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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第七部 王城陥落
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百九話 終わっていた会議

 現場の盛り上がりが最高潮に達した頃、炎術の火柱は時間経過で消えてしまい、僕の感情も沈静化してきた。

 人間という生物は、火を見ると原初の本能により気分が高揚すると聞くが、あれは本当だったようだ。

 思わず目的を忘れるところだった……危ない危ない。

 勢いがつくと止まらなくなるのは僕の悪い癖だ、自省しよう。


 しかしフェニィも上機嫌で意気揚々とした瞳をしている事であるし、このお祭り騒ぎにはたしかに意味があった。

 何を隠そうフェニィ自身は寡黙なのだが、これで意外に騒がしい空気を好んでいる傾向があるのだ。

 フェニィもご機嫌で、王都の人々もますます僕らに好意的となった。

 炎が消えるまでの時間潰しとしては有意義な時間であったと言えるだろう。


 ――僕は群衆に手を振りながら、不落門のあった場所を抜けていく。

 もうここまでくれば嫌でも分かる――父さんは、王城の中にいる。

 父さんほどの存在が、気配も魔力も抑えていないのだ。

 僕に分からないはずがない。


 あまりにも懐かしい感覚に、すぐにでも駆け出して行きたくなってしまう。

 ……しかしまだ早い。

 父さんの気配は王城の上部から――おそらくは〔玉座の間〕辺りだろう。

 だが父さんの元に一直線に向かう前に、片付けなければならない障害がある。


 ――そう。

 そこに行くまでに、まず第五軍団を――影神と迷神を片付けなければならない。

 解術の行使中に邪魔をされようものなら、厄介な事この上ないのだ。


 影神たちは父さんと一緒に待ち構えている可能性もあるが、慌てる必要はない。

 ゆっくりと外堀を埋めながら、確実に攻略していけばいいのだ。

 あの日から十二年。十二年も待ったのだ。

 ここまで来て、急いて事を仕損じてしまうのは愚かの極みである。

 それにしても――


「本当に戦力を分散するの……? 一緒に行動すれば良いと思うんだけど……」

「まだ言ってるのアイス君? 王城の中は広いんだから、固まって行動してたら効率が悪いでしょ」


 シーレイさんの発案で、王城内では別行動をしようという話になったのだ。

 たしかに王城は広い。

 大きな堀に周囲を囲まれている王城は、その広大な敷地内に、城だけではなく様々な施設を有している。


 シーレイさんの話では、城の左右にある〔東塔〕か〔西塔〕のどちらかが第五軍団の根城になっているらしいので、それらを手分けして潰していこうという訳だ。

 僕らの戦力は明らかに過剰の域にあるので、パーティを二つに分けたところで危険に陥ることはあるまいが……。


「せめてマカをこっちにしてくれないかな? まだ少し心配なんだ」


 僕の知らないところで話が(まと)まっていたらしく、既にパーティ分けについても、僕以外の全員に知らされていたのだ。

 いつもは僕と同じ〔疎外組〕のレットも事前に聞いていたようなので――僕だけがハブにされていたのだ!


 その組み合わせはと言えば、〔ルピィ・セレン・シーレイさん・マカ〕と〔僕・レット・フェニィ・ジーレ〕の組み合わせだ。

 どちらにも神持ちが三人以上いるので、戦力的には申し分ないのだが……僕とレットがいないところにマカを送り出すのは不安過ぎる。

 帰らぬ人、いや、帰らぬ猫となりそうなのだ……。


「にゃぁー」


 当のマカは僕の足の間をぐるぐる回っている。

 ……何を伝えたいのかさっぱり分からないが、怯えた様子もないのでネガティブな意味合いは無さそうだ。

 ポジティブに受け止めるなら、「心配するニャ」というところだろうか……?


 最初にパーティ分けを聞いた時は渋っていたマカだったのだが、ルピィに何かを囁かれてからは、嫌がる素振りも見せずに素直に従っている様子だ。

 いつものように恫喝していた形跡は見られないので、マカを上手く言いくるめたようだが……ルピィは何を言ったのだろう?


 影神たちの襲撃撃退以降、セレンたちのマカへの敵意がかなり薄らいだ気がしているので、よもやマカに危害を加えるとは思わない。

 しかし、最近は片時も離れずに過ごしていたので、少し寂しい想いがあるのだ。


「にぃさま。我々が二班に分かれる以上、遠目にも異常を伝えやすいマカの〔雷術〕とフェニィさんの〔炎術〕は緊急連絡手段として最適です。これらは二班に分けるべきでしょう。マカとフェニィさんを入れ替える、ということでしたら問題ありませんが」


 うっ……道理にかなったセレンの意見に反論が難しくなる。

 そもそも僕は分断反対派なのだが、それを言っても始まらない。

 そのことは、もう皆の中では決定事項なのだ……。


 マカとフェニィの入れ替えとなると、フェニィが僕の傍から離れることになる。

 僕に対して過保護な所があるフェニィを説得出来るだろうか……?


 ――いや、無理だ。

 フェニィはそんな選択肢など、考慮の対象にすらなっていないのだろう。

 僕とセレンの会話する横で、我関せずとばかりに超然と立っているのだ。

 ……とても説得出来る気がしない。


 なにより、本来は嫌がりそうなはずのマカがこの事態を容認しているようなのだ。……これ以上僕から言えることは無さそうだ。

 僕は一抹の寂しさを感じながらも、マカに声を掛ける。


「無理はしちゃ駄目だよ、危なくなったらすぐに逃げてね。……セレンたちをよろしくね」

「にゃぁぁ~~~」


 足元から僕を見上げながら、ヤル気があるのか無いのか分からないような鳴き声をあげる。 

 うん、多分「任せておくニャ」と言ってくれているのだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、百十話〔軍国の闇〕

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