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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第二部 悪夢の終わり
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二一話 広がっているデマ

 迷惑にも店内で暴れていたアイファだったが……ひとしきり暴れて冷静になった彼女が漏らしたのは意外な感想だった。


「しかしそうか、やはり貴様があの〔アイス=クーデルン〕だったか……」


 そう、アイファは僕の正体に見当をつけていたようなのだ。

 ……率直に言って意外だ。

 アイファは他国情勢に興味を持ちそうには見えないのである。

 そこでその疑問を、直接アイファにぶつけてみることにした。


「アイファが知っているなんて思わなかったよ。アイファもケアリィも、他国の政変に興味を持ちそうなタイプじゃないからね」

「アイスが軍国で大仕事をするから仲間を探していると言っていただろう。……そ、それに四囲の国の情報を集めておくのは、聖女様の護衛として当然の事だからな」


 僕の事を気に掛けてくれていたのが嬉しくて、つい笑顔になってしまうと――アイファはワタワタしながら取ってつけたような言い訳を付け加えた。

 別に照れずとも良いのに、相変わらずアイファは照れ屋だなぁ……。

 僕が微笑ましい思いで見守っていると――アイファはさらに言い訳を重ねる。


「そ、それにだ。聖女様もレット=ガータスの動向を気に掛けておられたのだ。教国から多くの人間を送り込んで軍国の内情を調べていたのだぞ? ――その過程で、傍らにいるアイスの名前が挙がったのだ」


 おや、この子は雇い主のせいにしだしたぞ……と思ったが、信憑性のある話だ。

 レットにご執心のケアリィならば、完全な私事で教国の人間を送り込むぐらいの事はやりかねない。

 そしてこの国家ぐるみと言えるストーキング行為のおまけで〔アイス=クーデルン〕の名前も浮かんできたのだろう。


 軍国のレット=ガータスと一緒に行動しているアイス=クーデルン。

 そこまで情報が集まれば、いくら鈍いところがあるアイファでも『あいつ、もしかしたら?』と、さすがに気が付いたという事だろう。

 ……そのわりには偽名を名乗っていた事への怒りが大きかったのだが。


「――もっともアイスの名前に関しては、調べるまでもなく教国の市井(しせい)の間でも噂になっていたがな。笑顔で敵をミンチにする優男、アイス=クーデルン。戦争末期には闘うまでもなく、恐れをなした兵士たちが次々に投降していったと聞いている」


 な、なんだそれはっ!?

 酷いデマじゃないか……!

 ミンチにしていたのはジーレ――そう、ミンチはジーレだ!

 それに厳密に言えば、ジーレがミンチにしていたのは敵兵士ではなく味方だ。

 いや、スパイがほとんどだったから敵のようなものか……?


 とにかく、なんで僕がそんな残虐行為をやった事になっているのだ。

 ――まさか、ナスルさんによる情報操作だろうか?

 自分の娘による悪行を誤魔化す為に、僕に冤罪を被せたのでは?

 あの親バカなナスルさんならやりかねないぞ……。


 話を聞いて爆笑しているルピィも、デマ発信源の有力候補だ。

 ルピィなら、面白半分で僕の評判を貶めるような事は平気でやるはずだ。

 なんてことだ……僕の周囲には悪意が渦巻いているではないか!


 しかも〔兵士たちを投降させた〕という事実が散りばめられているのが厄介だ。

 実際には真心を込めた説得で投降させたのに、デマに一握りの真実が混じっているせいで真実味が増してしまっている。

 純真なアイファが流言を自然に受け入れているので、ここはしっかりと否定しておくべきだろう。


「怪しい噂を軽々しく信じてはいけないよ。アイファはまず人を疑うことから覚えるべきだね」


 ……おや、どうしたのだろう? 

 なぜだかアイファは納得と憤りが混じったような顔をしている。

 いや、この際それはどうでもいい。


 そろそろ、やるべき事をやらなくてはいけない。

 そう――僕の仲間をアイファに紹介するのだ。

 なにしろ未だにアイファへ仲間を紹介していない状態である。

 騒ぎん坊なアイファが騒ぎっ放しだったので、落ち着いて話をする切っ掛けが無かったのだ。


 そもそも同じテーブルにフェニィとセレンが座っているのに、アイファがまったく心を向けていないのはどうなのだろう……?

 アイファには天然なところがあるので、『たまたま他人が相席しているだけだろう』などと、本気で思っていそうなのが恐ろしい。

 僕が明らかに目立つ〔大剣〕を背負っていても一言も言及していないくらいだ。

 ……これは自然に受け入れているというよりは、反応からすると純粋に〔気が付いていない〕という線が濃厚なのである。 


「アイファ、それより僕の仲間を紹介するよ。こちらはフェニィ、見ての通り背が高くて、しかも強くてとっても頼りになるんだ。最近は料理も練習しているんだけど、こっちの上達も目を見張るほどに早いんだよ。まさに理想のお嫁さんだね!」


 アイファに警戒しているのかフェニィはご機嫌斜めだったので、ここぞとばかりに褒め殺しで紹介してしまう。

 そのフェニィはといえば、ぎゅっと強く目を瞑って無言だ。

 ……ふふ、照れているらしい。


 最近はフェニィの感情表現がますます豊かになってきたので喜ばしい。

 これは犠牲を払った甲斐があったというものだ。

 そう、犠牲である。


 フェニィを『せい、せい!』と持ち上げたせいだろう、ルピィとセレンは少し――いや、かなり険しい空気を放散しているのだ。

 というか、なぜかアイファすらも不機嫌丸出しの眼で僕を睨みつけている。

 フェニィを褒めすぎたのでアイファの自尊心を刺激してしまったのだろうか。


 おっと、セレンから人体に優しくない魔力が漏れ出している。

 ……食堂で近くに座っているおじさんの具合が悪そうだ。

 まだ意識喪失レベルの漏出量ではないが、放っておけば食堂内が大惨事になってしまうことだろう。

 これは可及的速やかに対処すべきだ。


「それからこっちが僕の妹のセレン。……可愛いだろ? しかも可愛いだけじゃなくて利発で聡明、加えて思いやりがある優しい子なんだ。軍国では大勢の部下に慕われている理想の上司なんだよ」


 セレンを褒め称えてご機嫌を取りつつアイファへと紹介してしまう。

 もちろんフェニィの時と同様、僕の発言には嘘も無ければ誇張も無い。


「部下……? 自分と瓜二つの妹をベタ褒めする神経は流石だが…………そ、そうか、アイスの妹か。わ、わたしはアイファ=ランズサイトだ、よろしく頼むぞ」


 指無し盗賊団に関する説明を端折(はしょ)ったせいか『部下』という単語に混乱していたアイファだったが、不思議にも緊張した様子を見せながらセレンに挨拶をした。

 きっと神格性を宿しているセレンの雰囲気に気後れしているのだろう。


「……セレン=クーデルンです」


 僕の懇願するような視線に応えてくれたのか、セレンは渋々ではあるがアイファに挨拶をしてくれた。

 ……無視しそうな気がしていたが、多少は機嫌を持ち直してくれたらしい。

 他人を完全に無視する事が多いセレンにしては上出来だ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、二二話〔守るべき純真〕

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