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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 盗神と裁定
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十八話 盗神

「――ボクに何か用?」


 わずかに意識を逸らした間隙を突くかのように、気が付いたら彼女はすぐ傍に立っていた。

 先ほどまで離れた場所で話していたのに、いつの間に――

 ――咄嗟に警戒したが、考えてみればむしろ好都合だ。話しかける手間が省けたと言える。


「キミ達何者なの? ボクの()()のことを知ってるみたいだし。立ち振舞いに全然隙が無いしさ」


 彼女は警戒するように僕らを見据えた。

 ――加護? 

 まさか雑踏の中、少なくとも十メートルは離れていたというのに、僕らの会話が聞こえていたというのか?

 しかも自分は他の人間と会話をしながらとなると、にわかには信じがたい。


「それからボクは女だよ。そういう美人なキミは男の子ってことで良いのかな?」


 どうやら本当に聞こえていたようだ――――そして僕は、自分の容姿のことを揶揄されて複雑な気持ちになった。

 母さん似の容姿を褒められると、母さんを褒められたようで誇らしげな気持ちになるが、男が美人と言われて素直に喜べるものでもない。とは言え、先に失礼なことを言ったのは僕なのだから、これぐらいは甘んじて受けなければならない。


「イケメンなお兄さんはボクのことを見たことがあるみたいだけど、どこかで会ったかな?」


 矢継ぎ早にレットにも問い掛ける。

 彼女は、からかうような口調で僕らに話しかけてくるが、瞳の奥は笑っていない。

 まるで僕らの反応を見ることで、思惑を推し測ろうとしているかのように見える――かなり頭のキレそうなタイプの人だ。

 きっと、彼女が音も無く近付いてきて僕らに先んじて声を掛けたのも、心理的に優位な立場に立つ為だろうと推察できる。


 しかし、神持ちの人間は知性にも補正が掛かっているのだろうか? 

 レットやセレンにしても平均より賢い方ではあるし、サンプルこそ少ないものの『おいら、神持ちだホ~イ』みたいなタイプの神持ちは見たことがない。……いや、一般人でも見たことはないのだが。


 そして、それより僕が気になってしまうのは、美人やらイケメンやらの形容表現はともかくとして、僕が『男の子』と、そしてレットが『お兄さん』と、呼称されたことだ。 

 この女性は僕らと同じか少し年上ぐらいのようだが、僕はそんなに幼く見えるのだろうか?

 僕もレットも同じ十六歳だというのに……。

 これは僕が童顔というより、レットが老けて見えるのだろう。

 バズルおじさんによく似た雄々しい面構えをしているから、母さん似の僕との対比で、余計に僕の方が幼く見えてしまうのではあるまいか?

 僕がせめて父さん似であったら……いや、これではまるで僕が母さんを否定しているかのようではないか。……僕は女々しくも小さな事で傷つき、思い悩んでいた。


 そんな僕の悩みを露ほども知らず――レットは、彼女が持つ雰囲気とは正反対の重々しい口調で、堅苦しそうな顔で話し掛ける。


「折り入ってお話があるのですが、お姉さんも含めて少しお時間よろしいですか?」


 話す内容が内容だけに暗い雰囲気なのは仕方がないが、不審すぎやしないだろうか。只でさえ無骨で威圧感を与える風貌なのだから、レットは別の方向に気を使うべきだ。


「……お姉ちゃんのことまで知ってるの? 何の用なの?」


 案の定、彼女の僕らを見る目は、不審者を見る目そのものだった。


「俺の名前はレット=ガータスと言います。……()()()()()()を持っています」

「!?……」


 レットの重苦しい雰囲気と裁定神の単語で察したのか、彼女は絶句した。

 やはり頭の回転が早い人だ。これからレットが告げる言葉も察したのだろう――


「――キミが裁定神持ちだって証明出来る? たしか裁定神持ちは相手の嘘が分かるんだよね?」


 彼女は震える声で、レットの言葉を疑うというよりは、裁定神の予知そのものを否定したいかのように問い掛ける。


「何か、虚実織り混ぜた言葉を言ってみてください」


 彼女は頷くと、レットが急かした訳でもないのに早口で言う。


「ボクは昨日、果物屋で林檎を二個とオレンジを四個買ったよ」

「昨日、というところと、林檎の数、それからオレンジ、これは違う果物ですね?」


 彼女は顔面蒼白となった――横で聞いていた僕も驚いていた。

 詳しく聞いてみたことはなかったが、そんなに高い精度で嘘が見抜けるのかと。

 ――彼女はこれから聞くであろう死亡宣告に怯えるかのように、慌てて虚実織り混ぜた話を、何度も何度も、繰り返した。

 レットはその都度辛そうにしながら、丁寧に答えを返していた。


 ……僕には、彼女もレットも泣きながら話しているように見えて、黙って見ているのも辛くなった。

 言葉を発すれば発するほどに――二人の心が削れていくように見えたのだ。

 レットはあくまでも落ち着いた口調で話の終りを告げた。


「もう、十分ではないですか? お姉さんにも会わせていただけますか? これからの対策について話す必要があると思います」

「なんの対策? これからどちらが死ぬかの話し合い?」


 彼女はレットとの問答で絶望を深めた眼で、八つ当たりするように言った。


「分かりませんが、なんとかなる可能性もあります。まずは分かっていることを話し合いましょう」


 それは裁定神について知るものが聞けば、空虚でからっぽな言葉だった。

 裁定神の予知は絶対――それ故に裁定神持ちは、死を告げる「死神」と呼ばれるのだ。


「お姉ちゃんには話さないで。お姉ちゃんなら絶対に自分が死ねばいいって言い出すから」

「……それは出来ません。……それは、公平ではないです」


 レットが絞り出した言葉は、きっと本人は意識していないであろうが――()()()()()()の言葉だった。


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