表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第五部 露呈する加護
177/309

五九話 お決まりの注意喚起

 民国旅立ちへ先立って、ジェイさんやロールダム兄妹だけではなくドジャルさんにも別れは告げてある。

 もちろん同様に『軍国へ遊びにきませんか?』と誘ってみたのだが、民国から軍国までは距離があるということで色よい返事はもらえていない。

 ドジャルさんはご高齢なので仕方ないといえば仕方ないことだ。

 こうなれば天寿を全うしてしまう前に、またこちらから訪ねるしかないだろう。

 もはや旅は僕の趣味になりつつあるので、多少距離があろうとも僕には苦でもないのだ。


 ――とりあえずは帝国だ。

 民国を襲った襲撃者の撃退について僕らの関与は伏せてあるので、僕たちが帝国に敵対視されていることはないはずだ。

 軍国のクーデター絡みで名前を知られている可能性は高いが、いきなり帝国軍に襲われるような事はさすがに無いと思われる。

 だが、問題を起こしがちな仲間には釘を刺しておく必要性があるだろう。


「これからいよいよ帝国に入るわけだけど、くれぐれも問題を起こさないようにしてね。とくに……フェニィとルピィ、君たちだ!!」


 我関せずとばかりにポエーっとしていたフェニィと、にやにやしながら僕の注意を聞いていたルピィだったので、つい名指しで注意してしまう。

 その横では「まったく、困った者たちだ」とアイファが上位者のような風を吹かせているが、この二人と比較したらマシとはいえ、アイファも問題児である事を忘れてはいけない。


 つい先日にもアイファは海で溺れかけていたというのに、よくこれほど偉そうな態度が取れるものである。

 それに本人の自覚は希薄だが、アイファも普段からコツコツと〔問題ポイント〕を稼ぎ続けている。

 このまま累積ポイントを重ねていけばランキング入りも夢ではないだろう。

 だがそれでも……〔殿堂入り〕の二人と比べたら可愛いものであることは事実なので、僕がアイファを注意することには至らない。


「――ちょっと、アイス君にだけは言われたくないよ!」


 そう、この二人は年間問題児ランキングに殿堂入りしている自覚が希薄どころか、トラブルを起こしている自覚自体が皆無なのだ。

 やれやれ……ぶすっと不満げに僕を見ているフェニィといい、困った人たちだ。


 しかもルピィに至っては、トラブルの火消し役として活躍している僕に責任をなすりつける始末である。

 こうなれば、さすがの僕とて黙ってはいられない。


「おやおや、忘れたのかな? 帝国の襲撃者たちを倒したのはいいけど、ちゃっかり所持金を奪っていたのはどこのルピィさんだったかな?」


 そうなのだ。

 ルピィときたら襲撃者たちの懐の物をコッソリ着服していたのである。

 賊に襲撃された被害者がほとんど生き残っていないとはいえ――僕たちは民国から〔礼金〕を受け取っているにも関わらずだ。


 これがジェイさんの私財となれば受け取るのにも抵抗があったが、民国政府からのお金なら遠慮はいらないのでしっかり受領したのだ。

 帝国に損害賠償金の支払いを迫る予定とも聞いているので、間接的には帝国から頂戴したお金とも言えるだろう。


 ただでさえ路銀に不自由していた僕らにとっては渡りに船だ。

 だが民国から報酬を受け取っているのに、ちゃっかりとルピィは賊から金目の物を頂戴していたのだから、寛大な僕とて文句の一つも言いたくなるというものだ。


「盗賊の所持品を奪うのは討伐者の権利じゃん! だいたい、アイス君なんか民国からの礼金を吊り上げてたじゃないの。――しかもそのお金を〔女の子へのプレゼント代〕に使ってるんだから言語道断だよ!」


 うっ……ちょっと痛いところを突かれてしまった。

 だがもちろん僕の方にも言い分はある。


 そもそも、最初に民国から貰った礼金が非常識なほどに少なかったのだ。

 仮にも民国の存亡を救ったとも言える僕たちに対して〔食事代程度の金一封〕となれば、パーティーの代表者である僕としては黙っているわけにはいかない。


 この少額である礼金の背景には、過去の神獣討伐時に僕らが報酬を固辞していたことも関係しているのだろう。

 金に執着していない連中みたいだから高額の礼金を渡す必要もないだろう、というわけだ。


 しかし、前回と今回とでは事情が違う。

 前回は神獣の売却利益があったが、今回はそんな副収入はない。

 ……後日になってルピィが着服していたと聞かされたが。


 しかも民国を訪れる前からお金に困っていた僕たちだ。

 正当な対価を要求することは至極当然のことだろう――


『いやぁ、それにしても手強い賊たちだった。なにしろ連中には九人も神持ちがいたもんね! ――ルピィ、首の怪我は大丈夫?』

『う〜ん、むち打ちになっちゃってるよ。コレは後遺症になるかもしれないなぁ……」

『なんだって! でも、ゴメンねルピィ……僕にはお金が無いんだ。民国政府から礼金は貰っているけど、一食分の代金を払ったら無くなってしまうんだよ……!』


 などと、政府要人の前で寸劇をやってしまうのも当然……!

