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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 露呈する加護
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七十話 始まったキャンプ

「アイスアイス! 魚を獲ってきたぞ!」

「おおっ、これはアユじゃないか。よくやったねアイファ! ……こっちはフェニィが獲ったやつかな? フェニィもお疲れさま!」

「……ん」


 満面の笑みで魚を見せびらかしてくるアイファを褒めつつ、目敏くフェニィの戦果も褒めてあげると、こちらもやっぱり誇らしげだ。

 フェニィが獲ったらしき川魚には外傷がほとんど無い。

 それも当然だ、彼女はクマのようにポンポンと岸辺に魚を掻き取っていくのだ。


 しかし一方のアイファの技術も決して馬鹿にはできない。

 アイファは大きな槍を使っているにも関わらず、魚の外傷といえば頭部に小さな刺し傷があるだけなのだ。

 その痕跡からして、無駄の無い必要最低限の攻撃であることは明らかだ。


 二人とも手加減が得意ではないのに、食が関わると高い技量を発揮するのだ。

 山でのキャンプに大張り切りなのもプラスに働いているのだろう。


 ――そう、キャンプ。

 僕たちは山賊被害で問題になっている山へとキャンプに訪れていた。


 キャンプとは言いつつ、もちろんその主目的は山賊討伐にある。

 山賊の影響で僻地の物資不足は深刻になっているらしいので、僕たちで早急に解決してあげようというわけだ。


 そして入山した直後には、早くもルピィが山賊らしき集団を発見している。

 しかしあくまでも〔山賊らしき〕であって、まだそうと決まったわけではない。

 ただのキャンパー集団の可能性だってある。


 そこで、キャンプをしつつ山賊を誘き出そうとしているのが現状になる。

 そう、現行犯ならば文句無しに討伐出来るのだ。

 ……決して、ただキャンプがしたかったからというわけではない。


「アイス君、スモモが一杯()ってたから採ってきたよ〜。いやぁ〜、ここは山菜も果物も豊富でいい山だね!」

「ありがとうルピィ、セレン。スモモは冷やしておいてデザートにしよう!」


 採集班の二人にお礼を言いながら、早くも氷水を作ってスモモを投入する。


 ちなみに今回は、珍しくも班分けをして山に挑んでいた。

 魚獲りにフェニィとアイファ。

 山菜などの採集にはセレンとルピィ。

 そして料理組は僕とレットが担当している。


 特に班分けで話し合ったわけではないが、自然に相性の良い組み合わせへと分かれていることになる。

 仲間外れになるようなメンバーがいなかった事には胸を撫でおろす思いである。

 いや、マカだけは大岩に寝そべったままゴロニャンとしているが、あの仔猫ちゃんだけは特別なので例外だ。


 採集から帰ってきたセレンが『働かざる者食うべからず――死すべし!』という冷たい視線でマカを見ているのが気掛かりだが、今回はマカに手伝ってもらいにくかったので仕方がない。

 料理や採集は論外として魚獲りにはマカの出番があったかもしれないが、雷術をうっかり行使してしまったら生態系の破壊に繋がる恐れがあるのだ。

 今回は待機してもらうのが無難な選択だろう。


「レット、ご飯の方はどうかな?」

「ああ、もうじき炊き上がるところだ。……しかしアイス、俺たちこんな事やってていいのか?」


 大鍋でご飯を炊いていたレットが己の在り方に疑問を持ってしまったらしい。

 レットはすぐに気に病んでしまうところがあるのだ。

 パーティーの方針に懐疑的な意見を持つ人間がいることは重要だが、ここはレットが間違っていると言えるだろう。


「いいに決まってるじゃないか。レジャーの最中に仕事の事を考えるのは良くないよ? 大事なのはメリハリなんだ。今のレットが考えるべき事はカレーとご飯の盛り付け配分くらいだろ?」


 大人数でカレーを食べる際に留意すべき点だ。

 ご飯に対してカレーが多過ぎても少な過ぎても、後半戦で『カレー余り過ぎじゃん!』となったり『ご飯だけ余り過ぎだよ、オカズ何かないの?』なんて事になりかねない。


 もちろんカレーが余り過ぎる分には翌日への持ち越しが可能だ。

 しかし、ご飯だけが大量に余ってしまうとカレー比率が〔一対九〕くらいの割合になったりして、ほとんど白米だけで食べる羽目になったりするのだ。


「いや、他に考えるべき事はあるだろ……。だいたいキャンプって、俺たちは普段からキャンプしてるようなもんじゃねえか」


 うむ、レットの言いたい事は分かる。

 旅生活を送っている僕たちにとっては、旅の毎日がキャンプに近いものはある。

 だがやはり、レットは間違っている。


「旅での野宿は慣れたものだけど、山中で泊まる機会は少ないだろ? しかもこの山は、自然豊かで川も澄んでいるから山菜や川魚にも恵まれているんだ。僕たちはキャンプの為に来たんだから、全力で満喫しなくちゃこの山に失礼じゃないか」

「キャンプの為に来たわけじゃねえだろ! 山賊退治に来たことを忘れてんじゃねえよ……まったく、いつもいつも最初の目的を忘れやがって」


 レットの叱責を受けながらも、僕は手早く配膳をしていく。

 カレーに加えてアユの串焼き。

 さらには山菜のお浸しまである。


 うん、栄養バランスも悪くないし美味しそうだ。

 ごろ寝をしていたマカがとことこやってくるのも当然の事だろう。

 ……そんなマカをセレンが冷たい眼で見ているのも仕方がない事だろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、七一話〔譲り合いの精神〕

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