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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 露呈する加護
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六九話 山賊疑惑

 レオーゼさんと別れた後、僕たちの足は速かった。

 寄り道にうつつを抜かすこともなく脇目も振らず足を進めて、あっという間に次の目的地である〔カザ〕へと辿り着いたのだ。

 ……これまでは街に立ち寄る度に数日間は滞留していたので、今までが遅すぎたとも言えるのだが。


「まずは領主の評判でも調べようか…………と思ったけど、なんだか街の空気が悪いね」


 この街は今まで訪れた街とは違い、僕たちを――いや、他人を恐れているような雰囲気がある。

 まるで、他人と関わると厄災に巻き込まれると思っているかのようだ。


 僕は大剣を担いでいるので、初めての街で警戒の視線に晒されることはあった。

 だがもちろん、その程度の事は問題にもなっていない。

 眼が合ってニッコリ微笑めば、第一印象での警戒などすぐに解いてもらえる。

 ……代わりに仲間たちの態度が刺々しくなることが多いので、今度は僕が仲間を警戒する必要性が出てくるのだが。


 しかし残念ながら、このカザの人々は眼も合わせてくれないのだ。

 コミュニケーション巧者の僕でも、この状況下での友達作りは時間が掛かる。


「これはもう裏を取るまでもなく、ここの領主は()()っしょ! 街の人間が暗いのは領主が後ろ暗いコトをやってるからだよ。すぐにでも屋敷へ襲撃に行こう!」


 言い掛かりのようなルピィの発言だが、それなりに真理を突いていると言える。

 圧政に苦しむ民から笑顔が少なくなってしまうのは珍しくないのだ。

 そう考えてみると、この街の雰囲気は〔将軍統治時代〕における軍国の寒村によく似ている。


 それでも、悪行の裏付けも取ることなく襲撃に行こうなどとは乱暴だろう。

 だいたい領主の弱みを掴んで帝王へ紹介してもらう計画だったはずが、何がどうなっていきなり屋敷へ襲撃に行こうという話になるのか。


 そもそも僕は、初手から弱みを掴んでの脅迫を目指しているわけではない。

 基本的には相手が悪人であったとしても、心を込めた説得により改心してもらうつもりなのだ。……弱みを掴んでお願いするのは最終手段だ。


「時間はあまり無いけど焦ってはいけないよ。冤罪は許されない事だからね」


 よく僕は冤罪被害に晒されているので、無実の罪で罰を受けてしまう被害者には敏感なのだ。

 ルピィがそれと判断したなら領主が無罪とは思えないのだが、物事の手順を誤ってはいけないのである。


 カザの領主の悪行疑惑は複数あるが、その中でも最たるものは〔山賊疑惑〕だ。

 カザの街近くにある深い山。

 この山は、近隣ニつの領地との境界線上に位置している。

 つまるところ、山の中で三つの領地が混在している事になるわけだ。


 問題は、その山での山賊被害が多発しているということにある。

 旅人から商隊に至るまで、手当たり次第に山賊の標的にされているらしい。


 カザという街は交通の要所にあり立地に恵まれているので、この街に限っては、山での行き来を制限されても致命的な事にはならない。

 しかし、僻地に位置している領地にとってはその限りではないのだ。

 数少ない移動経路で山賊が横行していれば、小さな領地では死活問題になる。


 当然のことながら、僻地の領主も座視していたわけではない。

 僻地領主が自らの私兵を山賊討伐に送ったりもしたらしいのだが、あえなく返り討ちに終わってしまったようだ。

 そして、業を煮やした僻地領主は最終的に帝国政府へと陳情している。


 その要請を受けて、帝国軍による大規模な山狩りが敢行されたのだが――しかし山賊の姿は影も形も見えなかったらしい。

 百人規模の山賊団と言われていたので、隠れ潜んでいても見つからないわけがないのだが、結果は空振りに終わったのだ。


 そこで浮上したのが、山狩りが行われていた最中、山賊団は〔どこかに(かくま)われていたのではないか〕という疑惑である。

 もっと言えば……そもそも連中は純粋な山賊なのか、という疑惑だ。


 以前からカザの領主は野心的な人物だと言われていた。

 大胆にも、カザに近隣の領地を併合しようと国に働きかけていたらしいのだ。

 そしてそんなところに――この山賊問題だ。

 山賊に扮した私兵を利用して、近隣の領地を干上がらせようという計略なのでは? と疑いを持つ人間がいても不思議ではないだろう。


 しかし、カザの領主がいかに怪しくとも物証がない。

 強引に調査を進めようにも、カザの領主は〔帝王の遠い親戚〕であることから、迂闊には手が出せない存在らしいのだ。


 ――そう、帝王の縁類。

 ルピィがここの領主に狙いを定めた要因の一つでもある。

 この件を上手く解決出来れば、目標である帝王との面会も難しくないはずだ。

 理想としては、僕の説得により――『罪を償う為に自首します。帝王への紹介状も書きます!』という展開が理想だ。


 ルピィの号令により仲間たちも領主屋敷陥落に燃えているが、僕の手に掛かれば平和的解決は約束されていると言えるので、暴力的手段の出番はないことだろう。


「アイス君、襲撃以外に良い考えでもあるの?」

「任せておいてよルピィ、我に秘策ありってね。まずは――山にキャンプへ出掛けよう!」


明日も夜に投稿予定。

次回、七十話〔始まったキャンプ〕

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