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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
最終章 第一部 排斥の森 
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二話 疑似婚活パーティー

「にぃさま、こちらが焼けています」


 セレンが串焼きの肉を渡してくれたので僕はお礼を言って受け取る。

 そしてご機嫌でセレンに「あーん」と食べさせてあげると、可愛い妹は呆れたような様子で素直に食べてくれた。


 僕たちは研究所跡地でバーベキューをしている真っ最中だ。

 カザード君のお迎えを座して待っているのも退屈なので、親睦を深めるべく盛大なバーベキューパーティーを開催しているというわけである。


 バーベキューパーティーの参加者は多い。

 なにしろ救出した人たちは総勢で三十人を超えている。

 これほどの大所帯ともなると食材の調達にも一苦労である。


 近くに街でもあれば買い出しに行くところだが、ここは人里離れた施設だ。 

 他に選択肢もないということで、山中に狩りへ出掛けたが、三十人以上のお腹を満たすことを考慮すると生半可な量の獲物では足りない。

 そんなわけで、やむを得ず怪しげな魔獣もたくさん狩ってしまったが……それらは毒耐性のある僕たちが率先して食べていくしかないだろう。


 そうして始まったバーベキューだが、参加者の雰囲気はどこかぎこちない。

 それもそのはず、被害者たちの多くは顔見知りではあっても私的な会話を交わしていたわけではないらしく、まともに会話するのは今回が初めてという人も珍しくないようなのだ。


 しかし、このどこか緊張した様相の若い男女たちの集まり。

 これは噂に聞く〔婚活パーティー〕のようではないだろうか?


