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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 悪夢の終わり
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二八話 操りの殺害計画

 すごすごとセレンたちの方へ戻る間、なにやら仲間たちから白い目で見られている気がしてしまう。

 いや、これは被害妄想だ。

 仲間たちが僕をイジメるわけ…………ない!

 そう、ルピィたちなら持って回った陰湿なやり方はしない。

 堂々と陽気に、殴る蹴るの直接的なイジメをするはずなのだ!


 僕がセレンたちの元へと帰還すると、顔を真っ赤にして息を切らしていたアイファが僕の顔に焦点を合わせた。

 アイファとルージィちゃんは、すぐに顔が赤くなってしまうことも含めて、実によく似ている師弟だと言えるだろう。

 というか、アイファはさっき冷やしてあげたはずなのに、なぜこんなにも顔が赤くなっているのか?


「き、貴様、私だけでは飽き足らずルージィにまで! ――いや、それよりも先程の冷たい風はなんだ!?」


 僕がルージィちゃんに拒絶されている光景に、アイファも何か思うところがあったらしい。

 しかし僕にはアイファをからかっている自覚はあるが、ルージィちゃんまでからかった覚えは無いのだが……なぜあんな態度を取られてしまうのだろう。


 いや、いかん。

 追い払われた事を想起すると落ち込んでしまう。

 とりあえず悲しい記憶には蓋をして、アイファの疑問に答えてあげるとしよう。


「うん。あれは風術と凍術の同時発動だね。難易度が高いわりに使い道が無いのがネックなん……」

「――待て待て! 凍術は〔凍の加護持ち〕しか使えないはずだろう! まさか貴様、また嘘を吐いていたのか!?」


 僕の苦労話の最中だったが、聞き捨てならんとばかりにアイファに糾弾されてしまった。

 まったく、『また嘘を吐いていた』とは失礼な話だ。

 きっと不可抗力で再会の約束を果たせなかったことが尾を引いているのだろう。

 僕がアイファを騙したことなんて……あとは偽名を名乗っていたことぐらいじゃないか!


「やれやれ……治癒術で怪我を治してあげたのを忘れたのかい? 僕は〔治癒の加護持ち〕だけど凍術も使えるというだけのことだよ」


 目で直接見た方が早いだろうということで、僕はポケットに入っていた小石をピキッと氷漬けにしてみた。

「なっ!?」と、それを見たアイファは言葉を失ってフリーズしてしまった。

 なにやら他所からも驚きの声が聞こえたかと思えば、護衛の姉妹も氷漬けの石を見て唖然としている。


 ふむ。この姉妹もアイファに負けず劣らずな世間知らずであるようなので、凍術が珍しいのだろう。

 世間知らずの親玉であるケアリィは、僕の凍術など気にも留めていないが。

 レットに夢中になっているので、凍術を使えようが使えまいがお構いなしだ。

 ……しかしあの笑顔を僕にも少し分けてほしいものである。


「――にゃん!」


 僕が不平等な世の中に思いを馳せていると、マカの鳴き声で目を覚まされた。

 マカは尻尾でベッドをバシッと叩いて、僕への不満を訴えている。

 ……しかしマカが不機嫌になるのも当然だ。

 マカの体毛を乾燥させている途中でそのまま放置していたのだ。


 まだ僕の手首は折れたままではあるが、それは僕個人の事情でありマカには関係が無いことなのだ。

 僕は「ごめんね」と謝りつつ、まだ湿っている白毛を乾燥させていく。

 もちろん、マカを撫でながら機嫌を取るのも忘れない。


「待て待て待て! ……アイスが本当の事を言っているのは、百歩譲って良しとしよう。しかし、何故それほどの技術をそんなくだらない事に使っているのだ!」


 むむっ、マカの濡れた体毛を乾燥させることがくだらないとは……!

 僕が反論しようと口を開きかけると、意外なところからアイファの援護射撃が飛んできた。

 ――まさかのセレンだ。


「アイファさんの言う通りです。その畜生は処分すべきでしょう」


 ひどいっ……!

 何が『言う通り』なんだ!

 アイファは処分だなんて一言も口にしていないじゃないか……!

 本当にセレンは、隙あらば殺処分しようとしてしまうから困ったものだ。


 しかもセレンは安っぽい脅しをかけるような子ではない。

 たとえ冗談でも僕が処分に同意してしまおうものなら、訂正する暇も与えずにマカを殺害してしまう事は間違いないのだ。

 セレンが何度も処分申告を出す背景には、僕がうっかり失言してしまうのを待ち構えているという裏事情が存在するのである。

 ……もちろん僕は油断などしないが。


 アイファはセレンが味方してくれた事が嬉しいのだろう、「ふふん」と得意げな顔をして、自分が過激思想の持ち主にされた事に気が付いていない。

 ――そしてこの混迷とした事態。

 混乱に拍車をかけるのが大好きなあの人が、この状況下で黙って見ているわけもなかった。


「ほらアイファちゃん。あの猫、撫でられて恍惚とした顔をしてるでしょ? アイツはアイス君に媚びを売って、その寵愛を一身に受けているんだよ? ――アイファちゃんの分も独り占めにしてるんだよ?」

「私の分も……!」


 ルピィがワケの分からない事を吹き込んでいる!

 本当の本当に何を言っているんだ……!? 

〔アイファの分も独り占め〕の意味が分からないぞ……!


 そしてなぜ、アイファはその事に対して憤りを感じているのだ。

 ……いや、きっとアイファは純朴な子なので意味不明ながらも雰囲気に流されているに違いない。


「アイツはね、毎日アイス君とお風呂に入って身体を洗ってもらってるんだよ? 夜は同じベッドで抱き締めてもらいながら寝てるんだよ? ――ほら、アイファちゃん。その槍は何をする為のものなのかな?」

「…………アイツを殺す為のものだ!」


 アイファが洗脳されている!

 ビックリするくらいに容易く乗せられているではないか……!

 そして論理の飛躍がまるで理解できない……どこをどうすればお風呂や寝る話から『殺す!』に繋がるのだ。


 アイファの思考回路の謎ぶりも驚きだが、それを上手く思考誘導しているルピィがなにより恐ろしい。

 というか――僕らのパーティーメンバーの事情を考えれば、〔洗脳〕とか一番アウトなやつじゃないか……!


 ――――。


 幸い、レットが間に入ってくれたおかげでマカへの凶刃は防がれた。

 厳密に言えば、レットにくっついてきたケアリィの叱責により、荒ぶっていたアイファが冷静になったのだ。

 アイファを脅威に感じていないのか、最初から最後までマカに危機感は無かったのだが――こうして、新たな殺害計画は終わりを迎えた。


明日も夜に投稿予定。

次回、二九話〔早朝の決起会〕

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