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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
二章 第一部 取り戻した平穏 
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八話 堂々たる婚活宣言

 色々あったが、もうすぐ僕も十九歳。

 そろそろ自分の事――いや、クーデルン家の事も考えなくてはいけない。


 そう、つまり〔婚活〕をすべき段階に来ているのだ!

 僕はクーデルン家の長男。血を後世に残す義務がある。

 しかし、待っているだけでお嫁さんがやってくるような事はあり得ない。

 僕のような人間が結婚を望むならば、こちらから動かなくてはならない……!


「――そうだ! 絶対結婚するぞ!」

「「ええぇっ!?」」


 おっといけない。

 つい気持ちが高ぶりすぎたせいで、熱い想いを口に出してしまったではないか。

 うむ……少し恥ずかしくはあるが、決意表明の一環と考えれば悪くないだろう。

 あえて周囲に宣言する事で、自分にプレッシャーをかけて自分を追い込むというわけである。


 僕の仲間が勢ぞろいしていたのは、タイミングが良かったのか悪かったのか。 

 驚かせてしまったのは申し訳ないが、これぐらいは許してもらいたいものだ。

 ……しかし、同室の仲間たちはあまりにも驚愕している。

 年齢を考慮すれば、僕だって適齢期と呼んでも差し支えないはずなのだが。


「あ、あ、アイス君、相手は……?」


 まだ動揺から立ち直っていないルピィが、それでも誰よりも早く僕に質問した。

 だが、いくら何でもうろたえすぎじゃないか……?

 ……いや、考えて見ればルピィたちだってお年頃じゃないか。

 仲間が先に〔独身卒業〕するかもしれない事態に、内心の焦りを隠せないでいるのだろう。

 僕の周りでは、フェニィ、シーレイさんの二人に続いて、ルピィ。


 そう、いずれも二十代前半である。

 十代である僕が結婚を口にしたことで、焦燥感を煽られてしまったに違いない。

 皆それぞれ破天荒なところはあるが……それを帳消しに出来るくらいに魅力的な女性たちなので、それほど心配する必要は無いと思うのだが。

 ――いや、この場合の問題はそこではない。

 仲間が不安を抱えているのなら、安心させてあげるのが僕の役目じゃないか! 


「相手探しはこれからだよ。帝国への旅の途中で見つけるのが目標だね。大丈夫、ルピィたちだって良い人がきっと見つかるよ。――頑張って! ファイト!」


 今後の抱負について語りつつ、ルピィたちの婚活についても応援する僕。

 僕に協力出来るような事は少ないとは思うが、仲間の幸せは全力でサポートしてあげたいものである。


 しかし、僕の温かい声援を受けたはずの皆の反応は冷たかった。

 というより、まるで感情が消えてしまったかのように僕を視界に入れている。

 特に顕著なのが、年長組の三人だ。

 唯一感情を見せているのはシーレイさんだが、ぎりぎりと歯ぎしりをしているところを見る限りでは、僕の応援に喜んでいる気配はしない……。


 だが、反応を見せているだけまだマシな方だろう。

 ルピィとフェニィに至っては――完全に〔無〕。

 いつ悟りを開いたのだろう、と言いたくなるぐらいに無感情な瞳をしている。

 僕の勘違いじゃなければ、ひどく気分を害しているように見受けられる。


 心から応援してあげたのに、一体なぜだろう…………いや、分かったぞ。

『頑張って』という言葉がいけなかったのだ……!

 うつ病の人に『頑張って』と声を掛けることは禁句だと聞いた事がある。

 つまり『ボク、こんなに頑張ってるのに……』という人に、気安く『頑張って』などと励ますのは――さらに追い詰める事になってしまうからだ。


 ……僕が気付かなかっただけで、彼女たちは〔婚活〕に励んでいたに違いない。

 何度も婚活パーティーに参加してみても、中々理想の相手に巡り会えない現状。

 そんな心を病みかけている時分、よりにもよって年下の仲間からの『頑張って』

 そう、上から目線にも取れる励ましだ……!


