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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 滅すべき存在
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最終話 神殺し

「――にぃさま?」


 おっと、いけない。

 天穿ちを見ていたら、ネイズさんのことを思い出して感傷に浸ってしまった。


「ごめんごめん、ぼーっとしてたよ。とりあえず、また小細工されるのも面倒だから手足を切り落としちゃうね」

「……っ、戯言を。どうやって私の網を消したのかは知りませんが、神である私に刃向かえるとでも思っているのですか?」


 たしかにこの男は、神と呼ばれる存在なのかも知れない。

 だが、僕に立ち塞がる敵としては取るに足らない相手だ。

 立ち姿を見るだけで分かる。

 この男からは戦闘技術など欠片も感じられない。 


 僕から言わせれば、呪神は魔力量だけが取り柄の男に過ぎない。

 その魔力量にしたところで、僕にとっては大した問題ではない。


「正直に言えば、僕は貴方の魔力量をもう少し高く見積もっていたのですが…………まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!?」


 魔術系の神持ちに遠距離から干渉するくらいなので、この男は途方もない魔力を所持していると僕は想定していた。

 だが実際には、小細工に頼っていただけで予想を遥かに下回る魔力量だ。

 たしかに呪神の魔力は、僕の魔力量と比べれば桁違いに膨大な量ではある。

 だがセレンの魔力は――――()()()()()()()()()()()()


 おっと……呪神ばかりか仲間たちも僕の言葉に半信半疑のようだ。

 セレンが過小評価されるのは嫌なので、ここは軽く証明してもらうとしよう。


「セレン、少しだけ魔力を開放してもらってもいいかな?」

「……よろしいのですか?」


 セレンが躊躇(ためら)っているのは、僕が幼い頃に『絶対に魔力を解放したら駄目だよ』と厳命したからだろう。

 たまに感情の昂りに伴って魔力が漏れることもあるのだが、実はそれはセレンの魔力量からすればごく一部に過ぎない。

 この屋舎は魔力遮断構造になっているので、短時間であればセレンが魔力を解放しても影響は少ないはずだ。


「うん。でも屋舎から魔力が漏れるといけないから一瞬だけね?」


 セレンは微笑を浮かべて「分かりました」と返してくれる。

 僕にお願いされたからなのか、久し振りに魔力を解放出来るからなのか、セレンの機嫌は良さそうだ。


 そして――――ぞわり、と全身が総毛立つ。

 一瞬で世界がセレンの色に染まった。


 これは比喩(ひゆ)ではない。

 室内に満ちていた呪神の魔力は、もう消えている。

 ひと呼吸の間にセレンの魔力に呑み込まれている。


 セレンの力を把握している僕でさえ鳥肌が立つような圧力。

 仲間たちが反射的にセレンから距離を取っているのも仕方ないことだろう。


 だがこのままでは、物理的にだけではなく精神的にも孤立してしまいかねない。

 魔力の放出自体は一瞬だけだったが、周囲を圧倒する威圧感は残存しているような錯覚を受けるのだ。

 ――よし、ここはお兄ちゃんである僕の出番だろう。

 

 何事も無かったかのように超然と立っているセレン。

 そんな可愛くも凛々しい妹に、僕は片手に大剣を持ったまま近付いていく。

 そして、空いた片手でセレンを力強く抱き寄せる!


 セレンの声無き動揺が感じ取れたが、構うことなく得意の褒め態勢へ移行する。


「やっぱりセレンは凄くて可愛いなぁ。ついつい僕もセレンに(ひざまず)いちゃうところだったよ!」

「……っ」


 頭を撫でてあげようにも両手が塞がっているということで、顎でグリグリとセレンの頭を撫でてしまう。

 仲間たちが莫大な魔力に曝されて警戒しているので、兄妹仲睦まじいところを見せつけて安心させようという寸法だ。


 もちろん仲良しアピールの効果は目覚ましい。

 セレンに脅威を感じていた仲間たちだったが、今となっては〔僕に〕脅威を感じさせるような眼光を飛ばしている……!

 敵を目の前にして緊張感が感じられないことに苛立っているのだろう……。


 しかし、大剣を持ちながら片手に少女を抱えていて、周囲の人間から殺意を向けられているというこの構図。

 これではまるで……女の子を人質にしている立て籠もり犯のようだ!


 しかも視点次第では、人質にセクハラを働いているように見えなくもない。

 うむ、珍しくもセレンは混乱しているようだが、セレンが冷静になれば照れ隠しで僕の骨が折られそうな気もする。

 僕の身の安全の為にも、そろそろ呪神を片付ける作業に移行すべきだろう。


 その呪神はと言えば、正気を失ったような様子で何事かを呟いている。

 魔力を視認出来ずとも圧倒的な魔力の奔流を感じないわけがないので、自身がセレンの足元にも及ばない存在だと自覚してしまったのだろう。


 呪神がセレンを凝視しているその眼は狂気に満ちている。


「これほどの魔力、あり得ない……箱人が得られるはずがない。我々を超える力など持てるはずがない」


 現実から目を背けるように否定を重ねている。

 セレンに劣る魔力でメンタルまで弱いとは、これで神とはよく言ったものだ。

 うちのセレンの方がよほど神のようである――――僕の妹、神ってる!


「この力は我々を…………いや、まさか()()が加護を与えたのか!?」


 女王……つまりそれは、()()()()ということなのか?

 神の世界にも身分制度があるのだろうか……?

