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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 滅すべき存在
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八四話 対となる存在

「――これは美味しいね。うん、帝都でも評判のドーナツ店だけはあるよ」

「うむ、アイスの言う通りだな。星三つをやろうではないか」


 皆と一緒にドーナツを食べ始めた僕だったが、期待以上の出来の良さに思わず感嘆の言葉が漏れてしまった。

 アイファに至っては評価方式を変更してしまっている有様だ。

 だが、いつもの百点満点方式はどうしたのだろう……?


 もしかしたら、スイーツは星の数方式に変える(こだわ)りでもあるのかも知れない。

 ……どちらにせよ最高評価のようなので変更する意図は謎である。


 ちなみに、現在エントランスホールにいるのは僕たちだけだ。

 槌神のおじさんや鎖鎌神のランクさんが大暴れした結果、兵士たちは命からがらホールを脱出しているのだ。


 ホールの調度品も片っ端から破壊されているので、兵士たちが退避した判断は正しかったと言えるだろう。

 その破壊者たる戦闘狂の師弟たちは、今となっては大人しい。

 二人揃ってレジャーシートの端で静かに寝ているのだ。


 ――そう、レットも順当におじさんを撃破している。

 本来ならば二人を倒した後は帝王の元へ向かうべきなのだが、案内してくれそうな兵士たちは一人も残っていない。

 闇雲に帝王を探すよりは、寝ている師弟の覚醒を待って案内してもらった方が効率的なので、おやつタイムがてら時間を潰しているわけである。


 もちろん直接師弟を起こしてもいいのだが、今の僕たちには休息が必要なのだ。

 実際、この穏やかな時間は怒っていたマカの心も平穏にしている。


 ただでさえ寝起きに機嫌の悪いマカが〔電撃起床〕を受けたことにより激しく荒ぶっていたのだが、今となっては僕の膝の上に座ってドーナツを食べているのだ。

 ドーナツの欠片を膝の上にポロポロ零していることには目を瞑ってあげよう。

 普段はテーブルマナーが良い猫なので、わざと零して僕に嫌がらせをしている気もするのだが…………きっと気のせいだ。


 そんなティータイムの和やかな空気は――突然の怒声に打ち壊された。


「――貴様ら、何をしているっ!!」


 おっと、これはまずい。

 冷静に考えれば、僕も自分に『何をしている!』と言ってやりたいくらいだ。

 他所様の玄関でレジャーシートを敷いてお茶会をしているのだから、これはもう叱責されても文句は言えないだろう。


 なんと申し開きをしたものか、と言い訳を思索しながら声の主へと視線を向けると――驚きで思考が停止した。

 一目見ただけでその人間が〔神持ち〕であることは分かった。

 しかし、その加護が問題だ。


 加護の種類に見当がつかないというわけではない。

 たしかに僕の眼では、初見の加護の判別が難しいことは事実だ。

 だが今回ばかりは、一見しただけで直感的に加護の予想が出来た。

 

 神持ちの中でも高い水準にあるフェニィと同程度の魔力量。

 そしてなによりも、その魔力の質が問題だ。

 肉体系や魔術系に近いが、純粋に戦闘だけに特化している加護だ。

 

 これに近い質の魔力の持ち主は、僕は一人だけしか知らない。

 そう、数多く出会った加護持ちの中で一人だけだ。

 それは僕の父さん――〔武神〕だ。


 そして武神に近い系統の神持ちとなると、僕には心当たりがある。

 軍国を象徴する加護が〔武神〕だとすれば、同じく帝国を象徴するような加護が存在するのだ。


「……()()?」


 かつて父さんの前に一人だけ存在したと言われている武神持ち。

 それは、二百年前に軍国を建国したと言われている建国王だ。


 そして帝国という国もまた、軍国と同時期に誕生している。

 それを成したのが帝国の建国王――〔闘神持ち〕だ。


 武神と同じ魔力の質の存在となれば、闘神の他には考えられないだろう。

 各地で争いが勃発していた群雄割拠の時代。

 その乱世に終止符を打ったのが、武神と闘神という二人の英雄の存在だ。

 ……まさか、帝国に闘神が生まれていたとは思わなかった。


 建国王以降、帝国に闘神が現れたという記録は無いので、おそらくは武神と同じく二百年ぶりの誕生という事になるのだろう。

 だが、同時期に二つが再誕するとは、時代の転換期でも迎えているのだろうか?


 そして、帝国が闘神の存在を秘匿していた理由についても僕には分かる。

 いや、僕でなくとも闘神本人を見れば一目瞭然だ。


「貴様っ、なぜ余の加護を闘神だと知っている!?」


 僕が呟いた闘神の単語に、当の本人である()()が驚きながら肯定してくれた。

 ――そう、闘神はまだ幼い少年だ。


 外見から判断すれば五歳くらいだろうか?

 帝国が闘神の存在を公にしていないのは、この幼さ故だろう。


 なにしろ軍国の武神に対抗出来るだけの可能性を秘めている貴重な闘神だ。

 一般にその存在を知らしめてしまうと、闘神がまだ幼いうちに殺害しておこうなどと考える者がいてもおかしくない。

 少なくとも、以前の軍国の王ならそう考えたはずだ。


 おそらく闘神に自衛出来るだけの力が備わった段階で、国を挙げて大々的に公表するつもりだったのではないだろうか。

 しかもこの子……尊大な態度といい、傍らに付き人らしきお爺さんがいる事といい、ひょっとしたらこの子は〔帝国の王子〕なのかも知れない。


 王族に闘神持ちが現れたとなれば、他国からすれば脅威という他ないだろう。

 純粋な戦闘力だけでなく、国民からも絶大な支持を集められるはずなのだから。


 なにはともあれ、まずはコンタクトを取ってみないことには始まらない。


「やぁやぁ、こんにちは。僕はアイス=クーデルン。君はひょっとして帝国の王子君かな?」

「かぁぁぁっつ! ぼっちゃまに向かって無礼であるぞ!」

「ご、ごめんなさい……」


 親しげに少年へ話し掛けたらお爺さんに怒鳴りつけられてしまった……。

 素性が分からないから聞いてみたわけなのだが、突然『喝!』を入れられれば反射的に謝るのも仕方がない。


 それにお爺さんは眉間に血管を浮かべて激怒しているので、これ以上の刺激はポックリ的危険性がある。

 ……理不尽感はあるのだが、ここは素直に謝罪する以外の選択肢はないだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、八五話〔導いてしまう先達者〕

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