 僕の念願としていたお嫁さん探しの機会ではあるが……しかし、ここでそんな無粋な真似をするつもりは毛頭ない。

 この場の参加者は僕に恩義を感じている人が多いので、ここでのアプローチはあまりにもアンフェア過ぎる。


 それに、僕はパーティー開始早々から多くの人々に囲まれていたのだが、セレンが『散ってください』と追い払ってしまっている。

 セレンは久し振りに魔力を解放した影響で開放的になっているのか、珍しくもお兄ちゃんを独占したい気持ちを表に出しているのだ。

 皆さんとの交流を妨害されたのは残念なのだが、そんなセレンも可愛いので大らかな心で許してしまうところである。


 僕たち兄妹の周りからは人がいなくなっているが、この場で浮いているのは僕らに限った話でもない。

 協調性のない僕の仲間たちも、それぞれ安定のマイペースぶりを発揮している。


 アイファは食事中だけは笑顔を絶やさない子なのだが、それは決して対人関係で愛想が良いというわけではない。

 むしろ話し掛けてくる人たちを威嚇するように追い払っているくらいだ。


 そして僕にはその理由が分かる。

 アイファは野生動物の如く、自分の食事を取られないように警戒しているのだ。

 さすがに気心の知れた僕たちが相手なら大丈夫なのだが、初対面の他人ともなれば警戒心剥き出しである。


 同じく食いしん坊組のフェニィも似たようなものだ。

 歓談の場でもあるバーベキューにも関わらず、黙々と焼いては食べてをルーチンワークのように繰り返している。

 ほぼ無表情で流れ作業のように食べ続けているので、フェニィに興味を持っているらしい人も話し掛けることが出来ないでいるようだ。


 一見不機嫌そうにも見えるフェニィだが、あれはむしろ機嫌が良い状態であることが僕には分かる。

 炎術で大仕事をして称賛の嵐を受けた後に、バーベキューだ。

 どう考えても、フェニィの機嫌が悪いはずもない。


 食いしん坊組でありながら人だかりに囲まれている唯一の例外は、愛らしくも太々しい我らがマカである。

 いつもは憎まれっ子に甘んじているマカだが、今日ばかりは人気者だ。

 その理由は他でもない――砕神のマジードを打倒した神獣だと紹介したからだ。


 マジードは研究所を代表するような悪党だっただけあって、囚われていた人たちも色々と苦々しい思いをさせられていたらしい。

 そんな悪党をマカが華麗に瞬殺したことを語って聞かせてあげたので、一躍マカは大人気となり、人々は競い合うように仔猫のお世話をしているというわけだ。


 ついに訪れた空前のマカブームだが、しかし当のマカにはあまり思うところはないようだ。

 差し出された食事は「ご苦労ニャ」とばかりに偉そうに受け取っているが、貰う物を貰った後は一顧だにしていない。……容易には媚びないあたり、さすがはパーティーが誇る孤高のニャンコだ。


 そんな社交性ゼロ組とは異なり、人の和に囲まれつつも上手くあしらっている仲間もいる。

 パーティー最優秀良識人の座を僕と競っているレットと、口から先に生まれてきた口達者なルピィだ。


 というか……レットの周囲には若い女性ばかりが集まっている。

 相変わらずのモテモテぶりで妬ましいものだ。

 この様子からすると、レットを婚活パーティーに呼んでしまった日には――『俺の独り占めでぃ!』となることは間違いない!

 


 発作的にこの光景を絵に仕上げてケアリィに送ってやりたくもなるが、親友の幸せは素直に祝ってあげなくてはいけないので自制しておこう。

 それにレットは、幸せというよりは女性に周囲を固められて困っているようなので、これ以上親友を追い詰めるのは酷と言うものだ。


 ちなみにカザード君も、レットと似通った立ち位置にいる。

 これで将来が楽しみなイケメン少年ではあるので、可愛い少年好きのお姉さんたちがカザード君に群がっているのだ。


 これまでの経緯を気に病んでいるのかカザード君はぎこちない感じなのだが、囚われの身であったお姉さんたちの方は気にしているようには見えない。

 むしろ緊張しているカザード君を微笑ましく見守っているようだ。


 これらの仲間たちは思い思いに楽しんでいるようで喜ばしいのだが、一人だけ放っておけない存在がいる。

 そう――ホラ吹き王こと、ルピィだ。

 僕を陥れることを生き甲斐にしているルピィは、聴衆に呪神との顛末を臨場感たっぷりに説明している。


「そこでアイス君が手を向けて言ったのさ――『()ぜろ』。そしたらもう呪神は粉々ってわけよ!」


 一体どこの誰の話をしているのだろう……?

 脚色を交えて話しているどころか創作話になっているぞ……。

 というか――完全に僕の意思でミンチにしたことになっている!


 聴衆にはミンチを直接確認した人もいるので信憑性があるのが恐ろしい。

 しかし聴衆の皆さんが「おぉ!!」と感嘆の声を上げて話にのめり込んでいるので否定に入りづらいな……。


「そして()端微塵(ぱみじん)になった呪神を前にして決め台詞を言うわけだよ――『僕の得意料理はハンバーグさ!』」


 デタラメにもほどがある……!?

 よくも本人を前にしてそんな嘘八百を並べたてられるものだ……!

 なにより腹立たしいことは、得意料理がハンバーグなのが事実であることだ!


 だが、たとえ得意料理であってもそんな局面でアピールなどするわけがない。

 あらぬ誤解をされてしまうではないか……!


 しかし僕の胸中とは裏腹に、ルピィの話術に乗せられた人々は大盛り上がりだ。

 レットと話していた女性たちなども、食い入るようにルピィのホラ話に聞き入っているのだ。


 謎の決め台詞のくだりでは、あちこちで拍手喝采が起きてしまっている有様だ。

 雰囲気に流されているアイファも当然のような顔をして拍手に加わっている…………君はあの場にいただろう!


 声を大にしてルピィの話を否定したいところなのだが、感極まって目を潤ませている人までいるので言い出しにくい。

 今の話のどこに感涙要素があったのだろう?


 いや、仇敵であった呪神の最期を語っているわけなので感動するのも分からなくはないのかな……?

