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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第七部 王城陥落
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百八話 不落門攻略

「アイスちゃんたち、今日は王城を攻めに行くんでしょ? 上手くいくように、ほら――今朝はカツ丼とトンカツだよ!」


 宿のおばさんの暖かい声援に送られて、僕らは宿を発った。

 ……朝から重い献立でも、僕の仲間には食事にケチを付けるような人間はいないのだ!


 昨晩は、フェニィとシーレイさんが食堂を破壊し、夜中には宿に大穴を開けてしまう事態になってしまったが、おばさんは僕らに好意的だ。

 将軍が打倒されるのを期待している面もあるだろうが、それだけではない。

 そう――金にモノを言わせたのだ……!


 当初おばさんは、宿の惨状に泣きそうな顔をしていたが、修理費用や迷惑料として大金を握らせたところ、この世の春が来たように上機嫌になったのだ。

 もちろん資金はナスルさんのポケットから出ている……ナスルさんのポケットはデッカいのだ!


 ――そして、これは先行投資とも言える。

 この宿は王都でも一番の宿。……ここでナスルさんの気前の良さをアピールしておけば、口コミでナスルさんの評判が良くなるというものだろう。

 もちろん僕も盛大にナスルさんを持ち上げた――


「ナスルさんが王様になれば、景気も良くなって売上も倍増しますよ。そう――ナスルミクスですよ!」


 これで王都でのナスルさんへの期待は膨らむばかりであろう。

 政権交代後のフォローまでしてしまうとは……僕はもっと褒められて良いのではなかろうか?


 ――――。


 ――僕らが王城に討ち入ることは話題になっていたのだろう、王城の周りには人だかりが出来ていた。

 なんだかお祭りみたいな雰囲気だが、人々が応援してくれているようで素直に嬉しい。

 さて、そんな僕らの眼前には、閉ざされた王城の正門、通称〔不落門〕がある。

 その名の通り、建造されて以来、外敵の侵入を許していない難攻不落の門だ。

 門というよりは小さな砦のようなものだろう。

 閉じた門の上部から、兵士たちが矢を射掛けてきたり、槍を突き出してきたりするような、攻め手にとって大変面倒な門なのだ。


 まずは礼儀として「開けてくださ〜い!」と、僕は開門の呼び掛けをしてみるが、返答代わりに矢の雨が降ってくる――さささっと矢を掴み取り、僕は再び安全圏へと戻る。

 ……残念だ、実に残念だが仕方がない。


「よし――フェニィ先生、お願いします!」

「……いいだろう」


 そう、フェニィの出番だ。

 狙い打つのは不落門。

 僕の要請を受けたフェニィは舌なめずりをしそうなぐらいに楽しみそうである。

 フェニィが不落門の方へ手を翳す――


 ――ドゴォン!


 うん、ちゃんとお願いした通りに正門だけを焼いている。

 いつぞやの領主屋敷みたいに王城ごと焼失させてしまうと、僕の父さんも犠牲になってしまうのでハラハラしていたのだ。

 今のフェニィなら火力の調整も可能だが、今回はあえて空まで突き抜けるような火柱にしてもらっている。

 ――もちろん、王城に残っている兵士たちの戦意を削ぐ為だ。


 不落門にいた兵士たちは炎術に巻き込まれてしまったが、こればかりはやむを得ない。

 事前に呼び掛けを行ったのもあるが――なにより、この局面でまだ将軍側についている時点で救いようがない。


 もう現時点で、大多数の兵士たちがナスル軍に投降、あるいは軍を脱走しているのである。

 今もまだ将軍側についている人間ともなれば、ナスル軍に受け入れられないようなスネに傷を持つ人間か、今の生活を捨てることが出来ない――現実が見えていない人間だ。

 中にはネイズさんのように忠義心で残っている者もいるだろうが、いずれにせよ覚悟を決めた人のはずだ。……遠慮は無用であろう。


 ――難攻不落の不落門があっさりと大炎上しているので、正門周りの群集は大騒ぎだ。

 中には腰を抜かしている人もいるが、お祭り好きの王都民だけあって花火でも見ているように興奮している人が多いようだ。

 そうだ、僕もこうしてはいられない。

 僕はやるべき事をやらなくてはならないのだ……!


「素晴らしい、パーフェクトだよフェニィ! おめでとう! 本当におめでとう!!」


 ――そう、フェニィを褒めてあげなくてはならない!

 フェニィは依頼された仕事を完璧に果たしたのだ。

 正当に評価してあげるのは当然の事なのだ……!


 僕は喋っているうちにどんどん気持ちが高揚してしまい、フェニィと力強く握手をしながら称賛の言葉を贈り続ける。

 何故握手をしているのか、何が『おめでとう』なのか、言っている僕にもよく分からなかったが――とにかく褒める!


 何故かルピィとシーレイさんも握手を求めてきたので、もちろん握手に応じる!

 さらにジーレとセレンもなんとなく握手をしたそうだったので、もちろん握手をする!

 仲間外れは良くないので、嫌そうなレットやマカの手を無理矢理取って、こちらも強引に握手をする!

 勢いのままに、見知らぬ群集の人たちともどんどん握手をしていく――もうなにがなんだが分からないぞ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、百九話〔終わっていた会議〕

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