 セレンは刻神の加護持ちなので、つまりは刻神が女王なのかな?


 セレンは呪神が言うところの『自然発生した神持ち』の類だと考えていたが、呪神の様子からすると加護を与えた神が存在するということになる。

 第三者が妹に介入しているという事実は面白くないが、女王というなにやら特別感を受ける相手なら許容出来る気もする。


 詳しい話を聞きたいところだが、セレンの加護を呪神に漏らすのは嫌なので、あの男の方から女王に関する情報を吐き出させたいところだ。


 ――おっと。

 呪神は錯乱している様相でありながら、抜け目なく魔力を飛ばしてきている。

 先ほどの魔力糸とは違って、今回は泥の塊のような魔力だ。

 これほどの大きさならば、僕の仲間たちなら見えずとも魔力を察して回避可能だろうが――あっさりと天穿ちで斬り払っておく。 


 しかしこの男、油断も隙もあったものではない。

 聞き出したい話がまだ残っているので、余計な事ができないように早いところ四肢を切り落としておいた方がいいだろう。


 ……そういえば、天穿ちは貯留した魔力を放つことも可能だったはずだ。

 過去にネイズさんから聞いた話では、魔力を放出するイメージを抱きながら天穿ちを振るうだけでいいと言っていた。


 現状は呪神の魔力をかなり吸収しているはずだが、直接斬りつければ〔呪術〕をお返し出来たりするのだろうか……?

 放っておけば自然に剣から魔力が抜けるらしいのだが、呪神の腕を切り落とすついでに試してみるとしよう。


 ――――。


 呪神が執拗に魔力を飛ばしてくる中、僕はそれを斬り払いながら近付いていく。

 何度飛ばしても僕に変化が見られないせいか、呪神の顔に焦りが浮かんでいる。

 この反応からすると、この男は自分が飛ばしている魔力が見えていないらしい。


 呪神が飛ばしている泥のような魔力――おそらくは呪術の類だと思われるが、全て消滅させてしまっているので効果は不明のままだ。

 天穿ちで攻撃してみれば、この男の身体でもって効果が分かるかも知れない。


 恐怖で気が狂っているかのように次々と魔力を飛ばしてくる呪神。

 神を名乗っていた時からすれば、想像もできないほどに哀れな姿だ。


 どれだけやっても無駄だということが理解できないのか、もう呪神に残された手段が魔術攻撃しか無いからなのか、呪神の思惑は僕には分からない。

 だが、その姿はただただ惨めで哀れだ。


 これでは普段盗賊を相手にしている時と何も変わらない。

 最初はこちらを侮っていた盗賊も、いつも最期には恐怖に歪んだ顔となる。

 ……僕は脅すような事をした覚えは無いので不可解な話ではある。


 そして僕は、飛来する魔術を難なく処理しながら呪神の前に立つ。

 溜まりに溜まった魔力を吐き出すイメージを思い描きながら――――呪神の右腕へ天穿ちを振るった。


 ――ボンッ!!


 ()()()()()()()()()()


 んんっ……?

 ど、どういう事だろう?

 なぜ右腕に剣が触れただけで、呪神の身体が木っ端微塵になってしまうのか。


 天穿ちには呪術が溜めているとばかり思っていたが、爆発性の魔術でも放たれていたのだろうか……?

 いや、魔力を過剰供給したせいで呪神の身体が堪え切れなかった可能性もある。

 なにしろ天穿ちは部屋に滞留していたセレンの魔力も吸収しているのだ。


 しかし参ったな……この男は管理者などと言っていたので、もう少し情報を引き出しておきたかった。

 そしてなによりまずいのが――


「あーーーっ!? アイス君が()()()()()してるーっ!!」


 そう、この爆散死体はミンチとしか言いようがない!

 ルピィが大喜びしながら(はや)し立てているのも無理はない。

 ついに僕はミンチ犯となってしまったのだ……!


 しかし『ミンチ王子してるーっ!』などと言われたのは生まれて初めてだ……。

 品行方正に生きてきたこの僕が、恐怖のミンチ王女であるジーレに並び立つ存在となってしまったのか……。

 爆散死体を見て大喜びしているルピィの人間性はかなり危ういが、今の僕では人のことが言えたものではない。


 だが、やってしまったものは仕方がない。

 とりあえず全ての問題が片付いたのだから、その事実を素直に喜ぶべきだ。


 もちろん、また別の神が後任の管理者として現れる可能性はある。

 だが僕らの世界は僕たちだけのものだ。

 たとえ神であろうとも無粋な干渉をするなら容赦はしない。

 対話が通じないような相手ならば、呪神と同じ末路を辿ってもらえばいい。


 ともかく、早急に対策を練る必要性もない。

 呪神の話によれば、僕の周囲の情報は神々には把握できないという話だ。

 つまり、今日この場で起きた出来事も神には知られていないことになる。


 いずれは呪神の変事が知られることになるだろうが、少しは猶予があるはずだ。

 今後の事は、これからゆっくり考えていくとしよう。

 今はただ……愛すべき仲間たちの笑顔に応えるだけでいい。

二章【帝国〜神殺し〜】完。


ここまでお付き合いいただき本当にありがとうごさいます。。

もし良ければ、感想や評価など目に見える反応を貰えると凄く嬉しいです。


次は、最終章【魔大陸〜神の解放〜】を予定していますが、少しだけ連載をお休みします。

早ければ一週間、遅くても一ヶ月以内には連載を再開出来たら良いなぁ……と思っております。

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