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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 再会に次ぐ再会
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十五話 開かれた男子会

 僕たちはロブさんと連れ立って、行きつけの甘味処を訪れていた。

 王都にいた頃は毎日のように通っていた甘味処だ。


 本来ならすぐにでも王城に向かうべきなのかも知れないが、もちろん仲間たちから反対の声が上がるはずもない。

 実はレットだけは反対しかけたのだが……アイファによって封殺されている。


『先に王城へ……』

『何を言っている! 私は行ったことが無いのだぞ!?』


 僕が甘味処に行こうと提案して、レットがそれに反対意見を上げようとしたところで――すかさずの謎アピールである。

 行ったことが無いということが理由になるのかは不明だが、女性全般に弱いレットが『そっちこそ何を言っているんだ!?』などと言うわけもなく、いつものように言い負かされてしまったのだ。


 王都に滞在していれば甘味処にはいつでも来ることが出来るのだが、前々から楽しみにしていたらしいアイファを止められるはずもない。


 だが、今回の甘味処は僕にとっても貴重な機会だ。

 これまでレットやロブさんと一緒に甘味処を訪れる機会は少なかったのだ。


 なにしろロブさんは現役の軍団長、レットは軍団長代行だ。

 二人とも軍団長の仕事が忙しいので、中々一緒に遊びに行くタイミングを合わせにくかったのである。

 もちろんそれぞれ個別で遊ぶことはあったが、数少ない男友達が二人も揃うのは極めて稀なことだ。


 そんなわけで――今回は入店人数が多いこともあって、僕たちは男女別々のテーブルについている。

 すぐ隣のテーブルではあるのだが、女性陣との別行動もまた珍しい。

 もちろん、マカだけは僕の傍らだ。


 ――――。


「う~ん、シーレイさんの元気が無いというのは心配ですね……」


 ロブさん(いわ)く――ここ最近のシーレイさんは自室に閉じ込もりがちで、普段に輪をかけて近寄り難い存在となっているらしい。

 元々シーレイさんは他人を拒絶する傾向があっただけに心配だ。

 王城に着いたら最優先でシーレイさんの元へ向かわなくてならないだろう。


「シーレイさんは病気ではないんですよね? ロブさんは最近会って話をしてないですか?」

「アイツァ、ハナシガ、ツウジネェカラナ……」


 僕はツッコまない……ツッコんだりしないぞ!

 時々ロブさんとも会話が成立しないなんて絶対に言わないぞ……!


「シ、シーレイさんは人見知りなところがあるんです。悪く思わないであげて下さいね」


 実際には人見知りと言うよりは人間嫌いなのだが、そう正直に伝えてしまうと近付き難い印象を与えてしまうので避けたのだ。

 ロブさんが「カマワネェヨ」と笑って返してくれたのが嬉しいところだ。

 相変わらずロブさんは懐が広くて優しい人だなぁ……。


 しかし世の中には、ロブさんの言語が不自由であることを理由にからかうという信じ難い不届き者がいるのだ。

 まったく、信じられない人間もいたものである。

『ソノトオリダゼ』――うむ、僕の心のロブさんも同意してくれている!


 ――――。


 お気に入りの団子を食べながら三人で歓談していると、自然に新しい仲間であるアイファの話題となった。

 外見だけは綺麗な子ではあるので、ロブさんから感心しているような呆れているような言葉が飛んでくる。


「アイスハ、スミニオケネェナァ」

「誤解ですよロブさん。手の掛かる妹が増えたようなもので……いや、手の掛かる子供のようなものですね」


 つい『妹』と口に出したことでセレンから冷たい視線が飛んできたので、さりげなく軌道修正を図った。

 たとえセレンが隣のテーブルに座っていたとしても油断は禁物だ。

 僕の言動は常に検閲対象となっているのである。

 うむ、軽率に妹を増やすような発言をしたのは失敗だった。


 咄嗟の判断で娘となったアイファは、もちろん僕の発言には気が付いていない。

 幸せそうな顔でパフェを食べているので周囲に気を配る余裕が無いのだろう。

 アイファの口元に付いたクリームを見る限りでは、手の掛かる娘としての本分を全うしているようだ。


 しかし実際のところ、ロブさんの言には考えさせられるものがある。

 ロブさんは分かっている上でからかっているだけだが、王都では本気で僕が〔ハーレム〕を形成していると思っている人間が存在するのだ。

 狙って集めたわけではないが、僕の仲間に魅力的な女性が多いことは否定できないので邪推の対象となってしまうのは分からなくもない。


 だがそうなると……ルピィやフェニィたちの結婚相手が見つからない要因として、僕の存在が悪影響を及ぼしている可能性があるのではないだろうか?

 決まった相手がいるからアプローチを掛けるわけにはいかない、というわけだ。

 その推論を裏付けるように、アイファを見た人たちの中には妙なことを言っている人間もいたのだ。


『アイス君の四人目の奥さんだな』

『いや、五人目だろ?』

『何を馬鹿な、六人目に決まってるぜ』


 反射的に僕の方が『何を馬鹿な!?』と口を挟みそうになったが、なんにせよアイスハーレムを幻視している人間は一人や二人では効かないはずだ。

 彼女たちの婚活を応援しているはずの僕が最大の障害となっているようでは笑い話にもならない。


 いっそのこと僕が責任を取って――結婚に悩む仲間の誰か一人、或いは複数にアプローチを仕掛けるという手もある。

 だがそれは……あまりに僕にとって都合が良すぎる話だろう。


 僕の存在が婚活の退路を断っておきながら、『相手が他にいないなら僕と結婚しよう!』というのは厚顔無恥にも程がある。

 彼女たちが僕で妥協してくれるとは思えないし、そもそもからして彼女たちと僕では釣り合いが取れない。


 そしてなにより、結婚となると感情面での問題がある。

 僕はもちろん仲間たちのことが好きだが、仲間たちは僕にどのような感情を向けているのか。……僕自身の感情にしても、友人として好きなのか異性として好きなのかの区別がよく分からない面もある。

 恥ずかしい話だが、これは僕の恋愛経験が未熟だからだろう。


 ……いや、こうして悩んでいても仕方がない。

 恋愛相談は後日レットに聞いてもらうとして、とりあえずは後回しだ。

 今は他に優先すべきことがある。


「もう少し休憩したい気持ちもありますが、そろそろ王城に行きましょうか。王城に着いたらお土産のリンゴでアップルパイをご馳走しますよ」


 甘味処のメニュー全制覇を目論んでいるフェニィやアイファには悪いが、元気が無いと聞いたシーレイさんのことが心配だ。

 このお店にはいつでも来られるので、今日のところは引き際だろう。


 もちろんさりげなくアップルパイをチラつかせることで、甘味処を出発しやすい空気を作るという配慮も忘れない。

 ロブさんも「ソイツァ、タノシミダナ」と喜んでくれているが、この発言はフェニィたちの重い腰を上げさせる役割にも一役買っているのだ。

 もう彼女たちとの付き合いも長いので、すっかり誘導技術が巧みになってしまった感がある。


明日も夜に投稿予定。

次回、十六話〔謎を解く者〕

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