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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第七部 王城陥落
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百四話 密やかな共感

「――坊っちゃんっ! ご無事ですか!?」


 外で待機してもらっていたシーレイさんが来てしまった。

 空に打ち上げられていた僕を遠目に目撃して、心配してくれたのだろう。

 僕は内心の動揺を押し殺しつつ、屋根からふわりと飛び下りる。


「ご心配おかけして申し訳ないです……その、ちょっとした、王都の皆さんへの挨拶、みたいなものですので、ご安心を」


 まさか胴上げされていたとは言い出しづらかったので、つい言葉を濁してしまう。

 将軍を倒した訳でもないのに何をしているんだと怒られてしまう……。

 ……しかしそんな僕の心情を無視して、ルピィがよからぬ事を吹き込む。


「シーレイさん? 大丈夫だよー、いつものようにアイス君が女の子をナンパして、いつものように成功してたから、お祝いしてあげてたんだよー」

「ぼ、坊っちゃんが女の子を……!?」


 ルピィが嘘八百をシーレイさんに吹き込んでいる!

 なんてことを、なんてひとに言うのだ。

 僕に猛獣をけしかけようとしているようなものだ!


 独占欲が人一倍強いシーレイさんは、僕にレットという友達がいる事すら気に食わないようだったのだ。……姉のような存在として、僕の交友関係も管理されていたのである。

 それなのに、僕が日常的に軽薄な行動を取っているなどと誤解されれば……。


「な、何を言ってるんだよルピィ。僕は女の子をナンパなんて、しようと思った事すらないよ」


 シーレイさんは肩をわなわな震わせながら、血気盛んな様子で僕に詰め寄る。


「坊っちゃん、本当ですね!? 本当なんですよね!?」


 僕が応えるより早く――ホラ吹きルピィが口を挟む。


「そんなのウソウソ。アイス君は目を離すと――いや、目を離さなくても、ボクらの目の前で堂々と女の子を口説くんだから!」

「わ、私が近くにいなかったばかりに、坊っちゃんが女たらしに……!」


 シーレイさんが僕の両肩をガッチリ掴んで興奮している……これはまずい!


 ――ボギッ。


「っ……」


 僕の両肩は()()()()()()()

 シーレイさんは身体能力特化の加護を持っており、興奮すると強大な力のセーブが出来なくなるのだ!


「ああっ……坊っちゃん! 申し訳ありません、私は、また……」


 シーレイさんは泣きながら僕の胸に縋り付いている。

 僕も痛みに泣きそうだったが、ここで涙を見せるわけにはいかない。……シーレイさんをますます悲しませてしまう。

 粉砕した肩の痛みより、シーレイさんの泣き顔を見ている方が、胸が苦しくて、胸が痛くなるのだ。

 シーレイさんの言葉からも分かるように、こんなことは初めてではない……そう、どうということは無いのだ!


「大丈夫ですよシーレイさん、こんなのはかすり傷ですから! ほら、泣かないで、笑っていてください」


 僕は腕が動かせないので、顎でシーレイさんの頭を優しくトントンとつつく。


「…………坊っちゃん」


 シーレイさんは少し落ち着きを取り戻したようだが……僕の仲間たちの反応は様々だ。

 ルピィは、面白がって煽った結果が、まさかこんな事になるとは予想していなかったらしく、僕の肩が砕けた時にはいつになく動揺していた。

 そして今は、僕らを見ながら何かを言いたそうに口元をもにもにさせている。

 ……いつも歯に絹着せない、舌鋒鋭いルピィには珍しい。


 セレンの状態は一番分かりやすい。

 僕の両肩を砕いたシーレイさんを、今にも殺しそうな眼で見ているのだ……。

 この面子では最も危険な状態にあるので、僕は「大丈夫だよ」と、柔らかい視線でセレンに伝えている。


 ジーレは、肩を砕かれてぷらぷらしている僕の腕を、好奇心の宿った瞳で面白そうに見ている……前々から感じていたが、この子が一番危険な存在な気がする……。


 常と異なる反応を見せているのはフェニィだ。

 僕が今まで見たことのない瞳で、シーレイさんを凝視している。

 見たことはないが僕には分かる、あれは――共感だ。


 出会った当初のフェニィは、自分の力を持て余していた。

 そして、些細な事で他人を殺傷してしまう自分を嫌悪していた。

 フェニィとシーレイさんは似ているのだ。

 二人とも身体能力が高過ぎるが故に、自身の意図に反して人を傷付けてしまう。


 今となってはフェニィは活き活きとして人を切り刻む…………フェニィを肯定していく僕の方針は正しかったのか不安になるが、フェニィが暗い顔をしているよりはずっと良い。


 ――ちなみにシーレイさんがやってくるのと同時に、王都の人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っている。

『狂犬のシーレイだ!』という声が僕の耳に聞こえたので、人々がいなくなった理由も、シーレイさんの王都での立ち位置もよく分かった……。

 しかし反乱軍である僕たちが歓迎されているのに、王都を守るべきシーレイさんが恐れられているのはどうなんだろう……?


「――ともかく、王城に動きは無いことだし、王城を攻めるのは明日にしないかな? 今日は王都の宿でのんびりしようよ」


 僕の砕けた肩は、治癒術を行使すれば明日には快復しているだろうという事で、今日は諦めて明日にしようと皆に提案した。

 腕の治療の為に王城攻略を遅らせるという事など、わざわざ口にはしない。

 シーレイさんが責任を感じるかもしれないのだ。


「いいねぇ。王都の宿は初めてなんだよね。ナスル王のお金で一番いいとこ泊まろうよ!」


 僕の意図を汲んでくれたのであろうルピィが、すぐさま僕の意見に飛び付いた。

 ……後半の台詞が引っ掛かるが、必要経費という事にしておこう。


 皆も諸手を上げて賛成してくれたので、こうして僕らは最終決戦前の休息を取ることとなった。……ナスルさんとナスル軍は王都の外に駐留したままであるが。

 指無し盗賊団の人に伝令に行ってもらって許可は得たが、伝令の人は一体どうやって説明したのだろうか……?


明日も夜に投稿予定。

次回、百五話〔蠢く殺害計画〕

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