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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 再会に次ぐ再会

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十七話 衝突する親友

 その部屋は、王城高層階の突き当たりに位置していた。

 一歩近付くだけで身体に襲い掛かる圧迫感。

 本能がそこに近付いてはいけないと警告しているかのようだ。


「おいアイス、これ……」

「うん、シーレイさんだね。……油断したら駄目だよ」


 レットの心配そうな声に応えつつ、僕は仲間たちへ注意を促す。


 僕たちは王城に着くなりシーレイさんの居室へと足を運んでいた。

 ロブさん情報からするとシーレイさんの精神状態は危険水域にあると踏んでいたが、部屋から漏れ出している強烈な魔力を感じる限りでは推察通りだったということだろう。


 シーレイさんの加護は血神。

 この加護は、肉体系でありながら魔術系に近い特徴を持つ加護でもある。

 そしてその魔力の質は余人に優しい代物ではない。


 セレンの魔力のように致死性のあるものではないが、物理的圧力を受けているような重圧を感じさせるのだ。

 そんな魔力がフロア全体に広がっているわけなので、この階にシーレイさん以外の気配が感じられないのは必然と言えるだろう。


 しかし……ロブさんからはシーレイさんの元気が無いと聞き及んでいるが、これはどちらかと言えば相当に強いストレスを溜め込んでいる気配だ。

 おそらくは爆発寸前の精神状態にある。


 帰国を約束した半年の期日にはギリギリで間に合ったわけだが、もし遅れていたらと思うと想像するだけで恐ろしい。

 もちろん、このシーレイさんのイライラに僕が関係していない可能性はあるが、これまでの経験則から考えても間違いなく僕のせいだろう。

 ……これはシーレイさんにも王城の人たちにも申し訳ない事をしてしまった。

 ロブさんが「アトハ、マカセタゼ!」と爽やかに退散してしまうのも当然だ。


 ――――。


 そして僕は部屋の前に辿り着いた。

 まずは礼儀に則って扉にノックをしてみるが、部屋にいるらしきシーレイさんからの反応は無い。


 大声で呼び掛けてみようかな、と思ったところで――咄嗟に思い留まった。

 今のシーレイさんに扉の外から声を掛けるような真似をすれば、勢い余ってドアを破壊してしまうのではないか?


 うむ、充分にあり得ることだ。

 なにしろシーレイさんには、数多くの前例がある……!


 そうなると迂闊(うかつ)な行動は慎まなければならない。

 何度も王城を破壊してしまってはナスルさんに申し訳が立たないのだ。


 しかし、部屋の前まで来ておいて回れ右をして帰るという選択肢は存在しない。

 僕の帰りを待ってくれていた彼女を、これ以上待たせるわけにはいかない。

 要するに、他に被害が広がらないように配慮して行動すればいいだけだ。

 僕とシーレイさんの間にある障害物、扉を穏便な形で取り除けば万事解決だ。


 僕はポケットの中をごそごそと漁る。

 仲間たちが怪しむように見守る中、僕が取り出したのは――――針金!

 扉の存在が邪魔なら開放してやればいい――――そう、ピッキングで!!


 無論、礼を失している行為だという自覚はある。

 僕は常識人なので当然の事だろう。

 しかしこの行為には、器物損壊を避けるという目的だけではなく他の有益な効果も見込めるのだ。


 シーレイさんは感極まる場面では我を忘れてしまう傾向が強い。

 感激の余り、僕の身体中の骨をボキボキにしている前科がいくつもある。


 そこで、このピッキング登場だ。

 シーレイさんを驚かせて虚脱させることにより、興奮した彼女による僕への暴力行為を防ごうというわけである。


 ナスルさんに部屋の合鍵を借りるという手もあるが、若い女性の部屋の鍵を借用するとなればあらぬ疑いを掛けられる可能性がある。

 それに、時間と手間を掛けてシーレイさんを待たせるわけにはいかない。


 元大盗賊のドジャルさん直伝のピッキング技術をもってすれば、ルピィでなくとも扉の鍵を開けることなど児戯に等しい。

 僕はレットの制止の声を聞き流しながら、カチャリと解錠した。

 扉を解錠した次の瞬間には――ドアをバーンと開けて名乗りを上げる。


「やぁやぁ我こそは軍国生まれ軍国育ちの……」


 戦場での名乗りをイメージした再会の挨拶は最後まで言わせてもらえなかった。

 シーレイさんの動きが想定以上に速過ぎたのだ。


 僕が部屋に押し入った瞬間、シーレイさんはベッドに座っていた。

 乙女が花弁を一枚ずつ千切りながら恋占いをするように、シーレイさんは無感動な様子で〔枕〕を千切っていた。

 ……精神の不安定さを象徴するような不穏な行動である。

 布製の枕が紙切れのように千切られているのが中々に恐ろしい。


 そしてシーレイさんは、煮えたぎっているような瞳を自室への訪問者に向け、それが僕であることを認識した瞬間――爆発的な反応を示した。

 さながら可燃性ガスに火を点けたかのような反応。

 シーレイさんは眼をカッと見開き――――爆発的な脚力で僕へ迫ったのだ!


 思わず身構えてしまいそうになるが、彼女に敵意が無いことは分かっている。

 驚かせて動きを止めることには失敗してしまったが、扉は開け放たれて物損被害は避けられているので問題は無いはずだ。


 あとは正面からシーレイさんを受け止めてあげるだけだが…………んん?

 これは、何かが違うぞ。

 いつものような押し倒す流れでもなければ抱き締める流れでもない。

 なにしろ間近に迫ったタイミングでも速度に衰えが見られな――っぐぁ!?


 僕の冷静な考察はそこまでとなった。

 敵意こそ感じられないが、相手をどこまでも弾き飛ばすようなタックル。

 実際、覚悟して足場を固めていたはずの僕の身体は宙に浮いていた。


 咄嗟に重術で身体に荷重を加えるが、結果的にそれは悪手だった。

 猛烈な突進力によって吹き飛ばされていた僕の身体。

 重術により膨れ上がった僕の質量。


 速度と質量が大きければ大きいほど衝突力は増大する。

 飛ばされていた僕の身体が重量を増加させた瞬間――レットにぶつかった!!


「うぅぉっ!?」


 シーレイさんと僕による〔合体技〕とも言える衝突力だ。

 さしものレットと言えども、これだけのエネルギー量に耐えきれるはずがない。

 後ろに立っていたせいで玉突き衝突を受けた親友は、僕の代わりに飛んでいく。

 バリンッと廊下の窓ガラスを叩き割り――――レットは大空へと飛び立った!


 そう、ここは地上五十メートルの高層階……!


 窓から落ちたレットの安否は気になるところだが、シーレイさんが僕の上に馬乗りとなっているので身動きができない。

 落下したレットを見て爆笑しているルピィを見る限り、おそらく僕の親友は無事なのだろう……。


明日も夜に投稿予定。

次回、十八話〔積み重なる理不尽〕

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