 ルピィも面白がって合わせてくれていたのに、今更になって僕だけを悪者にしようとは言語道断だ!

 そもそも賊の最終目的が僕とセレンだったらしいので、民国が襲われたのは間接的に僕たちのせいなのだが……それはそれだ。


 そして、ルピィが言及している〔女の子へのプレゼント〕とは、アイファにあげた指輪のことだ。

 以前から気になってはいたのだ。

 僕も仲間たちも、全員がお揃いの魔晶石グッズを持っていたのに、アイファだけが持っていなかったのである。


 本来ならば仲間に加入した時点でプレゼントしたいところだったが……如何(いかん)せん、魔晶石は高額だ。

 アイファにだけ模造品をあげることも考えたが、さすがに差別するような真似は出来なかったのだ。

 そして今回、民国からの礼金という大金が転がり込んできたので、ようやくアイファに魔晶石の指輪を贈ることが出来たわけである。


 ちなみに礼金の金額が跳ね上がったのは、僕の交渉術のおかげというよりはジェイさんの猛烈な抗議のおかげだろう。

 民国の英雄が一声上げただけで、こちらが恐縮するほどの金額に様変わりしてしまったのだ。……あまりにも多すぎたので減額してもらったくらいだ。


 しかし、手に入った大金ですぐに指輪を買って渡すのでは味がない。

 アイファを驚かせる為に、こっそりと指のサイズを測り、こっそりと指輪を購入しておいたのだが……苦労しただけの甲斐はあった。


 せっかくのお祝い事なので――サプライズパーティーを開催して、宴もたけなわのタイミングで購入した指輪を嵌めてあげたのだ。

 小粋な演出のおかげか、アイファは真っ赤な顔をして涙を浮かべながら喜んでくれたのである。

 わざわざ巨大なケーキまで用意した甲斐があったというものだ。


 ――しかしそれで丸く収まらないのが僕の仲間たちだ。

 自分たちも同じ物を持っているにも関わらず、隣の芝生が青く見えてしまって妬ましくなったのだろう。

 あからさまに不機嫌になって不平不満のオンパレードだ。


『またアイファちゃんだけ贔屓してる!』

『にぃさまはアイファさんが殊更お気に入りのようですね』


 などなど、集中砲火の有り様だ。

 ようやく落ち着いてくれたと思ったら、こうして『民国から巻き上げたお金で女の子にプレゼントしている』などと人聞きの悪いことを言ってくるわけだ。

 公平に、魔晶石の値段も皆と同じくらいの物を選んだというのに。


 そんな事を思考しながらアイファの指輪をぼんやり見ていると、アイファは何を勘違いしたのか――サッと指輪を僕の視界から隠す!

 こやつめ、僕が一度贈った物を奪うような人間だと思っているのか……!


 ……いや、ここはポジティブに考えるべきだろう。

 それだけ僕の贈った指輪を失いがたいと思ってくれているという事だ。

 そう、僕の人間性に疑念を持たれているわけではないのだ……!


 だが、それはともかくとして――この場でしっかりとルピィたちが問題児であることを自覚させておくことを諦めてはいけない。

 このまま手をこまねいていれば、またルピィたちが帝国で問題行動を起こしてしまうことは必至だ。

 そうなれば帝王との話し合いどころではない。


 そんなわけで――恒例の如く僕とルピィが言い争いをしていると、いつものように争いを見過ごせないレットが仲裁に入ってきた。


「不毛な争いはやめろよ……。だいたい二人とも似たようなもんだろうが」 


 保護者のような立場で苦言を(てい)するレット。

 しかしそんな言葉を聞いて、僕とルピィが大人しく黙っているはずもない。


「聞きましたかルピィさん? レットときたら、ちょっとカード化されたからって僕らを下にみていますよ?」

「聞いちゃったよアイス君。レット君は変わっちゃったなぁ……昔のレット君ならこんな事は言わなかったよ。売れっ子になると性格が変わるってのは本当だねぇ」


 すかさず連携してレットを攻める僕たち。

 共通の敵を見つけようものなら諍いを水に流して共闘することは当然だ……!


「……勝手にカード化しといて何言ってやがる。いつもいつもこんな時だけ結託するんじゃねぇよ」


 しかめっ面のレットではあるが、これは怒っているわけではないのだ。

 この予定調和的な〔和解劇〕に付き合わされることを面倒がっているだけだ。

 そう、僕とルピィの論戦は――いつもレットの介入を待っている節があるのだ……!


 定められたルーチンワークのようにレットを攻めた後は、やはりお約束のように仲直りの握手をする僕たち。

 もちろん、嫌がるレットとも握手だ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、六十話〔帝王への道〕

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