 さぞ心を傷付けてしまったことだろう……僕はなんて罪深い人間なんだ。

 軽々しく応援したばっかりに、彼女たちの精神を追い込んでしまうとは……。 

 後悔と慚愧に襲われて言葉を失っていた僕だったが、先の発言を聞き逃せないとばかりに留守番組の二人が僕を追求する。


「坊ちゃん! 帝国へは結婚相手を探しにいかれるのですか!?」

「おにぃちゃん!」


 僕を糾弾するように迫ってくるのはシーレイさんとジーレだ。

 しかし、思い返せば誤解されても仕方がない。

 研究所を潰しに行くのが主目的とはいえ、事のついでに嫁探しもしようなどと目論んでいたのだから。


 これでは帝国に〔女漁り〕に行くつもりだと誤解されてしまうのも、無理からぬ事ではないか。

 ただでさえ留守番扱いに不満を表明していた二人からすれば、これほど不愉快な話も無いはずだろう。

 ここは一刻も早く誤解を解かなくてはならない。

 

「ち、違うよ、僕は――」

「――そういえば、アイス君は民国でプロポーズされてたね。いやぁ、モテモテで羨ましいなぁ〜〜」


 なっ!?

 僕の弁解にカットインしてきたのは、火に油を注ぐような発言だった。

 ルピィは嘘を吐いているわけではないが――相手は〔男〕じゃないか……!


 民国の英雄こと、空神のジェイさん。

 同じ男でありながら僕に結婚を申し込んできた剛の者だ。

 僕にとって良い友人ではあるのだが、それ以上ではない。


 しかし、これはまずい。

 ルピィの悪意溢れるやっかみ発言によって、留守番組ばかりか、セレンやフェニィからも危険極まる魔力が溢れだしているではないか。


 ――僕は自身に迫りくる脅威を分析する。

 現状、この中で一番危険なのはシーレイさんだろう。

 目が血走っていることからも、逆上して無意識の内に〔血術〕を行使していると推測できる。


 シーレイさんが覚醒してしまったからには、無傷で切り抜けるのは困難だ。

 僕の骨が――いや、場合によっては生命が危ない……!

 この状態のシーレイさんに対話が通じた試しはない。……間違いなくルピィも妨害してくるだろうから尚更だ。

 どうする、どうするべきなんだ? 

 そうだ、僕の救世主であるレットはどうしたんだ……?


 ――――いない。

 あの薄情な男は、さっきまで磨いていた盾をそのままに部屋から消えている。

 あいつめ……〔救世主〕の称号を剥奪してやる!

 しかし、これでは八方塞がり。四面楚歌だ。

 何か手を打たねば、手を折られるぐらいのことは避けられない。


 …………あ! 活路はあった!

 今この時こそ、ここ最近の特訓の成果を発揮する時ではないか。

 僕は八方塞がりではない、まだ――〔窓〕がある!


 僕らの居室は王城の上層階。

 開け放たれている窓からは青空が見えているのだ。

 もちろん、ただ窓から飛び降りるだけでは駄目だ。

 重術を行使すれば、落下の衝撃からは免れることが出来るだろうが……執念深いルピィたちが妨害工作を行わないとは思えない。


 落下する僕に向けて、ルピィによる()()が行われるのは確定的に明らかだ。

 とても仲間に対して取る行動ではないが、ルピィならば躊躇うこと無くやってのける事だろう。

 仮にルピィの魔弾を防いで地上に降りたとしても、問題は何も解決していない。

 ……部屋に戻った時に折檻されてしまうだけだ。


 つまり僕が取るべき行動とは、理不尽に攻撃されないように一定の距離を保ちつつ、仲間たちに冷静さを取り戻させるべく説得をする事である。

 そしてその答えは、窓に――〔空〕にある!

 ――僕は一瞬の隙を突いて、開かれた窓に身を踊らせた。


「「えっ!?」」


 高層階の窓から迷いなく飛び出すとは予想していなかったのだろう、仲間たちの驚く声が背中から聞こえた。

 ふふ……しかし驚くのはここからだ、刮目せよ!

