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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 吹き荒れる嵐
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五七話 予見のカード

 僕が輝かしい未来を夢想してご満悦になっていると、複雑そうな顔をしたレットが口を開く。


「アイス、お前は…………いや、もういい。こうなったらもう、俺のだけじゃなくて〔アイスのカード〕も出せよな」


 開き直った顔になったレットが妙なことを言い出した。

 ふむ……レットにはシャイなところがあるので、僕も巻き添えにして気恥ずかしさを紛らわせようという訳なのだろう。


「いやいや、僕のカードなんか発売したところで売れるわけ……」

「――いいね! ボクも協力してあげようじゃないの!!」


 僕が否定しかけたところで、面白いことが大好きなルピィが口を挟んできた。

 恩着せがましくも『協力してあげよう』などと言っているが、これがルピィの趣味である事は疑う余地もない。


「待ってよルピィ。採算が見込めないような代物を商会が受けるわけないじゃないか。それに、僕がモデルでは絵師だって引き受けてくれないよ?」


 裁定神カードは売れる要素があったからこそ、利に(さと)い商会も意欲的だった。

 だが、僕なんかをカード化したところで売れるとは思えない。

 商会にカード化を提案しても困らせてしまうことになるだけだ。


 絵師にしたところで、大コケしてキャリアに泥を塗るようなリスクを負いたくはないだろう。

 ……ここでちゃんと念を押して否定しておかないと、ルピィならばゴリ押しで商品化を実現させる恐れがあるのだ。


「大丈夫大丈夫、絶対売れるから。それに絵師だって――アイス君が自分で描けばいいじゃん!」


 ルピィは何を言っているのか……。

 自画像を描いてカード化して販売するなんて、『自分大好きっ!』という感じで痛々しいではないか……。

 僕はそんなナルシストではないぞ……!


 しかし、僕のそんな思いを置いてきぼりにして仲間たちは乗り気になっている。

 どんな図案が良いかなどと、あれでもこれでもないと話し合っているのだ。


「やっぱ、〔(はりつけ)にされてるアイス君〕と〔首を吊ってるアイス君〕は外せないね!」


 ルピィが悪意に満ち溢れた提案をしている。

 なぜ裁かれたり自殺したりしている事が前提になっているのだ……。

 そしてなにより――なにが楽しくて自分が磔にされている絵など描かねばならないのか!


 というか、首吊りは先日リアルに体験させられている……。

 あれは思い出すだけで気が遠くなるような酷い体験だった。

 僕が空術を使えたから今も生きているようなものである。


 いや、待てよ……もしかしたら、将来的に僕を〔磔〕にする予定でもあるのかもしれない。

 裁定神カードの絵へとレットに合わせてもらったように、僕にも同じ事をやる気ではないだろうか?

 ……考えれば考えるほどにありえる話だ。


 お仕置きの度にカードのデッキから一枚引いて――『はい、今回のお仕置きは〔火炙り〕に決定っー!』などと恐ろしい事をやるつもりなのかもしれない。

『今回のお仕置き』どころか、次回まで生命が残っている気がしないぞ……。

 ルピィがメモ帳に皆の意見を書き留めているが、ちらりと見ただけでも拷問の羅列にしか見えないのが恐ろしい。


 いや、よくよく観察してみるとルピィは皆の意見をメモっているように見せかけて、勝手に独自のアレンジを加えているではないか。

 フェニィが『料理をしているアイス』と言っているのに、〔釜茹でにされてるアイス君〕などと書いている…………僕が料理されてるじゃないか!


 仲間たちもルピィの悪改変には気が付いているのに、『これはこれでアリ』みたいな様子で自然に受け入れてしまっているのが問題だ。

 いけないな……これをこのまま放置するのは危険過ぎる。

 この段階で軌道修正を図っておかないと、将来の僕に災いが降りかかることは間違いない。


「あ、あんまり過激すぎる内容は万人受けしないんじゃないかな? ――そうだ、カナさんは何かアイデアありますか?」


 やんわりと(いさ)めつつ、この中でも僕よりの立ち位置にいるカナさんに話を振る。

 この人ならば、無体な意見も出さないはずだろうと見込んでのことだ。

 裁定神カードを感心しながら見ていたカナさんだったが、僕に話を振られると溢れるような笑みを浮かべながら意見を出す。


「はいアイス様。私は〔全身が光り輝いているアイス様〕の絵が良いと思います!」


 くっ……意味が分からないぞ!

 一体僕の身体はどうなってしまっているんだ……!

 冗談を言っているのかと思ったが、輝くような笑顔のカナさんを見る限りでは真面目に言っているらしい。


 困って視線を回すと――兄のナンさんも妹に同調するように頷いている!

 神持ちだけあって、感性が常人とはズレているということか……。

 うぅっ……カナさんが僕の反応に期待するような眼で見詰めている。

 こんな純粋な眼で見られてしまったら、否定することなど出来るはずもない……!


「――シャイン! 暗い夜道も安心ですね!」


 謎の感嘆詞を発してカナさんを褒める僕。

 夜道を歩いていて〔全身が発光している男〕と出会ったら恐怖に襲われるとは思うのだが、細かい事を考えてはいけない……!


 称賛を受けたカナさんは天にも昇るような笑顔を浮かべているのだ。

 ……この笑顔を曇らせるわけにはいかないだろう。

 ナンさんも『ロールダム家の誉れ!』と、聞こえてきそうな誇らしい顔で妹を見守っているから尚更だ。


 しかしこの二人は、僕を崇敬しすぎではないだろうか?

 僕はそれほど大層な人間ではないので、申し訳ない気持ちになってしまう。

 もう少しルピィを見習ってくれても…………いや、駄目だ。


 ルピィは上機嫌に「いいね、やるじゃん!」とカナさんを褒めているが、あの二人の笑顔の質は別物だ。

 ルピィが笑顔なのは、カナさんが無自覚に僕を困らせていることが愉快でたまらないからなのだ……!

 もう僕としては、兄妹の期待を裏切らないように振る舞うしかないだろう……。


明日の投稿分で第四部は終了となります。

次回、五八話〔惜しまれる旅立ち〕

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