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神の女王と解放者  作者: 覚山覚
第七部 王城陥落
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百三話 遅れてきた胴上げ

 シーレイさんの尽力もあってか、第一軍団はつつがなく武装解除を行い、そのままナスル軍へと併合された。

 いよいよ王都入りとなる訳だが――全軍で入る訳にもいかないので、主だったメンバーのみでの王都入りとなっている。

 具体的には、いつもの僕らのメンバーに加えて、〔指無し盗賊団〕の人間を数十人だけだ。

 もはや数が必要な段階では無いのだ。

 僕らだけで戦力は十分なのだから、信頼出来る人たちを厳選して連れていく方が理に適っているという訳である。


 この時点で僕にとって――既にナスル軍は仕事を果たしてくれたと言える。

 元々戦力的には、僕らだけでも父さんを救って将軍を打倒することは可能だったであろう。

 だが、少数のみで、後先考えずに将軍を排除するのは問題が多い。

 曲がりなりにも将軍は一国のトップなのだ。

 ただ将軍を殺害するだけでは、その後軍国が不安定になるのは明白だ。


 そこでナスルさん――いや、ナスル軍だ。 

 僕がナスル軍に期待しているのは純粋な戦力ではないのだ。

 ナスル軍には、民衆が自主的に参加している兵――民兵が多い。

 そう、巨大に膨れ上がったナスル軍は、その存在そのものが将軍の治世に〔否〕を分かりやすく突きつけていると言えるのだ。


 僕らだけで将軍を打倒しても、それはただの暗殺でしかない。

 だがナスル軍が僕らの背後に存在するならば、それは〔民意の成就〕ということになるのである。


 ナスルさんはポトの街の領主として高い実績を残している。

 ナスルさんであれば軍国の〔次代の王〕として、より良い国へと導いてくれることだろう。

 僕らとしては、父さんを救い出すついでに前時代の遺物の掃除をするだけなのだから気楽なものである。

 後のことは、全てナスルさんに一任すれば良いだけなのだ……!


 ――そんなわけで、堂々と王都に乗り込んだ僕らだったが、王都は戦時下にあるとは思えないほど活気に満ちていた。

 ……というか、僕らは圧政からの解放軍のように大歓迎されてしまっている。

 パレードをしている訳でもないのに、公道の左右には人垣が出来るほどの熱狂ぶりだ。

 まだ将軍を倒した訳ではない――将軍は王城の門を閉ざしたまま、不気味に沈黙を保っているのだ。


 そして観察する限りでは、どうやら王都の人々は武神の息子である〔僕〕の存在に沸き立っているらしい。

 ……残念ながらセレンは、生まれてすぐ王都を出たので知名度が低いようだ。

 そう、僕はナスル軍内では避けられがちだが、ポトの街でもそうだったように、この王都でも街の人々の評判は上々なのだ……!


『……本当にアイス君じゃないか!?』

『相変わらず女の子をいっぱい連れちゃってまぁ……』


 ……不名誉な話もちらほら聞こえてくる。

 まるで僕が〔女たらし〕みたいな言い草じゃないか。

 たしかに昔の僕は、街のお姉さんたちによく可愛がられていたが、皆の〔弟〕みたいなポジションだっただけだ。……よくお姉さんたちはシーレイさんに追い払われていたものだ。


 ここにシーレイさんがいなくて幸運だった。

 人間嫌いの彼女なら、迷うことなく群がる人々を蹴散らしていたことだろう。

 ……いや、猛獣のようだったシーレイさんも、今や立派な副団長だ。

 今の彼女ならそれほど無体な事をしない……と信じたい。


 現在はナスル軍と第一軍団が合流したばかりなので、第一軍団の代表であるシーレイさんには王都の外で待機してもらっている。

 王都への同行を強硬に主張するシーレイさんを説得するのは骨が折れたが、万の部下を持つ彼女をほいほい連れ歩くのはまずい。

 環境が変わったばかりで第一軍団はまだ不安定なのだ。

 シーレイさんには、兵士さんたちの心の支えになってもらわなくてはならない。


 将軍は王城に立て籠もっている――もはや袋の鼠だ。

 あとは僕らだけでも十分なのだ。

 ナスルさんの護衛もロブさんだけに任せて、何かと頼りになるレットにも同行してもらっているので尚更である。


「――あの……ファンなんです。握手してもらっても良いですか……?」


 僕と同年代の娘さんに握手を求められてしまった……!

 これはすごい……今が僕の全盛期だ!

 この勢いを活かせば、宿願だった〔同年代の友達〕がたくさん出来るのではないか……? 


 なにしろ僕には普通の友達がいないのだ。

 周りは全員〔神持ち〕で、おまけに揃いも揃って変わり者揃いだ。

 変人ばかりではなく、まともな友達もほしいという僕の想いは責められることだろうか?

