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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 露呈する加護
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六一話 悪夢の共演

 軍国を発ってから四カ月以上が経過して――ようやく帝国の街に着いた僕たちではあるが、目的地である〔帝都〕は帝国でも南寄りにある。

 まだまだ先は長いと言えるだろう。

 そしてこの街は帝国領ではあるものの、別に軍国や民国の街と比べて大きな違いがあるわけではない。


 民国で暴れ回っていた賊の影響を受けて、国境線に近いこの街でも一触即発の空気が漂っているのではないか? と危惧していたが、以前に訪れた頃と変わらない姿のままだ。

 民国の村々を手当たり次第に襲撃していくという〔戦争行為〕とも呼べるほどの暴虐ぶりだったが、この様子では帝国民はそんな事があった事実すら知らないのではないだろうか。


 やはり賊の行動に、帝国――帝王は関与していないという話は事実である可能性が高いと言えるだろう。

 少なくとも、帝国に住む人々は民国との関係悪化を自覚していない。

 ……だからこそ、民国からの旅人である僕たちに警戒心を見せていないのだ。

 

 あちらの若い女性たちなどは、興味津々な様子でこちらを見ているくらいだ。

 目が合ったので柔らかく微笑みかけてみると――甲高い喜びの声が上がる!

 うむ、警戒されているどころか大歓迎されている……!


 仲介を依頼する領主を探す必要があるので、ここでの情報収集は必須と言える。

 この歓迎ムードを利用して、そのまま情報を聞き出させてもらえれば好都合だ。

 小さく手を振ってくる女性たちへと、僕はにこやかに近付いていく。

 よし、ここはお世辞を飛ばしつつ親しげに接触してみるとしよう。


「こんにちは、可憐なお嬢さん方。これから時間――」

「――駄目だよアイス君! あの子たちは捕まえて売るには若過ぎるよ! 得意先からは二十代の女性を売ってくれって言われてたじゃん。天下の〔アイス=クーデルン〕ともあろう人が忘れちゃったの?」


 僕の華麗な誘い文句は、ルピィの無粋な言葉によってかき消された。

 しかも、道行く人々にも聞こえるように大声で、わざわざ僕のフルネームまでアピールしているではないか……!

 まるで僕を〔奴隷商人〕であるかのように喧伝するとは悪質過ぎる!


 あぁ、女性たちが顔色を変えて逃げてしまった……。

 僕は捕まえて売り捌いたりなんかしないのに。

 ……おのれルピィめ、なにが『忘れちゃったの?』だ。

 聞いたこともない話を創り上げておいて、人を健忘症扱いするとは……!


 悪いことに、女性グループばかりか街の人々も僕たちから距離を取っている。

 僕たちの外見が旅人らしき風体なのも、誤解に拍車を掛けているのだろう。

 過去に実在した奴隷商人と呼ばれる存在は、街から街へと渡り歩いて人身売買をしていたらしいのだ。 


 さらに加えて、僕たち一行の外見は悪い意味でもよく目立つ。

 全体的に容姿が整っている一団でもあるし、見上げるような長身の女性もいれば、身の丈に合わない大剣を背負った男もいる。……僕のことだ。

 いかにも尋常な集団ではない妙な雰囲気があるので、本来ならば聞き流されそうな〔奴隷商人説〕も現実味を帯びてしまっているのだろう。


 咄嗟に『レットの兄貴、ここは一旦引きやしょうぜ!』と声を掛けて、奴隷商人の元締め役を押し付けようかと思ったが……レットに怒られそうな気がしたので自制心を働かせておく。


 それでなくとも街の人に官憲を呼ばれかねない雰囲気なので、誤解を深めるような言動は慎むべきなのだ。

 それにしても……あれほど問題を起こさないようにと言い含めておいたのに、舌の根も乾かない内からこの始末だ。

 よし、たまにはビシっと言ってやろう!


「まったく、ルピィには学習するという概念が無いのかな? 仲間意識が強いのは良いことだけど、他人を全て拒絶するのは間違ってるよ。ある程度は許容することを覚えないと、結婚相手だってみつからな……っぐぇ」

「――学習してないのはアイス君でしょ? なにが『可憐なお嬢さん方』だよ、コイツめ!」


 ルピィに嫌味を言い始めた途端、最後まで言う前に言い返されてしまった。

 しかも言葉で遮られただけではなく――僕の首も締められている!

 なんてことだ、物理的にも反論が防がれているではないか……!


 馬鹿な……こんな無法が許されていいはずがない。

 たしかに禁句である〔行き遅れ〕について言及してしまったのは失敗だったが、言論の自由を物理的に奪うなどとは許されない蛮行だ。 

 正当な言い分を主張しようにも、言葉どころか呼吸まで止められているのだ!


 苦しみながらも他の仲間たちに『正義は僕にある。さぁ、立ち上がれ!』と、救出要請の視線を送ってみたが――蔑むような視線が返ってきた!

 むしろ『落ちろ!』と聞こえてくるような視線ではないか。


 ……いや、アイファだけはルピィを止めようと手を伸ばしてきている。

 なんともありがたい。

 心中で〔残念ガール〕だなんて呼んでいた事を反省するばかりだ。


 もうアイファを残念ガールなどと呼ぶわけにはいかない。

 そう、今日から君は満足ガール! 

 食いしん坊なアイファにぴったりのネーミングなので、文字通り本人も満足してくれることだろう。


 だが、ルピィの手にアイファの手が重なった直後、違和感が僕を襲う。

 これは、どういうことだ……?

 僕の勘違いじゃなければ、閉塞力が増大しているような?

 いや、これは気のせいなんかじゃない――アイファも首締めに助力している!


 まさかの()()()()()()が成立してしまうとは……器用にもルピィが気道を、アイファが頸動脈を絞めている。

 アイファはすぐに気絶してしまう頸動脈を絞めているので、長い苦痛を与えてくるルピィよりも優しく感じてしまうというマジック……!

 しかし、二人掛かりで首を締められたことのある人間など、大陸広しと言えども僕くらいのものではないだろうか……?


 だがもちろん、頸動脈を絞めているから良いという問題ではない。

 助けてくれるとばかり思っていたのに、アイファにはガッカリである。

 判決――〔満足ガール〕称号剥奪の上、〔残念ガール〕回帰とする!


 心の法廷でアイファに裁定を下していると、冤罪裁きにより僕の意識は闇に落ちてしまった――


明日も夜に投稿予定。

次回、六二話〔仕組まれた殺害計画〕

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