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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
最終章 第一部 排斥の森 
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一話 消える過去

最終章【魔大陸~神の解放~】

 こうして悪魔……いや、呪神を撃破するという目的を達成したわけだが、即座に軍国へ帰還するわけにはいかない。

 研究所に囚われていた人たちが本舎に残っているし、帝国の王子君を一人でここに置いていくわけにはいかないのだ。


 囚えられていた人の中には、帝国に怨みを持っている人も存在する。

 そんな場に帝国の王子を一人で置いていくのは無責任過ぎるだろう。


 もっとも、喜んで呪神の悪行に協力していたような人間とは違い、研究所に囚えられていた人たちは必然的に善良な人が多い。

 帝国の王子とはいえ、幼いカザード君に八つ当たりをする人はいない気もする。


 それよりも、結果的に呪神を爆散させてしまったせいなのか、僕がカザード君からドン引きされていることの方が気になる。

 そう、僕が近付くと反射的に後ずさりしているのだ……!


 もしかしたら、呪神の返り血が僕に直撃してしまった影響で、僕が殺人鬼のような外観になっていることも引かれている要因なのかも知れない。

 さすがに目の前で『スプラーッシュ!』などとやられると、回避に自信のある僕でも難しいのだ。

 

 まったく、あの呪神も気が利かない。

 周囲に気を使って『私、爆発します!』と警告するのが礼儀というものだ。

 カザード君が僕から距離を取っているのは全て呪神のせいである。


 しかし、天穿ちをいきなり実戦で使用したのも失敗だった。

 天穿ちを抜くほどの相手と出会わなかったという事実もあるのだが、この大剣の特性を確認しなかったのは怠慢だったと言わざるを得ない。

 今後、時間を見つけて天穿ちの性能を検証した方が良さそうだ。


 とにかく、研究所に囚われていた被害者やカザード君の今後の問題もある。

 現状では、この場でカザード君のお迎えを待つのが妥当なところだろう。


 カザード君は帝城に置き手紙をしてきているらしいので、順当に考えれば帝都から迎えがやって来るはずだ。

 迎えの人たちがカザード君を回収するついでに、被害者の人たちも一緒に保護してもらえれば都合が良い。

 帝王や王子君の人柄を考えれば被害者が無碍に扱われる可能性は皆無なので、被害者の皆さんを預けることに心配は無いのだ。


 被害者の中には、帝国の世話になることを拒む人もいるかも知れないが……そういった人たちには、僕の方から当座の生活費くらいは提供するつもりだ。

 もしも彼らが帝国を出奔することを望むならば、僕が民国や教国宛に紹介状を書いてあげるのもやぶさかではない。……僕が教国に紹介状を書くと逆効果になりそうだが。


 だが、帝都からのお迎えが来るまでにやっておくべきことがある。


 ――――。


「な、なんなのだ、この馬鹿げた威力の術は!?」


 カザード君は唖然としながら()()()()に目を奪われている。


 僕たちの眼前では研究所が燃えていた。

 もちろん言うまでもなく――フェニィの炎術によるものだ。


 研究所は帝国の資産ということになるので勝手に焼却処分してしまうのは良くないのだが、これには事情がある。

 僕は研究所を制圧する過程で〔研究資料〕に目を通している。

 フェニィに炎術をお願いしたのは、その醜悪な研究成果をこの世から抹消することが目的だ。


 研究成果の一例としては――妊娠中に母体を調整することで、先天的に身体能力が高い人間を生み出す方法などがある。

 そう、フェニィやロールダム兄妹に関わる研究だ。

 ……この方法は、出産時に母体となった人間が死亡すると記載されていた。

 フェニィは母親の事を覚えていないので感慨は無いようなのだが、こんな研究は迷うことなく焼却処分の対象だ。


 研究成果の中には平和利用に転換可能な技術もあるのかも知れないが、その多くは非人道的な実験の結果によるものだ。

 ここに残された資料を閲覧した人間が研究を模倣する可能性もあるし、技術を悪用する恐れだってある。


 もちろん、本来なら研究所の敷地ごと丸々炎上させる必要性は無い。

 だが研究所は、被害者たちにとっては悪い記憶しか残っていないような場所だ。

 ここで存在ごと抹消しておいた方が、彼らとしても気持ちのいい明日を迎えられるというものだろう。


 それに、施設内にある死体の山を焼却しておきたかったという理由もある。

 とくに呪神の死体が問題だ。

 ミンチとなった呪神の死体を検分されてしまったら、僕の趣味でミンチにしたなどと恐ろしい誤解をされるかも知れないのだ……。


 消えゆく研究所を眺めている人々の反応を大別すると――呆然としている者と、静かに涙を流している者の二種類が多い。

 被害者たちを苦しめ続けていた研究所が呆気なく燃えているわけなので、信じられないように呆然としてしまう気持ちは理解出来る。

 フェニィの炎術の破格ぶりに呆然としている人もいるとは思うが、傍目には判別できない。


 問題は、静かに滂沱(ぼうだ)している人々だ。

 何が問題かといえば、彼らからはロールダム兄妹と同じ匂いがしている。

 そう、僕への敬意をビシビシ感じるのだ!


 洗脳術から解放した人間ということで恩義を感じてくれているようなのだが、彼らが炎上している研究所を眺めている姿からは〔宗教儀式〕のような雰囲気すら感じられる。


 僕が軽く話し掛けるだけで非常に畏まった対応をされてしまうので、迂闊にコミュニケーションを取るのも躊躇ってしまうほどだ。

 セレンやレットが人々から崇敬されている姿を眺めるのは大好きなのだが、僕個人としては気さくに接してもらった方が嬉しいところである。


明日も夜に投稿予定。

次回、二話〔疑似婚活パーティー〕

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