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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 滅すべき存在
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八七話 叶えられた面会

「――ぼっちゃま、本当に陛下の元に連れていかれるおつもりですか?」

「槌神たちを無傷で倒すような者どもだぞ? 止めようとして止められるものでもあるまい」


 帝王の元に案内してもらえることになったのだが、それはカザード君が僕たちを信頼してくれたわけではなく、妥協の産物であるようだ。

 槌神のおじさんたちは帝城における最大の守護者であったようなので、僕たちを止めるのは諦めざるを得ないといった様子だ。


 ちなみに、カザード君も闘神持ちだけあって幼いこの時点でも相当に闘えるはずだが、今の自分では勝ち目が無いことを冷静に悟っているらしい。

 五歳児とは思えないほどの合理的な思考だと言えるだろう。


 しかし、僕が暴力で主張を押し通したような言い方なのが気になるな……。

 話し合いの最中、珍しくも仲間たちは口も手も挟まずに大人しくしていたのに。

 偉そうな態度の人間を嫌う仲間たちなので、普段の皆ならカザード君たちのような相手には苛烈な反応をしていたはずなのだ。

 ……これはやはりドーナツ効果のおかげだろう。


 今回の成功を活かして、今度からは交渉事の前には〔おやつ持参〕を心掛けるようにしておこう。


 ――――。


「――よし、入るがよい」


 重厚な扉の前で待機していた僕たちは、先に部屋へと入っていったカザード君の言葉に招き入れられた。

 部屋の気配を察するところ、カザード君とじいやさん以外にはもう一人だけ――これが帝王のようだ。


 しかしあっさりと入室を許可されたのは嬉しいが、カザード君は僕たちをどんな風に説明したのだろう?

『余の新しい友達なので便宜を図ってやってほしいのじゃ!』などと紹介してくれてたりしないかな……いや、それはさすがに想像し難い。


 僕らは多少強引な訪問者ではあるので、帝王には強い敵意をぶつけられることになるのが妥当なところだろう。

 実際のところ、帝王が悪魔と組んで悪行を率先しているような人間であれば、ここで成敗しなくてはいけない可能性もある。

 そう考えれば、敵対的な態度を取られる方がやりやすいとも言えるのは事実だ。


 もっとも、帝王を殺害してカザード君を悲しませるような事はしたくない。

 僕や王子君の為にも、荒事を必要とする事態にならない事を祈るばかりだ。


「――――アイス=クーデルン、か……」


 生きることに疲れ切った男。

 それが帝王の第一印象だ。

 帝国という大国の王であるにも関わらず、帝王からは覇気が感じられない。


 侵入者である僕たちを見ても、帝王には不安や怯えといった感情はないようだ。

 その様相を表現するなら諦観…………いや、ようやく来るべき時が来たといった〔達観〕が近いだろうか。


 しかし、なぜこんな反応なんだろう……?

 いや――考えるよりも、まずは帝王に自己紹介をすることが先決だ。


「ある時は平和の体現者、またある時はカザード君の友達――――そう、アイス=クーデルンとは僕のことです!」


 最初が肝心ということで、僕は勢いよく自己紹介してしまう。

 カザード君が「貴様と友誼を結んだ覚えはないわ!」などと僕を拒絶しているが、口で言うほど嫌がってはいない気もする。


 もしかしたらカザード君は、王子という立場から友人が少ないのかも知れない。

 帝王を害する必要性も無さそうなので、彼とはこれからも良い友人関係を維持出来ることだろう。


 ――そう、帝王からは悪人特有の臭気がしない。

 人生に疲れたような顔をしてはいるが、悪人というよりは善人寄りの人間性である印象だ。……軍国のナスルさんより善人そうに見えるくらいだ。

 その帝王は、僕とカザード君のやり取りに苦笑を浮かべている。


「そうか……本当に、私やカザードの命を奪いにきたわけではないようだな」


 どうやらカザード君との友達アピールが功を奏したらしい。

 息子に緊張感が見られないこともあって帝王は気を緩めてくれたようだ。


 軍国の主戦力である僕たちが帝城に乗り込んできているのだから、帝王に警戒されてしまうのも仕方がないことではある。

 事前に送られていた書簡には僕らの目的について記載されていたのだが、槌神のおじさんの独断で握り潰されてしまっているのだ。


「一つ確認したい。民国を襲った帝国の部隊を撃退したのは、君たちだな?」


 そして帝王は『確認したい』と言いつつも、完全に断定している口調で民国襲撃事件への関与を聞いてきた。

 民国政府には僕たちの関与を口外しないようにお願いしてきたのだが、民国の情報管理が甘かったのだろうか……?


 しかし帝国の主力部隊を壊滅させてしまったわけなので、これを認めてしまうと友好的な雰囲気が瓦解してしまうかも知れない。

 僕が誤魔化すべきかどうか迷っていると……帝王は僕の答えを待たずに続けた。


「隠す必要はない。民国には神持ちの部隊に対抗出来るだけの戦力はないのだから、君たち以外には考えられないのだ。……むしろ私は、君に礼を言いたいくらいだ」


 礼……?

