表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 再会に次ぐ再会
229/309

十六話 謎を解く者

 懐かしの王城が僕の目の前だ。

 政権交代以降ずっと王城で暮らしていたせいか、自分の家に帰ってきたような安心感を覚えるものがある。

 きっと王城の人たちも家族のように僕の帰参を歓迎してくれるはずだろう。


 僕は正門の傍らにある守衛所へと近付く。

 王城の正門が〔不落門〕と呼ばれていたのは、もう過去の話だ。

 全てを拒絶するように閉ざされていた正門はもう存在しない。

 新しい正門には、誰もが気軽に訪ねることが可能な守衛所が設けられている。


 広い守衛所の中には平和そうな顔の兵士さんが二人いるだけだ。

 僕は逸る気持ちを抑えるように、近くにいる年配の兵士さんへ声を掛ける。


「疲れた身体を癒やす柔らかい風――アイス=クーデルン、只今戻りました!」


 ついつい詩的に帰還を告げてしまう僕。

 半年ぶりの王城なのでテンションがおかしくなってしまうのも仕方がない。


「ア、アイスさん……か、帰って来られたんですね」


 だが門番さんの反応は微妙だ。

 出稼ぎに出ていた息子がようやく帰ってきたぐらいのイメージをしていたのだが、この反応は明らかに違う。

 どちらかといえば……ロクでなしの放蕩息子が帰ってきた、みたいな反応だ。


 悲しいことだが、軍属の人たちでこういった反応をする人は少なくない。

 僕が低姿勢で親しみやすい態度を取っていても、なぜか軍国兵士の大多数に怯えられているのが現状だ。


 だがそれでも、僕はめげたりなんかしない。

 兵士さんたちとの地道な交流を欠かさないようにして、いつかは皆の人気者になることを目標としているのだ。

 僕が決意新たに兵士さんに話し掛けようとすると――部屋の奥で本を読んでいた若い兵士さんが訝しむように近付いてきた。


「隊長、この子供は誰ですか?」


 どうやら新しく入軍した若者のようだ。

 僕の顔を知らない人間は兵士の中には少ないはずだが、入軍したばかりの兵士ならば知らなくとも無理もない。


 軍国出身の人間であれば僕の名前くらいは知っているだろうが、僕の顔を直接見たことがないという人間は珍しくもないのだ。

 彼は離れたところにいたので、先の僕の名乗りも聞こえていなかったのだろう。


 ちなみに『この子供』と言われてしまっているが、彼は年齢的には同じくらい……いや、僕の方が一つ二つ上かも知れない。

 客観的に見ても僕は童顔なので仕方がないところだ。

 当然、彼がこちらの顔を知らなくとも僕が不快に思うはずもない。


 だが、僕の周囲の人たちはそうは思わなかったようだ。

 血相を変えた隊長さんが若者を窘める暇もなく――ロブさんが吼える。


「ナテガルメエフケカ! シテカメエン!!」


 うむ、分からない……!

 話の流れからすると若者を咎めるような言葉を発したのだろうとは思うが、ロブさんが怒っていることを察するだけで精一杯だ。


 これでは問い詰められたところで返す言葉が分からない。

 上司が部下に向かって『俺の言ってること分かってんのか?』などと嫌味で責める光景があるが、これはもうリアルに『分かっていません!』と答えるしかないだろう。


 だが、年若き兵士は僕の予想を超えていた。


「す、すみません! それだけは勘弁して下さい」


 ば、ばかな……!

 会話が成立しているだと!?

 発言内容を想像して返事をすることならあり得る。

 だがこれは、明らかに内容を理解している受け答えだ。


 なんてことだ、これはとんでもない逸材だぞ……。

 これは〔マスターロブ〕の称号を送らざるを得ない……!


 しかし彼が何を勘弁してもらいたいのかは気になるが、それは後のことだ。

 とりあえず、ロブさんに詰め寄られている若者を放って置くわけにはいかない。


「彼は責められるような事は何もしていませんよ。ほらロブさん、それより先を急ぎましょう」


 言葉の通り、彼は全くもって無実だ。

 僕の顔を知らなかっただけで怒られるなどとは許されないことだ。

 これではとんだブラック職場である。


 僕が若者の正当性を訴えたのが効いたのだろう、興奮の渦中にいるロブさんも「アガナライサ」と分かってくれた!

 ……うむ、なんだか頭がおかしくなりそうになってきた。

 これは早く城内に向かった方が良さそうだ……。


 しかし、若者がまた聞き捨てならない言葉を放った。


「アイスさん……」


 その言葉は、感謝の念を込めて僕の名前を呼んだように聞こえた。

 だが、決定的に不可解な事がある。


 僕はロブさんの言葉を理解したいと考えている。

 だから当然、分からなくとも常にリスニングには集中しているのだ。


 そして彼とロブさんとの一連のやり取りに、『アイス』という単語は出てきていない事も確認している。

 そうなると、彼はどうやって僕の名前を知ったのか……?


 初対面の段階では知らなかったはずなので、考えられるのはただ一つだけだ。

 そう、ロブさんが発した言葉の中に僕を意味する言葉があったということだ!


 ……さすがはマスターロブの称号を持っているだけのことはある。

 後日改めて、彼の技術を伝授してもらいたいところだ。

 常に向上心を持っている僕としては、現状に甘んじているわけにはいかない。

 僕だってロブさんの友人として成長したいのだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、十七話〔衝突する親友〕

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