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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第六部 滅すべき存在
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八二話 足りていない報連相

 僕の虚言に動揺しているのは帝国側だけではない。

 仲間のアイファすらも「そうだったのか!?」と素直に驚きの声を上げている。


 ……うむ、これはいけるぞ。 

 ここは更に強気に攻めてやろうではないか。


「おやおや、兵士の皆さん。帝王の友人である僕に剣を向けても良いのかな? 後で帝王に怒られてしまうんじゃないかな?」


 もはや僕は完全に調子に乗っていた。

 話している内に、本当に帝王が友人であるような気がしてきたくらいである。

 兵士たちも『まさか本当に?』と疑心を抱き始めている気配だ。


 そんな逡巡が漂う空気の中――エントランスホールに哄笑(こうしょう)が響き渡る。


「カッカッカッ、面白いな! しかし陛下へ直談判に訪れると聞いていたが、違ったかな?」


 槌神のおじさんは笑いながら僕に一通の書状を投げ渡した。

 なんだろう、と手紙を一読してみると――なんと、これは僻地の領主さんから帝王へ宛てた書状だ。


 カザの件で縁があった領主さんだが、『謁見の取り次ぎはできない』と言っていたにも関わらず、帝王へとりなしの書簡を送ってくれていたらしい。

 軍国のアイス=クーデルンが帝王との謁見を望んでいるので、直々に会ってあげてほしいという内容である。


 領主さんが気を利かせてくれたのは嬉しい。

 だが、これを僕にも伝えておいてほしかったのが本音だ。

 なにしろ――衆目の中で僕の嘘が暴かれてしまったのだ! 


 これはいけない、領主ともあろう方が仕事の基本ができていない。

 報告、連絡、相談、は円滑な業務遂行には必要不可欠である。

 そう、〔報・連・相〕が足りてませんよ領主さん……!


 だがもちろん、僕はこれしきの障害でめげるような人間ではない。

 

「おおっと、これは失礼。でも僕は嘘を吐いていたわけではないんです。言うなればこれは〔先払い〕。そう、これから友人になる予定なので何も問題はありません。もちろん、今日からおじさんも友達ですよ!」


 あくまでも自身の正当性を主張しつつ、ついでに槌神のおじさんとの交誼も結んでしまおうというわけだ。

 僕の揺るぎない交渉力には仲間たちも感心している。


 ルピィは「アイス君は凄いなぁ」と感嘆の声を漏らしているし、レットは『さすがは俺の親友!』と叫びたいのを堪えるように俯いているのだ。

 うむ、レットが居たたまれない様子にも見えるのは気のせいだろう。


 続けて、僕は密かに気になっていた疑問を尋ねる。


「そういえば……僕を待っていてくださったようですが、なぜか帝城の跳ね橋が上がっていましたよ? ――ああ、でもご安心を。僕たちが気を利かせて橋を下ろしておきましたから」


 そう――『待っていたぞ』と言っていたわりには、来訪を拒絶するように跳ね橋が封鎖されていたのだ。

 しかし、おじさんから〔歓迎〕の言質を取れたのは僥倖だ。

 その隙を逃さない僕は『お風呂沸かしておきましたよ?』とばかりに、さりげなく不法侵入を正当化してしてしまうのだ。


「おう、構わんぞ! お主に恐れをなした大臣たちの希望で封鎖されていただけだ。領主からの書簡はワシのところで止めておいたから、お主が会談を目的にきたとは想像もしていなかったのだろう」


 んん……?

 このおじさん、サラリととんでもない事を言っている。

 平和の意思を乗せた手紙を上層部に回さずに止めておいたとは、なぜそんな嫌がらせみたいな真似をしているのだろう。


 しかもそんな事をしておきながら、おじさんは僕に好意的な態度なのだ。

 そんな疑問を素直にぶつけてみると、おじさんから驚くべき答えが返ってきた。


「カッカッカッ! 会談に来た相手とは闘えんからな。ゴッドハンドのケーズを打倒したその力、ワシに見せてみよ!」


 うぐっ、そういう事か……。

 槌神のおじさんは〔バトルジャンキー〕なのだ……!


 神持ちともなれば自分が全力を出して闘える機会は少ない。

 だからこそ、軍国からの来訪者と手合わせするチャンスを失わないように、平和的解決に繋がりかねない書簡を握り潰してしまったのだろう。


 まったく、なんて傍迷惑な人なのか。

 つまるところ、城門付近で倒れている兵士たちは、本来なら失神させられる必要はなかったのかも知れないのである。


 そればかりではない。

 仮にも僕たちは敵国からの来訪者であり、カザでも堂々と名前を名乗っていた。

 だから、帝都で国からの監視が付くぐらいのことは当然だと考えていたのだ。

 ……あわよくばその監視者に接触することで、帝国とのコンタクトの切っ掛けにしようと考えていたくらいだ。


 だが実際にはそんな気配は微塵もなく、心中で不可解に思っていたのだ。

 これもひょっとしたら、槌神のおじさんが手を回していたのかも知れない。

 僕たちが警戒しないように手出し無用を伝えていた可能性は充分にある。

 現に、国益より我欲を優先しておきながら、おじさんは悪びれもしていない。


 そして、書簡の存在は兵士たちにとっても初耳だったようだ。

 呆れたような非難の眼差しをおじさんに送っている兵士も少なくない。

 うむ、非常識な神持ちに振り回される気持ちは共感出来るものがある。


 しかし『ゴッドハンドのケーズを打倒した』とおじさんは言っているが、ゴッドハンドの異名は有名だったのだろうか……?

 自分で名乗るのは痛々しいが、他人に呼ばれる分には格好良い気もする。


 だが、槌神のおじさんは重大な誤解をしている。


「ちょっと待ってください。ゴッドハンドを倒したのは僕ではありません。あの男を一撃で打倒したのは、ここにいる彼です。そう、彼こそがゴッドハンドを継ぎし者――裁定神持ち、レット=ガータス!」


 手神のケーズを倒したのは僕ではなく、親友のレットなのだ。

 親友の手柄を奪うような真似をするわけにはいかない。

 レットは「勝手に変なもん継がせんじゃねぇよ」などと僕の紹介に文句を言っているが、僕の口上を聞いたおじさんは喜色を浮かべて興奮している。


「おぉ、おぉ……そうだったか! あのケーズを一撃で。まさか裁定神持ちが闘いまでこなせるとは知らなかったぞ」


 戦闘狂だけあって、僕による華々しいレット紹介がツボに嵌まったらしい。

 この手の人は大仰さを好む傾向があるので〔試合の対戦相手〕を紹介するようにしてみたのだが、まさに正解だった。


 考えてみれば、槌神のおじさんたちが城門ではなく城の中で待ち構えていたのも〔趣味〕によるところが大きいのだろう。

 そう――城での対決の方がドラマチックというわけだ! 


 もうおじさんは待ちきれないように、大槌を構えて戦闘態勢を取っている。

 それに対してレットは、戦意が低そうながらも応えるように盾を構えている。


 ちなみにホールにいる兵士たちには動く気配がない。

 この闘いに道理が無いというのも動かない理由にあるだろうが、どちらにせよ神持ち同士の争いに介入するのは常人には難しいのだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、八三話〔誇示すべき武力〕

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