 これはやはり民国への襲撃は帝王の意思ではなかったということか。


 ならばここでの僕の返答は決まっている。


「ふふ、バレてしまっては仕方がありません。――そう、民国で罪無き人々を蹂躙していた不埒者どもは僕たちが退治しておきました。帝王さん、民国への賠償金は忘れてはいけませんよ?」


 帝国の部隊を撃滅して感謝されているなら話は簡単だ。

 堂々と開き直って恩に着せてしまうだけである……!


 もちろん、さりげなく民国への賠償金の支払いを促すことも忘れない。

 人命は金で解決出来るようなものでもないが、襲撃犠牲者の遺族が生きていくことにもお金は必要だ。

 僕たちは民国から高額な礼金を受け取ってしまっているので、帝国への賠償金請求に口添えするくらいは当然のことだろう。


「無論だ。帝王として、民国へは出来る限りのことをするつもりでいる」


 話を聞いてみれば……やはり帝王は、襲撃の事実そのものを民国から知らされるまで知らなかったらしい。

 休戦協定を結んでいる民国から抗議の使者が送られてきたことにも驚いたようだが、神持ち部隊の遺体を引き渡された時には更に驚いたようだ。


 しかし、民国がわざわざ襲撃者の遺体を返還していたとは思わなかった。

 これは人道的配慮というよりは、当てつけのようなものだろうか……?

 顔のパーツがバラバラになっている男もいたはずなので、帝王もさぞ驚愕したことだろう……。


 そして――帝王が賠償金の支払い意思を示した意味は大きい。

 このことにより、僕の中にあった疑惑が確信に変わった。


「休戦中とはいえ、これだけあっさり謝罪の姿勢を見せるということは…………過去の民国への侵略戦争は帝王さんの意思ではなかったのではないですか? それどころか、軍国への侵攻も貴方の意思だったとは思えないですね」


 休戦協定が結ばれているとはいえ、かつて帝国は民国に戦争を仕掛けている。

 ならば、今回の件で莫大な賠償金を支払う選択をするよりは、協定を反故にして民国への再侵攻を行う方が従来の帝国戦略に合っている。


 カザード君はまだ幼いのでイメージが湧かないようだが、ひと昔前の帝国は戦争狂としか言いようがないほどに周辺国に戦火を広げていた過去がある。

 だが、ここにいる帝王からは好んで戦争を起こすような印象は受けないのだ。


「……君の言う通りだ。研究所という施設が私の管理下にないだけではない。帝国という国が、私の管理下にはない」

「ち、父上!?」


 カザード君は父親の告白に動揺が隠せない様子だが、じいやさんは唇を噛み締めて帝王の言葉を受け入れている。

 じいやさんの反応からすると、前々から知っていたというよりは薄々察知していたといったところだろうか。


 しかし予想していた答えではあったが、これは僕にとっては朗報だ。

 現状のあらゆる問題に対しての解決策が明確で分かりやすい。


「いやぁ、それを聞いて安心しましたよ。つまり()()を倒してしまえば、皆が幸せで万事解決というわけですね!」

「悪魔? …………ああ、オーグ様のことか。悪魔とは言い得て妙だな。たしかにあの方は伝承にある悪魔そのもののような方だ。だが、闘うなどとは考えない方がいい。オーグ様は人の手に負えるような存在ではない」


 僕の読み通り、あの悪魔は研究所の件だけでなく過去の帝国が起こした戦争にも噛んでいたらしいのだが――帝王の話には耳を疑ってしまうような続きがあった。


「これは私の代で始まった話ではない。私の父も祖父も、歴代の皇帝の影には常にオーグ様が存在している。知り得る限り、百年以上は同じ姿のままでな」


 ふむ……人間離れしている存在だとは思っていたが、本当にあの男は人間ではない可能性が浮かび上がってきた。

 長寿に特化した神持ちである可能性は捨て切れないが、父さんやフェニィに洗脳術を行使出来るほどの術者となると、長寿で一般的に知られている〔寿神〕などでは無いだろう。


 ――ちなみに、元軍国の王である将軍にも悪魔について尋問しているのだが、そこから得られた情報はほとんどない。

 将軍は、王城を訪れた悪魔の力を見せつけられた後、あの男の甘言に乗って武神との会食の場に同席させただけらしい。


 しかし歴代皇帝を影で操っていたということは、将来的にはカザード君もあの悪魔の影響を受けることになっていたのだろうか……?

 カザード君は父親の相次ぐ告白に放心状態となっているが、この純朴な子にあの邪悪な男が近付く前であったことは幸運だった。

 帝国で続く負の連鎖は、ここで僕が終わらせるとしよう。


明日も夜に投稿予定。

次回、八八話〔小さな義侠心〕

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