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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 滅すべき存在
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八九話 インストラクター

「いやぁ〜、カザード君は強いねぇ。軍国一のインストラクターと呼ばれている僕としては胸が踊るなぁ」


 カザード君の実力は想像以上のものだ。

 闘神が武神の対となる存在と言われている理由が良く分かる。

 純粋な戦闘能力が高いだけではなく、持ち前の戦闘センスが実に素晴らしい。

 初見の攻撃にもしっかり反応するという抜群の戦闘勘の良さだ。


 戦闘狂な槌神のおじさんと時々訓練をしているらしいので、カザード君が才能に溺れて自己研鑽を怠っているということも無いようだ。

 この小さな身体が成長した暁には、僕の父さんのように手がつけられない存在となることは間違いないだろう。


「…………もうお主らと模擬戦などやらん」


 な、なぜだ!?

 なぜ拒絶されてしまうのか全く心当たりが無いぞ……!

 何度カザード君が骨折しようとも、何度も何度も治してあげるという完璧なケア体制を敷いていたのに……!


 いや、『お主ら』ということは、調子に乗ってフェニィに模擬戦を解禁したのがまずかったのかも知れない。

 フェニィは手加減が苦手なので僕たち以外との模擬戦を禁じているのだが、カザード君は頑健そうだったので模擬戦を許可してしまったのだ。


 唯一誤算だったのは、フェニィには帝城で〔手出し禁止〕を伝えていたせいか鬱憤が溜まっていたのだろう……ちょっぴり模擬戦でやり過ぎてしまったことだ。

 だが、『殺した!?』と焦ったりもしたが、ちゃんと彼は生きていたのだ。

 半死半生だった怪我もしっかり治してあげたので、何も問題は無かったはずなのだが……?


「なにが軍国一のインストラクターだ……見え透いた嘘を吐くんじゃない。お主の訓練を一度受けて二度目を望む人間がいるわけなかろう」


 うぐっ……。

 軍国のことなら分かりはしないと思っていたが、鋭く見抜かれている。


 だが実際のところ、僕が悪いわけではないのだ。

 僕が練兵場に顔を出すと兵士さんが逃げてしまうのは、一緒に付いてきている仲間たちが恐れられているせいである。


 結果的に〔軍国一のインストラクター〕という通り名は誇張表現になってしまっているが、僕一人だけならそう呼ばれていたはずだと確信している。

 なにしろ僕は、魔力量も多い上に治癒術まで使えるのである。

 苛烈な訓練で兵士さんが大怪我をしてしまっても、何度も治療して何度も訓練が出来てしまうのだ。


 当然、その訓練密度の高さは尋常なものではない。

 僕の名教官ぶりの証は、一緒にいる仲間たちを見れば一目瞭然だ。

 元々ポテンシャルの高いメンバーたちとはいえ、今や帝国の精鋭部隊すらも一蹴するほどの実力者である。


 カザード君も鍛えあげていけば将来が楽しみなほどの逸材なのだが……フェニィに半殺しにされてしまったせいで僕たちへの印象が悪くなってしまったのだろう。


 ここは、僕のもう一つの特技で名誉挽回していくしかない。


「それよりカザード君、チキンのトマト煮は口に合ったかな? あえて軍国風の味付けにしてみたんだよ。――そう、これで今日から君も軍国民だ!」

「勝手に余を軍国の人間にするな! だがしかし……認めるのは癪だが、たしかにお主の料理は美味いと言わざるを得ないな」


 よしよし、奮発してブランド鶏である〔帝都コーチン〕を買っておいて正解だ。

 まさか帝国の王子に振る舞うことになるとは想定外だったが、味に厳しそうなカザード君をも唸らせてしまったようだ。


 もちろん、軍国風のトマト煮込みは軍国出身の仲間たちにも好評だ。

 言うまでもなく、軍国出身ではないフェニィやアイファにも大好評である。

 フェニィは王子殺害未遂の件で叱責を受けて膨れていたが、すっかりご機嫌だ。


 そして料理効果のおかげなのか――気が付けば、カザード君が僕を呼ぶ呼称が『貴様』から『お主』に変化している。

 このまま発展していけば『お兄ちゃん』と呼ばれるようになるのも時間の問題だろう……いやはや困ったな、またセレンが不機嫌になってしまいそうだ。


 ――――。


 昼食を取った僕たちは恒例のティータイムに突入していた。

 模擬戦での臨死体験の影響で拗ねていたカザード君だったが、今では完全に本来の余裕を取り戻している。


「お主、料理の腕も中々のものだな。軍国の王にしておくのが勿体無いくらいだ」


 んん? 軍国の王……?