 いや――責められない!


 僕は必死な想いを胸に潜め、愛想良くにこやかに微笑みながら握手をする。


「こんにちは。あなたのような美しい方にファンだなんて言ってもらえて光栄ですよ」


 歯の浮くようなお世辞も言ってしまい、ガッシリ心を掴みにかかる!

 娘さんは頬を上気させてすごく嬉しそうだ……よし!

 軍団の説得といい、僕の会話スキルはかなり高くなっているのではないか?

 僕の会話術はもはや神懸かっている――神ってる!


 ――ドンッ!


 突然、公道に不躾な破壊音が鳴り響く。

 ……フェニィだ。

 どうやら石畳を踏み鳴らそうとして破壊してしまったようだ。

 ふむ、僕らは王城に行く途中だったので「早く行こうよ!」と合図をしようとして、力を入れ過ぎたのだろう。


 そうだ、目的を忘れてはいけない。

 ようやく普通の友達が出来ることに浮かれていたようだ。 

 僕は自省しながらフェニィに声を掛ける。


「ごめんごめん、もうちょっとだけ待っててね――連絡先だけ聞いちゃうから!」


 この機をみすみす逃す僕ではない。

 一期一会の心構えが大切なのだ……!


「――あははっ、あはははははは……!!」


 突然笑い出すルピィ。

 ルピィはどうしたのだろうか?

 ……そして何故、マカはフードから飛び出して逃げてしまったのだろう?

 マカはレットの後ろで、体を小さくするようにして隠れている。


 急に仔猫がフードから飛び出してきたから、周囲の人々も言葉を無くして当惑しているではないか。……まったく困った仔猫ちゃんだ。

 しかしそれにしてもルピィだ。

 面白い事があったわけでもないのに、一体どうしたのだろう?


「どうしたの、ルピィ……?」

「いやぁ、アイス君は、相変わらず……オモシロイなぁってね」

「そう? どうもありがとう」


 よく分からないながらも、とりあえずお礼を言う僕。 


「ふふっ、ふふふ……本当にオモシロイなぁ。……そうだ。アイス君の胴上げやってなかったよね。やろうよ――今」


 ……胴上げか。

 僕がネイズさんに勝利した直後は、とてもそんな空気では無かったが……今はもう機を逸しているのではないか?

 それに今は、友達候補と交流を深めている最中だ。

 もう少しタイミングというか、こう、空気を読んでほしかったな……。


 僕が思考している間に、フェニィもセレンもジーレも――まるで犯罪者を連行するかのように僕を強引に引っ張っていく。

 うむ。仲間の「祝いたい!」という気持ちが伝わってくるようだ。

 こうなれば言葉に甘えようではないか……!


 他人の振りをしてやり過ごそうとしていたレットも加わり、観衆を置き去りにしたまま僕の胴上げが始まった。


「それ――わっしょい、わっしょい、わっ、しょい!」


 示し合わせていたように三回目の胴上げで、僕の身体は――天高く打ち上げられた!

 おおっ、下方に王城が見えるとは凄い景色だ。


 しかし僕の事を祝ってくれるのは嬉しいのだが、どうやら力加減を間違えているらしい。

 このままの進路で落下すると――民家の屋根に墜落するではないか!


 だが、僕は経験を蓄積して学習する男だ。

 以前、温泉地ビズで、雲まで打ち上げられて着地に苦労したことがあったのだ。

 僕は苦手な事はしっかり克服する、日進月歩の志を持っている。

 ――当然、こうした場合の対策は検討済みだ。


 民家の屋根が急速に近付いてくるが、僕は焦ることもなく〔()()〕で自分の体重を操作する。

 そう、重術は重くするばかりではない――軽くすることも出来るのだ。

 しっかり重術を練習した甲斐あって、僕は一枚の羽根のように軽やかに着地を決める。

 僕が空に消えたことで殺人事件を目撃したかのように騒いでいた民衆も、自分の目を疑っているように瞠目している。


 地に足をつけた僕が軽く手を上げると、固唾を呑んで見守っていた人々から爆発的な歓声が上がった。

 ……そうか、そういう事か!

 これは仲間たちから僕に向けた()()()()()()()だったのだ……! 


 僕が屋根に墜落しそうになったのは、仲間たちが力加減を間違えた訳ではない。

 ――わくわくドキドキのパフォーマンスへの布石だったのだ!

 仲間たちによる味のある演出により、一躍僕は人気者になったという訳だ……!


 文字通り気の利いたトスに僕は感激していたが……それも長くは続かなかった。

 街の外から、猛牛のような存在が向かってくるのが見えてしまったのだ。


明日も夜に投稿予定。

次回、百四話〔密やかな共感〕

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