 空中へと身を投げ出した僕は、既に〔術〕の発動を終えていた。


 その術とは――〔空術〕……!

 空神のジェイさんが得意とする、空を自由自在に飛べる術だ。

 重術では重くするか軽くするかのみだが、この空術ではまさに自由。


 初めて空術を目にした時以来、いずれ僕も体得しようと心に決めていたのだ。

 そして遂に先日、鍛錬が実を結んで僕にも行使可能となったのである。

 いつ仲間たちに披露するか考えていたが、そのタイミングは今を置いて他には無いだろう。


「――にゃっ!?」


 ばたばたしていたせいでフードのマカを起こしてしまったらしい。

 ――昨晩のマカは夜更かしして遊んでいたせいか、いつものように危険を察しての離脱に失敗していたのだ。

 いや、マカもこうなる事を本能で理解していたのかもしれない。


 今や僕らの周りには危険など存在しないのだ。

 マカも目が覚めたら〔空の上〕ということで最初の内こそ怯えていたが、持ち前の高い順応性を発揮したのか、あっという間に調子に乗って僕の頭の上に移動している。


「にゃ、にゃにゃ!」


 マカは興奮した鳴き声を上げながら、僕の頭をポコポコ叩いている。

 空中浮遊を楽しんでもらえているようで嬉しいが……僕としては当初の目的を忘れてはならない。

 ジェイさんのようにとはいかないが、すーっと窓辺の近くまで僕は飛んでいく。

 そして、まだ呆然としたまま窓辺に立っているルピィたちに、僕は安全圏にいたまま余裕の言葉を届ける。


「やぁ皆、驚いたかな? これでお互いに落ち着いて話が出来そうだね。特にルピィ――きみだ! 空術を会得した僕には、今までのように横暴な真似は通じないぞ!」


 危害を加えられる恐れが消えて、いつも以上に強気になっている僕。

 もちろんそれでも油断することなく、ぎりぎりで声が届く程度の距離だ。


 ――ガンッ!


 おっと、危ない。

 ルピィめ、事前警告も無しにいきなり投擲を仕掛けてくるとは……予想に違わぬ乱暴ぶりではないか。

 しかし、僕の方が一枚上手だ。


 こんな事もあろうかと、部屋を飛び出す直前に〔レットの盾〕を掴んできていたのだ……!

 今の僕は、レットに守られているのである!

 ルピィの投擲術による狙撃は脅威だが、盾を持って防御に集中していればどうという事はないのだ。


 しかしよく見ると、ルピィが投げてきたのは小石ではなく〔鉄球〕ではないか。

 最近ルピィが鍛冶屋に出入りしていると思ったら、こんなところで戦力拡張を図っていたとは……。

 なにより恐ろしいのが、こんな物を迷わず僕に投擲してくるその精神性だ。

 これは一言言ってやらねばなるまいて。


「危ないじゃないか()()()()。そんなにお転婆では嫁の貰い手が見つからないよ、はははっ……」


 空に浮いているという開放感が、かつてないほどに僕をハイにしていた……!

 いつもやられっぱなしのルピィに一泡吹かせるチャンスなのだ……この機を逃すわけにはいかない!


 そう、今の僕は〔王都の風〕!

 王都の空は――僕の庭!! 

 頭の上のマカが「やめるニャ!」とばかりに、僕の額を掴んで後ろに引っ張っているが、もはや手遅れだ。

 もう僕は疾風(はし)りだしているのだ……!


「…………」


 僕のあからさまな挑発にもルピィは無言だ。

 ……ルピィは本当に怒ると無言になる性質を持っているのだ。

 今更ながら僕は不安になってしまう……これは刺激しすぎただろうか?


 いや、大丈夫だ。

 ルピィがどう足掻いたところで、今の僕は〔空の旅人〕。

 何者にも束縛されない自由な存在なのだ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、九話〔メテオインパクト〕

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