け放つ!


「天知る地知る我知る……」

「――おにぃちゃん!?」


 しかしまたしても、僕の名乗りは途中で断ち切られてしまった。

 帰国直前に一生懸命考えてきた口上だったので少し悲しい気持ちだ。


 いや、それだけ僕の帰りが待ち望まれていたと言い換えることも出来るので、ここで悲観するのは間違いかも知れない。

 考えてみれば、再会の挨拶が長口上というのは野暮ったい気もする。

 そう、言葉を惜しむように全速で走り寄ってくるジーレには無用の挨拶だ。


 なぜか玉座に座っていたジーレは、僕を視界に入れた瞬間には走り出している。

 玉座にジーレが座りその横にナスルさんが立っている、という謎の光景が展開されていたが、おそらく玉座は座り心地が良いので席を譲っていたのだろう。

 相変わらず全力で甘やかしているようで、微笑ましくもあり恐ろしくもある。


 しかしこのジーレ、半年会わなかっただけなのに……かなり成長している。

 親馬鹿なナスルさんは変化が無さそうだが、ジーレは見た目からして違う。


 色素の薄い白髪だったジーレはもういない。

 今やそれ自体が光を放っているような輝く銀髪だ。

 僕の出発前から生え変わりは始まっていたが、半年という歳月で完全なシルバーブロンドとなっている。


 ジーレの変化はそれだけではない。

 こちらに走り寄ってくる速度が、以前よりも明らかに速い。

 その理由としては身体能力の向上もあるだろうが、歩幅――身体が大きくなっていることが直接的な要因だろう。


 以前より一回りは大きくなったジーレの身体。

 年相応にはまだ届かないが、八歳くらいにしか見えなかった昔とは違って、今のジーレは十歳程度には見える。

 半年会わなかっただけという事実を考えれば、驚異的な成長ぶりだ。


 しかし大きく成長したジーレではあるが、ひとっ飛びで近付いてくる無邪気な瞳だけは変わっていない。

 何かに期待しているかのように僕の眼を見詰めているのだ。


 よしよし……分かっているともさ。

 新たに腕を上げた僕の技術を体感させてやろうではないか。

 そして、勢い良く助走をつけたジーレが僕に飛び掛かる。


 ――どん!


 うっっ、治したはずの肋骨が軋むような一撃だが怯みはしない。

 僕は受け止めると同時に――ジーレを回し始めている!

「わぁぁぁ……!」と、期待通りの展開に喜びの声を上げるジーレ。


 だが、まだ喜ぶのは早い。

 僕の真価はここから始まる。

 日々の練習で巧みになった重術を駆使し、僕は爆発的に遠心力を高めていく。


 この時点で過去のトップスピードを超えている実感はあるが、これは僕の重術操作が上達したことだけが勝因ではない。

 回されているジーレも、自分の足先に重術を行使しているのだ。

 言うなればこれは、僕とジーレの合体技に他ならない。


 ちなみにこのまま〔ジーレキック〕をレットに浴びせると、一日に二度も合体技を受けるという快挙を達成出来るのだが、さすがに怒られそうなので止めておいた方が良いだろう。

 僕としては、レット(みずか)ら『来いよ……俺に来いよ!』と言い出してくれるのを期待しているが、引いた顔をしている親友から前向きな言葉が出てくる気配はない。


 そして、これほどの回転速度ともなれば、本来なら前回のように摩擦熱で靴が焼けてしまっていたはずだ。

 だが僕は同じ(てつ)を踏んだりはしない。

 同じ轍を踏まない。つまりは馬車などの車輪の跡を踏まないことを意味するが、今回の僕は轍ではなく鉄を踏んでいる。

 そう――靴の踵に鉄板を仕込んでいる!


 これで前回のように〔靴に穴が開く〕という事態を回避出来るわけである。

 正直に言えば摩擦熱で足の裏がローストされつつあるのだが、この程度で弱音を吐くわけにはいかない。

 僕の目標は、この堅牢な玉座の間。

 そう、今日こそは高速スピンでこの部屋の床を抉ってみせる……!


明日も夜に投稿予定。

次回、二十話〔ズレている感性〕

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