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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 悪夢の終わり
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三三話 掴まれた運命

 月明かりのみが照らす薄暗い廊下。

 僕たち四人は足音を殺して歩いていた。

 しかし僕やフェニィはともかく、姉妹たちの隠密技術は低い。

 僕が姉妹たちに稽古をつけ始めて二週間が経っているが、さすがにそれだけの短期間では隠密技術まで鍛えるのは難しいのだ。


 そもそも二人の加護は、棒神に杖神だ。

 どちらも武器系の神持ちなので、隠密行動にまで適性を求めるのは贅沢と言うものだろう。

 だが隠密技術は低くとも、戦闘系の神持ちを集中的に鍛えたのだ。

 その戦闘能力の向上は目覚ましいものがある。


 何を隠そう、アイファたち三人を無手で相手どるのが厳しくなってきたぐらいだ。……恨みを晴らしてやるとばかりに袋叩きにされる前には、教国を旅立つことにしよう。

 それも今夜を乗り切ってからの話になるわけだが、今夜の襲撃について僕は全く心配していない。

 刻限が近付けば近付くほど、僕の中にある確信が深まっていくのを感じている。


 今夜姉妹が、()()()()()()()()()()()()()、と。

 僕の想像でしかないのだが、裁定神の予知夢を覆すには〔裁定神より強い影響力を持つ存在〕が介入する必要があると僕は考えている。


 武神に代表されるように、神付きの加護にも〔格〕が存在する。

 つまり、裁定神より上位の神付きならば、裁定神の予知夢を容易く消し飛ばせるのではないか、という推論を立てているのだ。

 極端な話をしてしまえば、盗神のルピィや炎神のフェニィならば、一人でも裁定神の予知夢に抗うことが可能だと思っている。


 神持ちではない僕一人でもなんとかなる気がしているのだが、わざわざ僕一人で挑戦するようなリスクの高いことはしない。

 神持ちの格についての判断を単純に〔希少性〕で考えるならば、僕らのパーティーには珍しい技能系から魔術系まで揃い踏みなのだ。

 全員でことに当たれば、失敗する未来など存在しないはずだ。 


 ――しばらく廊下を歩き続けている内に、僕は違和感を覚え始めていた。

 物音が一切聞こえてこないのだ。

 こちら側には気配を殺せていない姉妹がいるので、諜報系の神持ちである侵入者が気付かないはずがない。


 当初の計画では、僕たちの存在に侵入者が警戒して退いたところを、反対の通路から迫っているセレンたちが叩く予定だったのである。

 つまり侵入者は、僕らの存在を把握していながら逃げるようなこともなく、不遜にもこちらを討ち取るつもりでいるらしい。


 神持ちらしい傲慢さとも言えるので、これはこれで自然な流れなのだろう。

 しかしこちらには、僕だけではなくフェニィもいるのだ。

 遠距離から近距離まで、こと闘いにおいては高い万能性を発揮する、戦闘のスペシャリストたるフェニィ先生だ。

 もちろん僕も敵の即殺を目指すつもりなので、フェニィばかりにやらせるつもりはない。

 今回はどちらが殺るかの奪い合いとなるぐらいだろう。


 聖女の部屋が視界に入ったが――まだ侵入者の姿が視認出来なかった。

 これは明らかにおかしい。

 聖女の部屋は、分岐路の無い廊下の半ばに存在する。

 背後をセレンたちが埋めている以上、どこかで遭遇していないと不自然なのだ。


 そして聖女の部屋に近付くにつれて、僕は強烈な違和感に襲われていた。

 ……何かがいる。

 わずかな気配が部屋の周囲から漂っている。

 自身の姿を消す術?

 …………違う、〔天井〕!


 その男は、廊下の()()()()()()()()

 天井は平坦で掴むようなところも無いのだが、男は重力に反しているような体勢で――天井に座って僕らの様子を窺っていたのだ。

 そして僕が視線を向けた瞬間、男は動いた。

 シュッと腕を振るい、銀の光を放ったのだ。 


 ――――姉妹の運命が変わった瞬間があるとすれば、それは()()()()だろう。

 その銀の光――いや〔銀の長針〕は、男の存在に気付いた僕ではなく、一直線にロージィへと向かった。


 そして次の瞬間には、僕の手に〔銀の長針〕と〔漆黒の長針〕の()()が収まっていた。……そう、一本ではない。

 目立つ銀の長針と、闇に紛れて見えない漆黒の長針が投擲されていたのだ。

 銀の長針はカモフラージュというわけだろう。


 そしてその漆黒の長針は、姉のルージィを標的としていた。

 僕やフェニィが狙われずに姉妹が狙われたのは、与し易いところから潰しておきたかったのかもしれないが……僕はそこに〔死の強制力〕のようなものを感じた。


 だが、それもここで終わりだ。

 本当なら敵が動く前には終わらせたかったが、もう詰みの段階に入っている。

 男が長針を投擲すると同時――フェニィが飛び上がっているのだ。


 襲撃者は、自分の攻撃が防がれた事を知覚する暇も無かったことだろう。

 なにしろ投擲から一秒も経たない内に――自分の首が飛んでいるのだ……!

 襲撃者に息つく間も与えず、フェニィの魔爪術が首を刈り取ったのだ。


 しかし相変わらずだが……フェニィの驚異的な身体能力に加えて、魔力に比例して切れ味が増す魔爪術は相性が良すぎる。

 実に鮮やかな仕事である。

 僕の出番がまるで無かったではないか。


「さすがはフェニィだね、ナイスカット!」


 玉蹴り中のパスカットを称賛するような塩梅(あんばい)になってしまったが、フェニィは「そうだろう!」という満足そうな顔をしているので良しとしよう。

 天井から生首が降ってきたので姉妹が悲鳴を上げているが、無事に済んだのでこちらも良しとしよう……!


 だが……首を落としたのに、男の身体が天井に張り付いたまま落ちてこない。

 これはどんな原理になっているのだろう……?

 一見して諜報系の神持ちであることは確認出来たが、襲撃者の加護までは判別できなかったのだ。


 どうやら男の死体は固有の術で天井にくっついているらしい。

 ふむ。寿命を迎えたセミのように、そのうちポトリと落ちてくるのだろうか。

 だが一応は死体を回収しておくべきだろう、と僕が空術で浮かび上がって男の死体を引き剥がそうと試みるが……剥がせない!


 なんなのだ、この頑固な油汚れのような死体は……!

 なにしろ僕が死体にぶら下がってもビクともしないのである。


 いや、待てよ。

 ここは思い切って〔懸垂マシーン〕として残しておくのもアリではないか……?

 よくよく考えてみれば視界に入らないので目障りでも無いし、仮に見つけたとしても変わったオブジェのように見えなくもない。


 ……正直に言ってしまえば、死体を回収するのが面倒になってきたのだ。

 うむ、実害も無いことだ。

 落ちてくるまで放置しておこうかな。


 ――――いやいや、やっぱり駄目だ!

 ここはケアリィの部屋の前なのだ。

 突然、ケアリィの目の前に首無し死体が落下してきたら――ケアリィを驚かせてしまうかもしれない……!


あと二話で第二部は終了となります。

明日も夜に投稿予定。

次回、三四話〔正しき適材適所〕

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