 だが呪神退治に関する語り手――いや、騙り手であるルピィがご機嫌で人々の称賛に応えているのはやっぱり腹立たしい。


 ……いや、待てよ。

 考えてみると、疑似婚活パーティーのような場でルピィが脚光を浴びているわけなので、婚期を心配している仲間としては祝ってあげるべきなのかも知れない。


 だが、ここで問題となる点がある。

 彼女の周囲には若い男女が集まっているわけだが、果たしてルピィはどちらの性別で判断されているのか? ということだ。


 今日のルピィは半袖シャツにショートパンツというラフな格好だ。

 男女どちらとも取れる恰好ではあるが、ここは仲間として客観的な目で厳正に判断する必要がある。


 むむぅ……しかし見れば見るほどに中性的な容姿だ。

 美少年か美少女か、外角低めストライクゾーンぎりぎりを攻めている。

 さぁ、審判の判定は――――マーン!


 公平かつ客観的な判断により〔男〕と決定しました……!

『決め手? ははは、胸がないじゃないですか!』


 …………はっ、まずい!?

 脳内でヒーローインタビューをしていたらルピィと目が合ってしまった!

 勘の鋭いルピィなので、僕の思考を少なからず察している可能性が高い。

 なにしろ――笑顔でこちらに向かってきている……!


 そしてその笑顔からは優しさを感じない。

 僕の直感が『逃げろ!』と訴えてきているので間違いなく危険だ。

 ここは早急に対策を講じる必要性がある。


 この場には僕に敬意を示しているような人たちだっているので、僕がイジメられる姿を見せて失望させるわけにはいかない。

 だが、ルピィを相手にその場凌ぎの虚言で誤魔化すのは難しい。

 ここは嘘を吐かずにこの局面を乗り切らなくてはならない。


「アイス君? 面白いコトを考えてたみたいだけど、ボクにも教えてくれるかな?」

「そ、それは……ほら、ルピィさんが大勢の人に囲まれていたので、遠くにいってしまったような寂しさを感じていただけですよ。言ってしまえば嫉妬ですね。いや、なんともお恥ずかしい」


 これも一つの真実だ。

 性別不詳の件について思考していたのも正しいが、人の輪の中心にいるルピィを見て一抹の寂しさを感じていたのも否定できないのだ。


 完全な嘘を口にすればルピィに看破されるが、この言葉は紛れもない真実なので死角はない。……つい敬語になってしまったのはご愛嬌だ。

 気恥ずかしいので口に出したいことでもないが、背に腹は代えられない。


「ふ、ふぅ〜ん、ふぅ〜ん…………アイス君は甘ったれだなぁ。よしよし、ボクが一緒にいてあげようじゃないの!」


 ルピィは動揺を見せながらも、気を取り直したようにご機嫌になっている。

 調子に乗って僕の頭まで撫でているくらいである。

 すっかり寂しがり屋みたいな扱いを受けているが、ここは甘受するしかない。

 それに、僕とて頭を撫でられるのは嫌いではないのだ。


「…………」


 なぜか無言のフェニィまでもが僕の傍らに移動してきた。

 そしてそのまま、何事も無かったかのように食事を再開している。


 僕が寂しん坊扱いを受けていたので、フェニィなりに気を使ってくれたようだ。

 照れ臭くはあるが、その気持ちが素直に嬉しいと思う。


 フェニィばかりかアイファも焦ったような様子でこちらに駆け寄ってきている。

 おそらくは、仲間外れにされているのではないかと不安になったのだろう。

 アイファを歓迎するように料理を取り分けてあげたところ、予想通りに晴れやかな笑みを浮かべてくれた。

 うむ、僕の推察に間違いはなかった。


 珍しくも兄妹水入らずだったところに仲間がやってきたわけなので、セレンから不満そうな雰囲気がするが……こればかりはやむを得ない。


明日も夜に投稿予定。

次回、三話〔無差別精神〕

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