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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第四部 吹き荒れる嵐
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五四話 波乱万丈の海

 そして魔獣討伐大会は始まり――――海は荒れた。

 ジェイさんが巨大な竜巻で海水を巻き上げたかと思えば、ルピィが竜巻に捕らわれた魔獣を横取りして退治していく。

 フェニィが海を断ち割るような斬撃を放てば、巻き込まれかけたレットが決死の勢いで回避する。

 泳げないロールダム兄妹は浅瀬で着実に魔獣を仕留めていたし、無鉄砲なアイファは重い槍を持ったまま海に突撃していき――海の中へと消えていった。


 ……って、アイファが浮いてこないではないか!

 これはいけない。

 間違いなくアイファは溺れている……!


 こんな事態を予測していた僕はすぐさま救出に動く――ライフセーバー、出動!

 案の定というべきか、アイファが消えた海中へ潜ってみると、海底でゴボゴボ空気を吐き出し続けている要救助者を発見してしまった……!


 なぜ重い槍を手放そうとしないのか、なぜ槍を持ったまま海水に浸かるという武器に優しくないことをしているのか、僕の疑問は尽きる事がない。

 しかしそれはともかく、頑なに槍を放そうとしないアイファから槍をもぎ取る。

 そしてパニックになっているアイファを抱え上げて、僕は海面へと浮上した。


「大丈夫、アイファ?」

「っ、ごほごほっ……あ、ありがとうアイス。水が、しょっぱかったんだ……」


 謎の言い訳をするアイファ。

 海水が塩辛いことに驚いて混乱してしまったのだろうか……?

 本当に……幼い子供のように放っておけない子だ。

 僕はアイファを抱きかかえつつ、優しく微笑みながら優しい提案をする。


「アイファには後で泳ぎを教えてあけるから、しばらく砂浜で休んでるといいよ。マカたちの遊びに混ぜてもらうのも面白そうだよ?」

「う、うむ。そうしよう」


 失態を晒したことを恥じているのか、アイファは身体まで赤く染め上げながら素直な返事を返してくれた。

 そんな具合に僕がアイファを甘やかしていると……他人がエコ贔屓されることを許せないあの人が黙っているわけもない。


「アイス君さぁ……アイファちゃんには甘くない?」


 もちろんルピィ先生だ。

 おそらくは、ルピィも溺れているアイファを救けに来ていたのだろう。

〔入水自殺〕にしか見えないような前代未聞の溺れかたをしていたアイファだ。

 異変を察する要素は少なかったはずなのだが、さすがのルピィと言える。

 暑い日差しに負けないルピィの冷たい声に冷静になったのか、アイファが慌てて僕から距離を取る。


 ふむ……救けそびれたのとエコ贔屓されていたのとで相乗効果を生んでいるのだろう、ルピィの機嫌はよろしくないようだ。

 ここは弁明しておいた方がいいだろう。


「ルピィも同じ平……平和。そ、そう、平和を守るものとして分かるだろ? アイファを見てると不安になるというか……ほら、守ってあげたくなるってことさ」


 危ない危ない……もう少しで『同じ平原の民のことなんだから分かるだろ?』などと失言するところだった。

 昨晩の恨みが無意識に暴言へと舵を切ってしまったのだろう。

 そんな言葉を口に出してしまったら僕が溺死体にされてしまう。


 しかし咄嗟に誤魔化したが、我ながら中々悪くない切り替えだ。

 さっきまで溺れていたアイファが「私はそれほど脆弱ではないぞ!」などと赤い顔で反論しているが、もちろん説得力は皆無である。


「……最初に言い掛けていた言葉が気になるなぁ。――()()()()()()()()()()とか言おうとしてたんじゃないよね?」


 うぐっ、鋭い!

 細部は違うがほぼ核心を突いている……!

 相変わらず恐ろしい勘の冴えではないか。

 まずい……ルピィが僕の反応を見極めるような冷たい眼で観察している。


「そ、そ、それよりルピィ、魔獣討伐はいいのかな? このままだとセレンに負けちゃうよ?」


 ここは矛先を逸すしかない……!

 負けず嫌いのルピィならば、この発言は聞き捨てならないことだろう。


 実際、セレンは破竹の勢いで魔獣を狩っているのだ。

 あれでセレンも負けず嫌いなところがあるとはいえ、珍しく今回は〔優勝〕に拘っているらしい。

 なにしろセレンの攻撃対象は魔獣だけに留まっていない。


 魔獣ばかりか――普通の魚や、()()()にまで攻撃しているのだ……!

 沖に佇むセレンの周囲では、魔獣や魚だけではなく〔頭を押さえたレット〕も海面に浮いているのである。


 これはおそらく、禁じ手である〔衝撃漁法〕をやってしまったに違いない。

 石と石をぶつけて衝撃波で魚を気絶させる〔石打漁法〕と原理は同じで、セレンの魔力を籠めた手で「パン!」と柏手でも打てば同じ結果になる。


 石打漁法と同じく生態系を破壊する恐れがあるので、セレンには使わないようにと禁止していたのだが……勝つ為には手段を選ばないということか。

 そして気の毒にも、レットはセレンの近くを泳いでいたのだろう。

 気を失ってはいないようだが、頭痛に苦しんでいるように頭を抱えているのだ。

 うむ……あとで僕が頭部マッサージをしてあげることにしよう。


 ――そんなセレンの圧倒的な活躍ぶりを見たルピィは「アイス君をとっちめるのは後にしとくよ!」と、不吉な捨て台詞を残して慌てて沖に泳いでいった。

 僕はとっちめられるような事を何もしていないのに……!

 まったく……アイファが〔守ってあげたくなる子〕なら、ルピィは〔自分の身を守りたくなる人〕と言えるだろう。


 さて、僕もこうしてはいられない。

 討伐大会で僕が優勝する事は決まっているが、手を抜くわけにはいかない。

 皆が全力で事に当たる以上、僕も全力で迎え撃つのが礼儀だろう――


明日も夜に投稿予定。

次回、五五話〔決着する海〕

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