 模擬戦で頭でも打ったかと心配してしまったが……もしかして、アレだろうか。

 僕の悪評の一つに〔ミンチ王子〕なる意味不明のものがあるので、僕のことを軍国の王子などと誤解しているのかも知れない。


「僕は王族でもなんでもないよ。それに……軍国の王には一人娘がいるだけだから、そもそも軍国には王子は存在しないんだ」


 ここは確実にデマを否定しておかなくてはならない。

 それでなくとも『武神を王にしよう』なんて声が軍国には存在する。

 王位簒奪を目論んでいると誤解されかねないデマは早急に払拭すべきなのだ。


「そんな事は分かっておるわ。王女とお主は婚約しておるのだろう? 結婚すれば将来は王になるということではないか」


 えぇぇっ!?

 ば、ばかな……僕は知らない間に婚約をしていたのか!?

 しかもそのお相手は、外見が十歳にも満たないようなジーレ。

 ――――犯罪的じゃないか!


 実年齢ではセレンと同じ年とはいえ、見た目は完全無欠に幼女だ。

 一体どこから婚約なんて話が出てきたのだろうか?

 しかしこれはまずい、まずいぞ……。

 カザード君の発言を切っ掛けに場の空気が豹変している。


 一触即発。触れるだけで八つ裂きにされそうな空気感だ。

 もしかしたら僕が抜け駆けして、『さらば独身!』などと計画していたと思われているのかも知れない。

 結婚に敏感な年頃の人たちもいるので実にまずい……!


「ち、違うよカザード君。軍国の王女とは、ジーレとはそんな関係じゃないよ。僕は婚約どころか結婚相手を募集しているくらいだからね」

「なんと、そうだったか! ……ならばアイス=クーデルン。お主、帝国に来るつもりはないか? 若い嫁の十人や二十人はすぐに紹介出来るぞ」


 五歳児にお嫁さんを斡旋してもらうのか………。

 僕を見込んでくれるのは嬉しいのだが、二十人もお嫁さんを貰ってしまったら胃に穴が空きそうだ。


「――それとも、そこの連中のことを気にしているのか? ハハハッ、お主も年増よりは若い娘の方が良いだろうて」


 先の模擬戦でフェニィに殺されかけたのを根に持っているのか、カザード君は挑発的な笑みを浮かべている。

 あれだけやられていたのに心が折れていない事実には感心してしまう。


 しかしこれは、あまりにも無謀な振る舞いだ。

 憎まれ口の一つも叩きたくなる気持ちは分からなくもないが、世の中には冗談の通じない相手がいるのだ。


 無言で立ち上がるフェニィ。

 慌てて僕も立ち上がろうとするが、時既に遅し。

 あっと思った時には――――稲妻のような蹴りが炸裂していた!!


「っぐぉっ!?」


 ドゴッと腹部に強撃を受けて、彼は一直線に森へ向かって突き進んでいく。

 砲弾のようなカザード君は進路上の全てを蹴散らしている。

〔カザードアタック〕を受けた巨木が薙ぎ倒されるほどの破壊力だ……!


 いや、いかんいかん。

 素直に感心している場合ではない、これは由々しき事態だ。


 僕は大急ぎでカザード君の元に駆け寄る。


「ああ、よかった……肋骨が折れてるだけだね。お昼ご飯を吐いたかと思って心配しちゃったよ」


 食後にボディへの強烈な一撃だ。

 お昼ご飯たちが『こんなところにいられるか!』と、胃の中から出奔する可能性を心配してしまうのは当然のことだろう。


 だがさすがにカザード君は丈夫な身体をしている。

 苦しみに呻いてはいるものの、彼からリバースの兆候は見られない。

 立派な木を倒壊させてしまったことだけは残念だが、こうなれば無駄なく燃料として採取してあげるしかないだろう。


「……しんぱいする、ところ……ちがう、だろう」


 文句を言いながらもカザード君は元気そうだ。

 だが、安心するのはまだ早い。

 彼の受難はまだ終わったわけではない。


 近付いてくる女性陣たちから不穏な空気を感じている。


「帝国の王子が闘神ってことはさぁ……ここで消しておいた方が軍国にとってプラスだよね」


 ひぃっ……駄目だ、ルピィのあの眼は本気で言っている眼だ!

 いつもは愛国心など欠片もないくせに、なんでこんな時ばっかり『祖国の為に!』なんてことを言っているのだ……!


 さらりとルピィも年増扱いされたことに腹を立てているのだろう。

 しかも年長組の二人だけではない。

 なぜかアイファやセレンまでもが殺意を発している。


 咄嗟に僕は、動けないカザード君を背中に庇う。

 ……しかしこの姿は、まるでアレのようじゃないか?

 そう、ドメスティックバイオレンスな母親から子供を守る父親のようだ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、九十話〔脳内シミュレーション〕

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